宇宙航空研究開発機構(JAXA)は6月14日、小惑星探査機「はやぶさ2」に関する記者会見を開催し、前回(6月7日)からのアップデートについて説明した。目的地である小惑星リュウグウへの到着予定日は6月27日のままで変更は無いが、最新の観測画像が公開されたほか、光学電波複合航法と衛星探索についての詳細説明が行われた。
記者会見については、こちらの記事も参照
「小惑星リュウグウまで約750km-順調に航行する探査機はやぶさ2」
いよいよ10ピクセルまで拡大!
前回、リュウグウはまだ3ピクセル程度にしか写っていなかったが、今回、6月13日に撮影したばかりの画像を公開。距離が約920kmに接近したことで、10ピクセル程度にまで大きくなっており、予想通り丸っぽい姿であることが確認できた。時間差をつけて撮影したほかの画像でも形は同様のため、細長い形状である可能性はほぼ排除できたという。
より詳しい形については、今後の解像度の上がった画像を待つしか無いが、吉川真はやぶさ2ミッションマネージャは、「サイエンスチームはみんな興奮していた。凹みがあるんじゃないかとか、さまざまな議論をしている」と現場の興奮ぶりを紹介。広報を担当する久保田孝氏は、「みなさんも一緒に形を考えて欲しい」とアピールした。
はやぶさ2は、小惑星表面に着陸し、サンプルを採取するのがミッション。地形によって難易度が大きく変わるため、想定通りであるのは安心材料だが、吉川氏は「初号機のイトカワでは、到着してみたら想定と全然違ったという経験をした。運用する立場からはあまり変な形でない方が良いが、科学者としては驚きがあった方が嬉しい」とコメント。複雑な胸中を明かした。
光学電波複合航法の仕組み
リュウグウまでの距離は、14日の時点で約750km。同日、化学推進系(RCS)による3回目の軌道修正(TCM03)を実施し、その結果、接近速度は秒速1.7m程度になった。TCMは全部で10回行う計画で、TCMのたびに相対速度を下げていき、最後のTCM10により相対速度がゼロ、つまりリュウグウに対し静止する予定だ。
はやぶさ2では、リュウグウの撮影画像を航法にも利用している。これが光学電波複合航法と呼ばれる手法だ。
探査機の位置は、電波航法により推定する。はやぶさ2では、「DDOR」と呼ばれる新しい手法を導入したことで、地球から3億km離れていても、わずか数km程度の誤差で位置を特定できるようになった。初号機と同じ従来手法では約300kmの誤差になるので、大幅に改善されている。
しかし、小惑星の正確な位置は分からない。リュウグウの場合、5月の時点での誤差は220kmほどもあり、このままでは、直径が1kmもない小惑星に辿り着くことはできない。
そこで、光学航法を組み合わせる。探査機で小惑星を撮影すれば、背景の恒星との位置関係から、小惑星がある方向が分かる。探査機の位置は高精度に分かっているから、そこから小惑星の方向が計測できれば、小惑星の位置推定がより正確になる。5月の光学電波複合航法により、誤差は220kmから130kmまで小さくなったという。
現在、誤差は「まだ数10kmはあるのでは」(吉川氏)とのこと。リュウグウに25km以下まで近づくと、LIDAR(レーザー高度計)の計測範囲に入る。LIDARが使えるようになれば、相対距離の誤差は劇的に小さくなるはずだ。
リュウグウに衛星はある? ない?
また、ONC(光学航法カメラ)チームの神山徹氏(産業技術総合研究所 人工知能研究センター 主任研究員)からは、リュウグウの衛星探索に関する最新状況について説明があった。今のところ、リュウグウに衛星は見つかっていないが、存在する可能性はある。もし探査機が衝突すると危険なため、接近前に調べておく必要があるのだ。
理論的には、リュウグウのように重力が小さな小惑星であっても、衛星を持つことが可能だ。衛星が存在可能な範囲はHill半径と呼ばれ、リュウグウの場合は90km程度とされる。
衛星探索のための観測は6月7日に4回実施(リュウグウまでの距離は2,100km)。この4枚の画像の中から、移動している天体(=公転している衛星)を探したものの、発見されなかった。これにより、50cmより大きな衛星は存在しないことが確認できた。
10cm以下については、太陽光圧で吹き飛ばされるため、安定して存在することはできない。あとは、10~50cmの衛星の有無を確認する必要があるが、「距離が近くなると、より小さな衛星が見つけられるようになる。400km程度まで接近して見つからないのであれば、衛星が存在しないと言えるのでは」(神山氏)ということだ。
探査機の安全にとっては、衝突の危険性がある衛星なんて無い方が良い。しかし、もしあったとすれば、科学的には面白い。神山氏は、「これまでの理論的な研究から、リュウグウの自転速度では衛星は無いだろうと予測しているが、もし見つかればその"常識"が崩れる。科学者としてはこんな面白いことはない」とコメント。吉川氏と同じように、複雑な胸中を明かした。