宇宙航空研究開発機構(JAXA)は5月29日、国際宇宙ステーション(ISS)の「きぼう」日本実験棟からの超小型衛星放出サービスを行う民間事業者として、Space BDと三井物産の2社を選定したことを発表した。従来はJAXAが単独でサービスを提供してきたが、民間に開放することで、宇宙利用のさらなる拡大を目指す。

  • 若田光一理事とSpace BD、三井物産の関係者

    中央はJAXAの若田光一理事。その両脇は、Space BDの永崎将利氏(左)と三井物産の岡本達也氏(右)

きぼうは独自のロボットアームとエアロックを備えており、これを活用して、超小型衛星を放出することができる。JAXAはそのための装置として、超小型衛星放出機構(J-SSOD)を開発。そのほか米国も独自の放出機構を運用しており、5月末の時点で、これまでにきぼうから、合計200機以上の超小型衛星の放出が行われたという。

きぼうの利用事業を民間に開放するのはこれが初めて。記者会見に出席したJAXAの若田光一理事(有人宇宙技術部門長)は、「小型衛星の市場は今後も世界的な拡大が見込まれている。これまではJAXA単独だったが、今後は民間ならではのアイデアや付加価値により、日本のみならず、世界に広く独自のサービスを提供してもらう」と期待を述べる。

JAXAは今後、2020年までに、きぼうからの放出を年間100U(1Uは10cm角)に増やす目標を掲げており、そのうちの7割を民間に開放し、残りの3割はJAXA利用分に充てる考え。JAXA利用については、国連や大学がパートナーとなっており、従来行っていた無償の機会提供も、引き続きこの枠内で実施する計画だという。

  • 今回民間に開放される部分

    今回民間に開放されるのは、赤枠の部分。残りの3割はJAXA分となる (C)JAXA

  • 事業者とJAXAの役割分担

    事業者とJAXAの役割分担。安全審査などを除き、ほぼ民間に移管する (C)JAXA

利用を拡大するために、J-SSODの能力をさらに向上させる。すでに、12U用と50kg級衛星用のJ-SSODが運用されており、これまでに累計28機の衛星を放出してきたが、現在、合計48Uが搭載可能な新型を開発中。一度に放出できるキャパシティを増やすことで、需要の増加に対応する計画だ。

  • JAXAが開発したJ-SSOD

    JAXAが開発したJ-SSOD。これをロボットアームに付けて衛星を放出 (C)JAXA

  • 段階的に放出能力を向上させる

    段階的に放出能力を向上させ、48Uの放出が可能なタイプも開発する (C)JAXA

契約期間は2024年末まで。今後、JAXAは両社に対し技術移管を進め、2023年度までに自立的な運営を目指すという。若田理事は「この事業が自立的・継続的に運営され、その活動がきぼうを含む地球低軌道利用の発展に繋がることを期待する」とコメントし、利用促進活動などを支援していく意向を示した。

今回選定されたのは、宇宙ベンチャーのSpace BDと、大手商社の三井物産。対称的な2社となったが、2月に開始した公募には、5社からの応募があったという。評価項目としては、事業モデル、販売戦略、財務計画などが入っており、「自立化がどれだけ現実的か」という観点から、この2社を選んだそうだ。

Space BDの永崎将利氏(代表取締役社長)は、「我々は地球低軌道の商業化を謳って起業したベンチャー。本丸中の本丸だった案件なので、落とすわけにはいかなかった」と語る。「社名のBDはビジネスデベロップメント。宇宙というフィールドで、顕在化した需要の取り込みだけでなく、潜在需要の喚起にも力を入れたい」と意気込みを述べた。

  • Space BDはすでに利用実績を重ねている

    Space BDは、東京大学からの受託など、すでに利用実績を重ねている

三井物産の岡本達也氏(機械・輸送システム第二本部本部長補佐)は、「輸送サービスは、我々の強みを発揮できる成長分野と捉えている」とコメント。「総合力を発揮して新たな社会的な価値を創造する。グループの総力を挙げて、国内外に持つネットワークを活用し、幅広い業者に衛星放出の機会を紹介していきたい」と述べた。

サービスの提供価格は、両社がそれぞれの判断で決める。従来、JAXAが行っていた有償サービスでは、1Uが300万円、2Uが500万円、3Uが800万円、50kg級が1億400万円という標準価格が示されていたが、今回の会見では、具体的な言及は無かった。ただ、事業として利益を出す必要があるので、従来より高くなる可能性もある。

ISSは現在、2024年までの運用延長が正式決定。その先は未定で検討が進められているところだが、2017年に文部科学省・宇宙開発利用部会の小委員会でまとめられた報告書では、2025年以降の運用について、「民間事業者も経費の一部を負担した官民共同事業化を目指す」とされた。今回の民間開放は、その試金石となりそうだ。