宇宙航空研究開発機構(JAXA)の筑波宇宙センターにて1月13日、50kg級の超小型衛星「DIWATA-1」が報道公開された。フィリピン政府が全額出資した同国初の人工衛星。フィリピンから人材を受け入れ、北海道大学と東北大学が開発に協力した。今年4月にも、国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」から軌道上へ放出される予定。

公開された超小型衛星「DIWATA-1」。少し平べったい形をしている

衛星引き渡し証書へのサインの後、握手する日本・フィリピン関係者

なぜフィリピンが衛星を開発?

DIWATA-1の大きさは55×55×35cm。"DIWATA"とはフィリピンの言葉で"妖精"を意味するとのことだが、この小さな妖精には、地上分解能3mのズーム撮影ができる望遠鏡「HPT」など、4種類の観測カメラが搭載される。宇宙からフィリピンを見守る"目"として、防災や農林水産業などに役立てられることになる。

DIWATA衛星は2機開発される予定。DIWATA-1は今年3月に米国の輸送機で打ち上げられ、5月までにきぼうから放出。続いてDIWATA-2を開発し、2017年に打ち上げる計画だ。開発費は総額8億円。この中には、2機の衛星の開発費のほか、DIWATA-1の打ち上げ費も含まれている。なお輸送機がドラゴンとシグナスのどちらになるかは未確定。

DIWATA-1に搭載されるミッション機器は4つの観測カメラ

2機のDIWATA衛星を開発する。今回完成したのは1号機だ

実用性・信頼性が向上してきたこともあり、いま、超小型衛星は新興国からも大きな注目を集めている。超小型衛星のメリットは何より「安い」ことだ。一般的な大型衛星に比べ、コストは2桁ほど違うので、経済的な余裕があまり無く、いままで宇宙開発に縁がなかったような国でも、敷居が低くて利用しやすい。

超小型衛星を自国で所有しようと思った場合、手段としては、「外国から購入する」「自国で開発する」という2つの選択肢がある。手っ取り早いのは前者だが、フィリピンが選んだのは後者だ。

今回の衛星開発プロジェクトには、「教育」もセットで含まれている。フィリピンは、北海道大学(観測機器を担当)と東北大学(衛星バスを担当)に、修士学生7人と研究生2人を派遣。両大学の指導のもと、日本国内でDIWATA-1を開発した。2機の衛星開発を通じて技術を学び、最終的には自国で衛星開発できるようになることを目指す。

北海道大学の高橋幸弘教授

東北大学の吉田和哉教授

東北大学におけるDIWATA-1の開発風景(提供:東北大学)

同大は6名の留学生(写真手前)を受け入れた(提供:東北大学)

当日開催された記者会見には、フィリピン側の関係者も出席。同国初の衛星開発にあたり、欧米からの提案もあったとのことだが、フィリピン科学技術省のRowena Cristina L. Guevara科学技術サービス担当事務次官によれば、日本に決めたのは、人材育成の観点を重視したからだという。

フィリピンは日本と同じように、台風による災害が多い。2013年には超大型台風「Haiyan」が直撃し、深刻な爪痕を残したことは記憶に新しい。Guevara事務次官は「衛星データの活用により、災害を未然に防ぐことに注力したい」と述べる。

これまでも、国際協力プロジェクト「センチネル・アジア」の枠組みの中で、衛星データを入手することはできたが、自国の衛星を持つことで、より迅速なデータ収集が可能になると期待されている。今後、フィリピンは初の宇宙機関を設立するとのことで、宇宙利用に本格的に取り組む意向だ。