NECは5月21日、小惑星探査機「はやぶさ2」に関するグループインタビューを開催し、同社社会基盤ビジネスユニットの安達昌紀氏(主席主幹)と大島武氏(宇宙システム事業部プロジェクトディレクタ)がメディアからの質問に答えた。大島氏はNEC側のプロジェクトマネージャとして、はやぶさ2のシステム全体を統括する立場。
はやぶさ2は宇宙航空研究開発機構(JAXA)の探査機であるが、この開発に大きく関わったのがNEC。メーカーとして探査機全体の取りまとめを担当し、設計、製造、試験を実施。電源系、通信系、データ処理系など、多くのサブシステムについても担当しており、「やってないのは推進系くらい」(大島氏)だという。
同社は機体の開発だけでなく、運用の技術支援も行っている。これまで、イオンエンジンの運転や、地球スイングバイといった重要な運用を支援。まもなく始まる小惑星近傍での運用も支援する予定だ。大島氏は、「ハードウェアに関しては我々が一番良く知っている。ミス無く運用できるよう最大限サポートしていきたい」と意気込みを述べる。
小惑星近傍で、やはり難易度が高いのは降下運用である。初号機では、小惑星表面への意図せぬ不時着があり、燃料漏れという重大な事故も起きた。いくら初号機の経験があるといっても、まだ1回しかなく、依然としてリスクが大きいことに変わりは無い。地球から電波が往復するだけで数10分もかかるため、速やかに的確な判断を下す必要がある。
その降下運用への対策として、実施されたのがRIO(実時間統合運用)訓練だ。この訓練について、詳しくは過去記事を参照して欲しいが、運用支援者としてNECも参加した。
ある訓練では、仕込まれた不具合として、姿勢が急に狂い、リアクションホイールの回転数が上昇することがあった。初号機のこともあり、燃料漏れが疑われたが、各機器の状態を見て、リアクションホイールの異常であることを突き止めたという。「我々でないと判断が難しいところがある。そこをサポートしてきた」と大島氏は述べる。
小惑星サンプルリターンを難しくしているのは、未踏の地であるため、様子が到着するまでまったく分からないことだ。もし仮に、初号機のときの小惑星イトカワにもう一度行くのであれば、初号機よりは簡単になるだろう。地形は詳細に分かっているし、着陸できそうな場所があることもすでに知っている。
しかし限られた予算の中で最大限の科学的成果を得るためには、前回とは違うタイプの小惑星に行きたい。結果として、目的地は毎回、未踏の小惑星になってしまう。
RIO訓練が完了し、本番への手応えを聞かれた大島氏は、「万全と言いたいところだが、探査はどうしても行ってみないと分からないことがある」と指摘。「訓練よりもっと表面に凹凸があり、とても着陸できないかもしれない。事前に"絶対できる"とは言えないのが探査」とし、気を引き締めた。
ただ、小惑星到着前に、これだけ大規模な訓練ができたのは大きな強みだ。初号機のときは往路からリアクションホイールの故障などもあり、訓練どころではなかった。安達氏は、「小惑星では、その場の判断をたくさんしないといけない。今回時間をかけ、繰り返し訓練できたので、支援する立場として、落ち着いて対応できる」と成果を強調する。
初号機で発生した不具合に対しては、すべて2号機で対策済み。そのためここまでは極めて順調に来ており、その結果として訓練に十分な時間を割くことができた。運用スキルを磨けば、ミッション成功の可能性も高まる。この点では、初号機での経験が大きかったと言えるだろう。
安達氏は、はやぶさシリーズなどこれまでに開発した探査機の技術やノウハウを活かし、「将来の国際惑星探査に貢献したい」と述べる。「新たな潮流が生まれつつある。現在検討中の国際惑星探査にしっかり関わり、それを通じて、我々の宇宙利用ビジネスの競争力向上に取り組んでいきたい」と、宇宙探査による波及効果に期待した。