国際宇宙ステーション(ISS)に滞在していた、金井宣茂(かない・のりしげ)氏ら3人の宇宙飛行士が、2018年6月3日、「ソユーズMS-07」宇宙船に乗って地球に帰還した。宇宙での滞在日数は168日間におよび、数々の成果を残した。さらに来年末には、野口聡一宇宙飛行士が3回目の宇宙滞在に出発する。

  • 宇宙から帰還した金井宣茂宇宙飛行士

    宇宙から帰還した金井宣茂宇宙飛行士 (C) NASA/Bill Ingalls

アントン・シュカプレロフ飛行士(ロスコスモス)、米国のスコット・ティングル飛行士(NASA)、そして金井飛行士の3人を乗せたソユーズMS-07は、3日18時16分(日本時間)にISSから分離。単独飛行したのち、20時47分にエンジンを噴射して軌道を離脱した。

そして大気圏に再突入し、パラシュートを開き、21時39分にカザフスタン共和国ジェスカズガン近郊の草原地帯に着陸した。

金井飛行士はにこやかな表情で手を振りながらソユーズから降り、帰還時の様子について「ジェットコースターのようだった。ソユーズの手順書を持っていたが、重くなりその重力を感じた」とコメント。また、宇宙での活動を振り返って「これから誰もが宇宙に行く時代が来る。自分は宇宙に行った先駆けとしての仕事で貢献できて幸運だった」と語った。

帰還後の飛行士の健康状態は正常で、カザフスタンで帰還の歓迎セレモニーを受けたのち、翌4日には、金井飛行士とティングル飛行士は米国ヒューストンのエリントン空港に移動。今後、健康診断やリハビリを受ける。金井飛行士は今月下旬に日本に帰国する予定だという。

金井飛行士らが帰還したことで、現在ISSにはアンドリュー・フューステル飛行士(NASA、コマンダー)、オレッグ・アルテミエフ飛行士(ロスコスモス)、リチャード・アーノルド(NASA)の3人が滞在している。

また6月6日には、アレクサンダー・ゲルスト飛行士(ESA)、セルゲイ・プロコピエフ飛行士(ロスコスモス)、セリーナ・オナン・チャンセラー飛行士(NASA)の新たな3人の宇宙飛行士がISSに向けて出発。到着は8日の予定で、6人体制での運用に戻ることになる。

  • 金井飛行士らを乗せ着陸したソユーズMS-07宇宙船

    金井飛行士らを乗せ着陸したソユーズMS-07宇宙船 (C) NASA/Bill Ingalls

医師出身であることを活かした168日間の宇宙滞在

金井飛行士は1976年に生まれ、2002年に海上自衛隊に入隊し、医師の資格を有する幹部自衛官(医官)を務めた。金井さんはその中でも、水に潜って作業を行う隊員(潜水員)の健康管理を専門とする、潜水医学の医師(潜水医官)でもあった。

そして厳しい選考を経て、2009年の2月にJAXAの宇宙飛行士候補者の補欠として選ばれ、同年9月に正式に採用。同期には、油井亀美也(ゆい・きみや)飛行士や大西卓哉(おおにし・たくや)飛行士がいる。医師から選ばれたのは向井千秋飛行士、古川聡飛行士に次ぐ3人目、また自衛隊出身は油井飛行士に次ぐ2人目でもあった。

そして2015年、シュカプレロフ飛行士、ティングル飛行士、そして金井飛行士の3人が、ISSの第54/55次長期滞在搭乗員に任命。昨年12月17日にカザフスタンのバイコヌール宇宙基地から宇宙へ飛び立ち、長期滞在を開始。宇宙での滞在日数は168日間に及んだ。

この間、金井飛行士らは、数々の宇宙実験を実施。とくに金井飛行士は、医師出身であることを活かし、ミッションテーマである「健康長寿のヒントは宇宙にある」の下、アルツハイマー型認知症や糖尿病の発症の要因とされる現象の解明に向けた実験や、新しい薬を作成する際のヒントになりうる、マウスの飼育技術の確立などを行った。

また2月には、土井、野口、星出飛行士に続く、日本人宇宙飛行士として4人目となる船外活動(宇宙遊泳)を行い、ISSロボットアームのメンテナンス作業を実施。さらに4月には、そのロボットアームを操作して、米国スペースXの「ドラゴン」補給船をキャッチするなど、ISSの運用にも従事した。

さらに、国連宇宙部との連携協力(KiboCUBE)第1号として、ケニア初の超小型衛星の放出や、第2回国際宇宙探査フォーラム会合で米露の宇宙飛行士とともに、また日露首脳会談でロシア飛行士とともに両国首脳と交信を行うなど、国際協力・協調にも貢献した。

