宇宙航空研究開発機構(JAXA)は6月7日、小惑星「リュウグウ(Ryugu)」を目指して宇宙を航行している小惑星探査機「はやぶさ2」の現在の状況説明を行い、6月27日前後に、目的地であるリュウグウに到着する見通しであることを明らかにした。

リュウグウまで残り約2100km

6月7日時点のはやぶさ2とリュウグウの距離は約2100km。日本列島の長さが南北で約3000km程度であることを考えると、かなりの距離まで近づいたといえる。しかし、リュウグウへの精密な軌道を導き出すことなどに用いられる光学航法カメラ(ONC)で6月6日に撮影した画像では、3ピクセルほどの大きさ(この時点の1ピクセルは約22秒角、実寸では約300mほどの大きさ)で、ようやく視界にとらえた、といった程度とも言える。

はやぶさ2は、2018年1月10日より6月3日まで、第3期のイオンエンジン運転を実施。これで、往路のイオンエンジンの運転はすべて終了となり、これまでの総増速量は約1015m/s、推進剤となるキセノンについては第3期終了までで24kgを消費したが、まだ復路分などとして42kg残っているという。

  • JAXAの西山和孝氏と吉川真氏

    はやぶさ2の6月7日時点の状況説明を行なった西山和孝 イオンエンジン担当(左)と、吉川真 ミッションマネージャ(右)

往路のイオンエンジンの運転が終了、光学航法へ

すでにはやぶさ2は、イオンエンジンの運転終了後の6月5日より光学電波複合航法(光学航法)の運用が試みられており、引き続きリュウグウへと向かっている。はやぶさ2が採用した光学電波複合航法は、光学カメラであるONCと、電波航法を組み合わせることで、高い位置精度を実現しつつ、目標天体に接近する手法。はやぶさ2の場合、通常の電波航法のみでは、地球から約3億km離れた1kmほどの大きさの小惑星であるリュウグウとの誤差は、5月初頭の時点で220km(3σ)と、到着するための精度としては、不十分なものであったが、同航法を採用することで、地球から約3億km離れた場所であっても、数km程度の誤差で位置の推定を可能となった。

具体的には、地上のアンテナ2つで、はやぶさ2からの電波を同時に受信し、その差を比較することで、位置を高精度に導き出す「DDOR(Delta Differential One-way Range)」を採用することで高い精度を実現しているという。これにより、6月6日時点の誤差は100kmを切る程度になったとのことで、「はやぶさ2」プロジェクトチームの吉川真ミッションマネージャ(JAXA 宇宙科学研究所 宇宙機応用光学研究系 准教授)は、「光学航法の撮影を毎日実施することで、探査機からみたリュウグウの位置を確認しつつ、探査機とリュウグウの軌道を正確に推定し、正確に接近していくことを目指す」と、今後の運用について説明。併せて、リュウグウ周辺に、移動天体が存在していないかの探査も併せて継続して行なっていくことで、リュウグウ到着までのリスクの回避を進めていくとする。

  • 6月6日に撮影されたリュウグウ

    6月6日にONCを用いて撮影されたリュウグウ。明るくなっているのは露出時間を背景の恒星を撮像する目的で178秒と長めにしたため (C)JAXA

  • 6月6日に撮影されたリュウグウ

    同じく6月6日に撮影されたリュウグウ。露出時間は約0.09秒と短いため、リュウグウのみ写っている状態 (C)JAXA

順調に稼動し続けたイオンエンジン

往路の運用を終了したイオンエンジンだが、プロジェクトチームでイオンエンジン担当の西山和孝氏(JAXA 宇宙科学研究所 宇宙機応用光学研究系 准教授)は、「(運用)最後の3~4週間は、現段階で実現できる最高性能を3台(のイオンエンジン)ともに発揮できた」と、その性能を評価。はやぶさ初号機の時と比べて、計画外停止(自動安全化処置)の作動頻度も、68回から4回へと大幅に減少(そのうち3回は初期の調整完了前に発生)。安定稼動時間が向上したことが、こうした成果につながったと説明する。また、こうした安定稼動が続いたことから、地上からの追跡時間もはやぶさ初号機と比べて35%削減となり、運用の効率化にもつなげることができたとする。

また、西山氏は、「イオンエンジンのスラスタは、A~Dまで4台あるが、電源が3台なので、最大3台の稼動となる。そのため、Bは初期の試運転のとき以外は稼動させずにここまでこれた。エンジン担当としては、Bも稼動すれば、4台の特性データが取得できるため、うれしいとは思うが、はやぶさ2のミッションは、イオンエンジンの性能試験ではなく、リュウグウに到着すること。計画どおりに運転することが優先であり、Bを使わないで地球に帰還するところまでいけることが最良」と、あくまではやぶさ2のミッションはリュウグウの探査であることを強調。吉川氏も、「ちゃんとしたリュウグウを見たいので、プロジェクトチーム一同、全力で取り組んでいきたい」と抱負を語ってくれた。

  • 往路のイオンエンジン運用結果
  • 往路のイオンエンジン運用結果
  • 往路のイオンエンジン運用結果
  • 往路のイオンエンジン運用結果
  • 往路のイオンエンジン運用結果 (C)JAXA

まだ分からないリュウグウの真の姿

ちなみにリュウグウ到着が6月27日前後と、幅を持たせているのは、6月6日までの運用データからの判断によるためで、今後の運用の状況次第では数日のずれこみが発生する可能性があることから、こうした表現となっている。

上述したとおり、まだ2000km以上も離れているため、リュウグウについては、そのはっきりとした姿も観測できていない。はやぶさ初号機の際は、地球に小惑星イトカワが接近した際にレーダー観測を行い、その形状などをある程度把握できたが、リュウグウはそうしたタイミングがなかったことから、不透明なままである。はやぶさ2の光学観測でも、ようやく形が分かった程度、という状態だが、「1週間後の6月14日ころになれば、はやぶさ2が撮影するリュウグウの大きさも十数ピクセル程度となるし、2週間後あたりには100ピクセルを超す程度になっているはずなので、詳しい形が見えてくるはず」(吉川氏)とのことで、いよいよ、といった感がでてきた。

また、到着の定義だが、はやぶさ2がリュウグウから高度20kmに到達した状態となっており、はやぶさ2搭載のLiDARの計測距離が最長25kmということで、これを用いて、最終的な位置調整が行なわれることとなる。

なお、吉川氏は、「はやぶさ2の目的はリュウグウの探査。ようやく到着のめどが立ったことで、調査を開始できることとなる。これからが本番。今、まさに正確にたどり着けるのか、といった緊張の時期。リュウグウがどんな姿をしているのか。それが分かって、詳細な計画が決定されることとなるため、プロジェクトメンバーとしては半分ワクワクしながら、半分慎重に、という気持ちでいる」と、現在の心境を語ってくれた。

  • 2018年4月時点のミッションスケジュール
  • 2018年6月7日時点のミッションスケジュール
  • 左が2018年4月時点のミッションスケジュール。右が2018年6月7日時点のミッションスケジュール。6月21日~7月5日ころに到着予定であったものが、6月27日前後に変更となっている (C)JAXA

はやぶさ2の現在のリュウグウまでの距離については、JAXAの「はやぶさ2プロジェクトサイト」にて随時更新されているので、気になる人は、適宜チェックをすると良いだろう。

参考

JAXA はやぶさ2プロジェクト / トピックス こちら「はやぶさ2」運用室:No.13
JAXA / 軌道決定・DDOR