英IHS MarkitのTeardowns and Cost Benchmarkingチームは、米国で販売されたAppleのiPhone XS Max(モデルA1921、NAND 64GB搭載)の分解調査を行い、BOM(bill of materials)コストを積算、390ドルと見積もられる結果を得たと発表した。この金額は、前世代のiPhoen X(64GB版)と比べて20ドルほどの上昇となる。
今回の調査対象となった64GB版iPhone XS Maxの米国での販売価格は1099ドルで、iPhone Xと比べると100ドルほど高い。また、64GB版のSamsung Galaxy S9+(モデル番号:SM-G965U1)のBOMコストは375.80ドル(IHS調査による見積もり)、小売価格が840ドルとなっており、部材コスト/小売価格の比率は約45%であるのに対し、iPhone XS Maxは約35%となっていることが分かった。
搭載された半導体のグレードが向上
IHS Markit モバイルデバイスおよびネットワーク担当主席アナリストのWayne Lam氏は「今年は、iPhoneのモデル名にSをつけて小規模な変更にとどめる年にあたるので、iPhone XS Maxは、2017年発売のiPhone Xと比べて物理的なデザインは大きく変化していない。しかし、半導体などのコアコンポーネントのほとんどがアップグレードされている。例えば、DRAMは前世代の3GBから4GBに増加している。アプリケーションプロセッサのA12はTSMCの最新プロセスである7nmプロセスで製造されており、LTEのフロントエンド設計に新たな周波数帯(バンド)が追加されている」と述べている。
もっとも高価な部材は有機ELの120ドル
iPhone XS Maxには、Samsung Display製の新しい6.5インチ有機EL(AMOLED)ディスプレイが搭載されている。 IHS Markitが得た情報によると、LG Displayは有機ELディスプレイが2次サプライヤに指名されているようである。タッチスクリーンを含むディスプレイ全体のコストは120ドルと見積もられ、これはiPhone Xの5.8型ディスプレイの価格とほぼ同じである。
同じディスプレイ面積で比べれば、有機ELの価格がいくらか低下していることを示している。また、今回の有機ELディスプレイのタッチオーバーレイのリフレッシュレートは120Hzで、iPhone Xのリフレッシュレートの2倍に引き上げられている。この点についてLam氏は 「新しいタッチスクリーンのリフレッシュレートは、3種類の新しいiPhoneすべてに共通するディスプレイの改善点である。リフレッシュレートを速くするとディスプレイとのやりとりがより滑らかでスムーズになるので、ユーザーエクスペリエンスが向上する」と述べている。
モデムはQualcommではなくIntel製
従前の予想どおり、iPhone XS MaxとXS用のモデムはIntel製となった。このモデムチップセットは、米国の4大通信事業者すべてをサポートする4×4 MIMO(Multiple-Input Multiple-Output)のギガビットLTEを搭載。グローバルなすべての無線周波数(RF)帯域をサポートするために、AppleはローカルなLTE周波数サポートのための交換可能なモジュール式スタックプリント回路基板(PCB)を実装している。これらのモジュール式PCBは、世界規模で5種類のiPhone XS Maxモデルを提供するための設計変更である。「ギガビットLTEへの移行は、AppleがAndroid系のフラッグシップモデルと同じ土俵で戦ううえで重要である」とLam氏は述べている。「AppleはIntelを唯一のモデムサプライヤに指名することで、在庫管理を簡素化し、eSIMの追加によりキャリア間の切り替えを容易にした」という。
部品コストの詳細を読み解く
IHS MarkitがiPhone XS Maxを分解して調査した詳細なBOM(部品コスト一覧表)を文末に掲載する。ただ、この表は細かすぎてわかりにくいので、その中から、主要な半導体デバイス/モジュールを抜き出して以下に示す。今年は、昨年から続くメモリバブルで、特にDRAM価格が高騰しているが、容量が3GBから4GBへ増加したこともあり、搭載されたメモリコストは40.75ドルと見積もられたほか、背面および前面のカメラモジュールの合計コストは37.60ドルと見積もられた。またA12プロセッサは、Apple独自の製品で市販品ではないが30.00ドルと見積もられた。加えて、RF・PAモジュールにおける、BroadcomやSkyworksの複数のチップの採用が目立つものとなっている。
半導体部品・モジュール名 | 部品構成・内訳、メーカーなど | コスト |
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カメラモジュール1) | 12Mピクセル・デュアル裏面照射CMOSイメージセンサ、7Mピクセル裏面照射CMOSイメージセンサなど | 37.60ドル |
アプリケーションプロセッサ2) | A12 Bionic SoC(4+2コアCPU+4コアGPU+8コアニューラルエンジン)。Apple製 | 30.00ドル |
RFチップセット3) | ベースバンドプロセッサ、RFトランシーバ、RF電源管理IC。すべてIntel製 | 17.00ドル |
電源管理IC | メインPMIC(Intel/Dialog Semiconductor/STMicroelectronics製)、ワイヤレス充電IC(Broadcom製) | 12.55ドル |
Bluetooth・WLAN | Universal Scientific Industrial製 | 7.00ドル |
メモリ4) | NAND(eMMC、MLCなど、64GB TLC。SanDisk製)、DRAM(4GB LPDDR4X。Micron Technology製) | 40.75ドル |
RF/PA | Broadcom製×3種、Skyworks製×5種、村田製作所製 | 15.50ドル |
ユーザーインタフェース | オーディオCodec(Circus Logic製)、NFCコントローラ(NXP Semiconductor製)、MCU(STMicroelectronics製) | 9.70ドル |
センサ | 加速度センサ、ジャイロスコープ(Bosch製)、ライトセンサ(ams製)、ほか | 1.15ドル |
iPhone XS Maxに搭載された主要半導体デバイス・モジュールの部品構成と製造メーカー、およびコスト (IHS Markit調査のBOM一覧表より抜粋して著者が作成)(注釈:(1)は分解調査では製造メーカーは特定できなかったものの、CMOSイメージセンサはソニーセミコンダクタソリューションズ製というのが定説。(2):Appleが設計し、TSMCが7nmプロセスで製造したというのが定説。(3):モデムには、伝統的にQualcomm製が使われ、近年はIntel製が併用されていたが、今年は、他社の分解結果でもIntel製のみ使われているようである。(4)DRAM、 NANDともSamsung Electonicsがトップメーカーだが、他社の分解結果でもSamsung製が使われていないことが話題になっている) |