  • 宇宙に滞在中の金井飛行士

    宇宙に滞在中の金井飛行士 (C) NASA

来年には野口飛行士が宇宙へ

金井飛行士が帰還したことで、現在JAXAの宇宙飛行士に所属する宇宙飛行士は全員、宇宙飛行を経験したことになった。

さらに来年の終わりごろには、野口聡一(のぐち・そういち)飛行士が3回目となる宇宙飛行に出発し、ISSに約半年間滞在する予定となっている。また2020年5月ごろからは、星出彰彦(ほしで・あきひこ)飛行士も半年間のISS長期滞在に旅立つことが決まっている。

ちなみに来年以降は、ISSへの米国人や日本人の宇宙飛行士の輸送に、米国の民間企業スペースXやボーイングが開発した宇宙船を使うことになっている。野口、星出の両飛行士も、いまのところはロシアのソユーズ宇宙船に乗る可能性が高いものの、こうした民間宇宙船に乗って宇宙へ飛び立つことになるかもしれない。

その後の日本の有人宇宙計画は決まっていないものの、ISSの運用は2024年、あるいはそれ以降も続く予定となっている。NASAは2025年以降、ISSの運用を民間に移管し、NASAは直接的な関与から手を引くことが計画されているものの、少なくともあと何度かは日本人宇宙飛行士が訪れることになろう。

また、ISSの次となる国際共同での有人宇宙計画として、月を回る軌道に宇宙ステーションを打ち上げる「月軌道周回プラットフォーム・ゲートウェイ」(Lunar Orbital Platform-Gateway)という計画の検討も進んでいる。まだ建造が本格的に決定したわけではなく、予算やスケジュールは不確定ではあるものの、米国を筆頭に、欧州や日本も参加を検討している。

もしゲートウェイが実現すれば、2020年代以降、日本人宇宙飛行士が月を訪れ、月面を歩く光景が見られるかもしれない。

  • 月を回る宇宙ステーション「月軌道周回プラットフォーム・ゲートウェイ」の想像図

    米国などが建造を計画している、月を回る宇宙ステーション「月軌道周回プラットフォーム・ゲートウェイ」の想像図 (C) NASA

さらに、ISSに宇宙飛行士を運ぶ、民間企業のロケットや宇宙船がさらに進歩すれば、金井飛行士が語った「これから誰もが宇宙に行く時代が来る」という言葉が本当に実現するかもしれない。

金井飛行士はまた、宇宙への出発前にもこう語っていた

「私の夢は、より宇宙が身近になり、まるで海外旅行に行けるような感覚で、誰でも宇宙旅行を楽しめるような時代が来ることです。それを実現するために活躍したいと思っています。今回、宇宙飛行という大任を受けましたが、これは自分にとってゴールではなく、その先の夢に向かって進むための第一歩であると考えています」。

参考:「「私、"もぐり"の宇宙飛行士なんです」 - 金井宇宙飛行士、2017年に国際宇宙ステーションへ出発」

いつか、誰もが宇宙に行けるようになれば、宇宙飛行士という職業はいまほど特別なものではなくなるかもしれない。しかし、そんな未来が訪れることこそ、金井飛行士をはじめ、すべての宇宙飛行士が望んでいることでもある。そして金井飛行士が語るように、そんな時代に向けた先駆けとして、現代の宇宙飛行士は日々、宇宙を目指し、宇宙に挑んでいる。

今後、金井飛行士らの知見が活かされ、日本の、そして世界の有人宇宙開発が、明るい未来に向けて進んでいくことを期待したい。

  • 米国の民間企業スペースXが開発している宇宙船「クルー・ドラゴン」の想像図

    米国の民間企業スペースXが開発している宇宙船「クルー・ドラゴン」の想像図。こうした民間のロケットや宇宙船がさらに進歩すれば、金井飛行士が語った「これから誰もが宇宙に行く時代が来る」という言葉が本当に実現するかもしれない (C) SpaceX

参考

https://www.roscosmos.ru/25124/
Crew Returns to Earth as Another Prepares for Launch - Space Station
JAXA | 金井宣茂宇宙飛行士搭乗のソユーズ宇宙船(53S/MS-07)の帰還について
ソユーズ宇宙船(53S)着陸! :金井宇宙飛行士ISS長期滞在 - 宇宙ステーション・きぼう広報・情報センター - JAXA
JAXA | JAXA 野口聡一宇宙飛行士の国際宇宙ステーション(ISS)長期滞在の決定について

著者プロフィール

鳥嶋真也(とりしま・しんや)
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュースや論考の執筆、新聞やテレビ、ラジオでの解説などを行なっている。

著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)など。

Webサイトhttp://kosmograd.info/
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