宇宙航空研究開発機構(JAXA)は6月21日、小惑星探査機「はやぶさ2」に関する記者会見を開催し、同探査機が撮影した最新の画像を公開した。小惑星リュウグウのサイズはすでに100ピクセル近くにまで大きくなっており、クレーター状の窪みや、ゴロゴロした岩塊も確認可能。表情豊かな小惑星表面の姿が明らかになってきた。
ついにリュウグウまで100kmを切ったはやぶさ2
はやぶさ2は21日12時の時点で、リュウグウに約76kmまで接近。秒速40cmというゆっくりした相対速度で近づいている。これまでに、全10回の軌道制御(TCM)のうち、6回まで正常に終了。到着予定日はもう少し近づかないと決まらないものの、今のところ当初の「6月27日前後」のまま変更はない。
今回、新たに公開されたのは16枚の撮影画像。いずれもONC-Tで撮影したもので、最新のものは6月20日18:50頃の画像となっている。前回14日の会見で、すでにやや角張っていることは分かっていたが、これまでの観測により、自転軸が垂直近くに立っていることと、赤道部分が張り出した特徴的な形をしていることが明らかになった。
まず自転軸の傾きについて。これまで、リュウグウの自転軸は横倒しになっているという説が有力とされていたが、実際にはかなり垂直に近く、せいぜい10°程度しかないことが分かった。ただし、回転の向きは地球などと反対の逆行回転で、画像の上方向が南極、下方向が北極ということになる。
垂直の自転軸だと、はやぶさ2のホームポジション(太陽側に20km離れた地点)からの観測により、到着後短期間で小惑星の全貌が分かり、ミッションの計画が立てやすくなるというメリットがある。もし自転軸が横倒しだった場合、ホームポジションからだと最悪、しばらくはどちらか片側の半球しか見えないという可能性もあった。
しかしその反面、デメリットもある。はやぶさ2は太陽電池パドルを太陽に向けながら降下する必要があるため、自転軸が立っていると、着陸可能な地点は赤道付近に限られてしまう。横倒しの自転軸であれば、季節によって着陸できる地域は移動するため、さまざまな地点からのサンプリングが期待できた。
やや気がかりなのは、赤道部分が峰のように全周で張り出していることだ。傾きが大きい斜面への着陸はリスクが大きいため、着陸できる地点がかなり限定される恐れがある。今回の撮影画像では、まだ細かいところまでは分からないので何とも言えないが、到着後、解像度の高い画像が届くようになるとハッキリしてくるだろう。
今回の画像では、直径200m程度と推定されるクレーター状の大きな窪みも見つかっている。吉川真はやぶさ2ミッションマネージャは、「平らであれば、クレーターの底は着陸の候補地点になり得る。地下の物質が露出している可能性もあり、科学的に面白い」と、興味を示した。
一方、リュウグウの形について、今回分かったのは、球形ではなく、「そろばんの珠」のような形状であることだ。JAXAはこれを「コマ型」と表現。英語では"top shape"と呼ばれ、他にも似たような形の小惑星が見つかっているが、リュウグウがコマ型であることについては、「科学的にかなり意外だった」(吉川氏)という。
じつは、これまで見つかっているコマ型小惑星には、共通点があった。それは、比較的小型で、自転が速いこと。しかし、リュウグウはそれらよりやや大きめで、自転は7時間半と遅い。リュウグウ程度のゆっくりした自転でコマ型というのは極めて珍しく、サイエンスチームにとっては驚きだったという。
形成当初は球形でも、自転が速いと遠心力で細かい砂礫が赤道付近に集まり、コマ型に変化することが分かっている。自転が遅いリュウグウがコマ型だった理由はまだ不明だが、可能性としては、かつては自転が速かったのに、何らかの原因で遅くなった、という説が考えられるそうだ。
自転速度が変化する原因としては、「YORP(ヨープ)効果」が知られている。これは、太陽輻射圧や赤外放射による力が非対称に加わることでトルクとなり、回転が加速/減速するという仕組みだ。
吉川氏は、リュウグウを調べることで、「コマ型小惑星の形成過程が分かるかもしれない」と述べる。「コマ型小惑星の1つにはやぶさ2が行くことになったのは、科学的に大きな意義がある。今回の探査は非常に面白いものになるのではないか」と期待を膨らませた。