宇宙航空研究開発機構(JAXA)は4月19日、小惑星探査機「はやぶさ2」に関する記者会見を開催し、最新状況について報告した。探査機の現在の状態は良好。順調に航行を続けており、予定通り、6月21日~7月5日の間に目的地である小惑星リュウグウに到着する見通しだ。いよいよ往路のゴールが目前に迫ってきた。
初めてリュウグウの直接観測に成功
はやぶさ2は会見当日の時点で、リュウグウから約26万kmのところを飛行中。位置関係としては、はやぶさ2が少し先行する形で、リュウグウには軌道の内側から接近する感じになる。
ちょうど追い越すタイミングだった2月26日には、望遠カメラ(ONC-T)でリュウグウの撮影も行った。はやぶさ2は基本的に太陽を真上にしているため、このタイミングだと、リュウグウが真下に来る。あまり姿勢を変更せずとも、ONC-Tの視野にリュウグウが入るというわけだ。
この撮影は、単なる記念写真ではなかった。ONC-Tの担当である杉田精司氏(東京大学大学院 理学系研究科 教授)によれば、目的は3つあったという。
まずは、位置関係の確認だ。探査機も小惑星も位置は推定値であり、当然ながらどちらにも誤差が含まれている。推定値から大きく外れることは考えにくいものの、推定通りにカメラを向け、そこにリュウグウがいれば、推定が正しかったことの何よりの証明になる。
残りの2つは、ライトカーブ(明るさの変動)と色の観測だ。ライトカーブを見ると、自転の周期が推測できる。また色を調べると、小惑星表面の組成を推測できる。杉田氏は、これまでの地上観測の成果に「今さら疑念はない」としつつも、「自分たちのカメラで実際に確認できたのは大きな一歩」だと述べる。
気になるイオンエンジンの状況は?
地球と月との距離は、良く知られているように約38万kmである。すでに、はやぶさ2はそれよりもかなり近くに来ており、感覚的にはあと1週間もあれば到着しそうに思えるかもしれないが、じつはまだまだ速度が足りていない。
はやぶさ2は1月10日より第3期イオンエンジン連続運転を開始しており、ここでは約389m/sの増速を予定している。4月17日の時点で、253m/sまで増速済みだが、まだ3分の2程度だ。ちなみに、3回の連続運転で必要な増速量は合計約951m/s。往路のイオンエンジンとしては、8合目をすぎ、もうすぐ9合目というところだろうか。
イオンエンジンは、6月5日まで運転する計画。このときのリュウグウからの距離は2,500kmで、そこからは、化学推進系(RCS)を使い、軌道の内側からリュウグウに接近する。RCSはこれまで、リアクションホイールのアンローディングには使っていたが、本格的に軌道制御に利用するのはこれが初めてとなる。
到着予定日は、以前の情報と変わらず6月21日~7月5日。ここで2週間もの幅があるのは、リュウグウの推定位置にまだ100km近い誤差があるためだ。
探査機自身については、かなり正確に位置を推定できる。地球から電波を送り、探査機が送り返した電波が到着するまでの時間から、距離が分かる。電波のドップラーシフトを見れば、相対速度も分かる。これが電波航法だ。何日かエンジンを止め、継続的に計測することで、精度を上げることもできる(精密軌道決定)。
しかし、未踏の小さな小惑星は、地球からの観測だけでは、位置が正確に分からない。小惑星の直径が100kmもあれば、誤差が数10kmあっても問題無いだろうが、リュウグウの直径は1kmもない。これで誤差が数10kmもあれば、辿り着くことはできない。
この問題に対応するため、はやぶさ2では、前述の電波航法に加え、光学航法を活用する。光学航法は、カメラで撮影した画像データを利用する技術。リュウグウを撮影すれば、探査機からの方向が分かるわけで、それを確認しながら接近すれば、正確にたどり着ける。5月からは、この光学航法でリュウグウに向かう計画だ。