小惑星への1回目のタッチダウンを2019年に延期

宇宙航空研究開発機構(JAXA)は10月11日、小惑星探査機「はやぶさ2」の小惑星「リュウグウ」への1回目のタッチダウンを、当初の10月下旬の予定から、2019年1月以降へ延期することを決定したことを明らかにした。

これは、これまで行なってきた6回の降下運用の誘導実績やリュウグウ表面の状況などを考慮した結果から判断されたもの。津田雄一プロジェクトマネージャ(JAXA宇宙科学研究所 宇宙飛翔工学研究系 准教授)は、「当初の想定から、現状のリュウグウの状況が良く分かってきたことと、はやぶさ2の実力について、もう少し知る必要があるということで、プロジェクトとしては一度立ち止まる決断をした」と、説明する。

  • タッチダウンへの新スケジュール

    タッチダウンに向けた新たなスケジュール (C)JAXA

具体的には、これまでの観測から、着陸候補地店である「L08」およびバックアップの「L07」「M04」のいずれのエリアについても着陸安全性に支障のある50cm級を超すボルダー(岩塊)が多く存在していることを確認。かなり着陸に適した平坦な場所が少ないという結論を得たとするほか、高度約50mまでは10mほどの精度で誘導できることも確認されたが、1回目の降下リハーサル時に、リュウグウの暗さが想定以上であったため、LIDARのモード切り替えが上手くいかず、50mより低い高度での航法誘導精度がどの程度のものとなるのか、またレーザレンジファインダ(LRF)の特性はどのようなものかが、まだ良くわかっていないことから、決定されたもので、10月14日~15日に予定されていた2回目のリハーサルで、1回目で確認できなかった高度50m以下における航法誘導精度、ならびにLRFの特性評価の実施を行い、その結果を踏まえて、10月24日~25日にかけて3回目のリハーサルを新たに実施。そこで、改めての誘導精度の確認を行うほか、LRFのデータを元にした制御の実行を行なう。

また、3回目のリハーサルでは、当初は計画していなかったターゲットマーカーの投下も行なう予定。リュウグウが背後にある状態で、本当にターゲットマーカーをはやぶさ2が認識できるのかどうかについてもテストを実施。これらの結果を踏まえて、必要があれば、当初は使う予定ではなかったターゲットマーカーの位置を、一度上空から確認し、その座標から相対的に、どこに降下するかを決定するピンポイントタッチダウンの運用も検討していくとする。

これらのリハーサルの結果を踏まえた上で、11月中にタッチダウンを狙う、という考えもあったが、はやぶさ2は11月下旬から12月の間、通信不可の期間(合運用)に入るため、プロジェクトチームでは性急に判断するのではなく、この期間も含めて、先に降下している2機の小型ローバー「MINERVA-II」や、小型ランダー「MASCOT」から送られてきたデータと、リハーサルで得られたデータなどを含め、「さらにリハーサルが必要となるのか、着陸地点は本当にそこしかないのか、といった話や、それまでのリハーサルの結果なども踏まえて、こういった着陸方法もあるのでは、といった話も出てくるかもしれない」といった新たな可能性まで視野に入れ、話し合いを進めていきたいとしている。

幸いなことに、「リュウグウの温度環境が当初想定していた技術的なワーストケースよりも低いことが分かったことから、2019年5月ころまでしか着陸のチャンスがないといっていたのが、6月末くらいまで猶予ができた」と、スケジュールを後ろ倒しにしても、全体的な計画としては、問題がないこともあり、今回の決断に至ったとも言える。

  • 2回目のタッチダウンリハーサルのスケジュール

    2回目のタッチダウンリハーサルのスケジュール。高度40m程度までの降下が予定されているが、実際は25m程度まで降下することになるという (C) JAXA

直径20mのタッチダウン候補地

気になるタッチダウンの場所だが、当初の候補地点であった「L08」の中でも、直径20mほどの平坦な場所として判定した「L08-B」というポイントに絞られた。

  • タッチダウン候補地点「L08-B」

    L08の直径20m程度のエリア「L08-B」がタッチダウンの候補地として選定された。なお、Bと名称がついているのは、ほかに候補ポイントAなど、複数あったからとのこと (C) JAXA、東京大、高知大、立教大、名古屋大、千葉工大、明治大、会津大、産総研

直径20mということで、当初の100m四方のエリアのどこかに着陸できれば、という構想から難易度が跳ね上がった形だが、「難しくなっていることは確かだが、不可能な範囲ではない。(これまでの降下で)はやぶさ2の実力は把握しているし、ピンポイントタッチダウンという手法も考えてきた。年末までの時間で、降下精度を向上させるために、どこのどういった課題を潰していく必要があるかを考えていきたい」と津田プロジェクトマネージャーは、力強く語ってくれたほか、プロジェクトチームについても、「まったく新しい世界を探査するので、なにもかもが計画どおりに行くとは思っていなかった。いよいよリュウグウが牙を向いてきたと思っている。チーム全体として、これにどう立ち向かっていくか、意気が上がっている」と、高いモチベーションで運用が続いていることを強調していた。

  • L08-B
  • L08-B
  • L08-B地点の拡大画像 (C) JAXA、東京大、高知大、立教大、名古屋大、千葉工大、明治大、会津大、産総研

なお、はやぶさ2は、複数の地点へのタッチダウンを計画しているが、それについても、リハーサルの結果や、次々と送られてくるリュウグウのデータなどを含めて、タッチダウンの運用がどの程度の精度で実現できたのか、ということも交えて、今後、検討していきたいとしている。