京都大学(京大)は10月6日、次世代シークエンス解析と分子系統解析によりゼニゴケの全ゲノム構造および、遺伝子の構成と他の植物種との系統関係も明らかにしたと発表した

同成果は、京大生命科学研究科の河内孝之 教授らの研究グループと、豪・モナシュ大学のジョン L. ボウマン 教授、近畿大学の大和勝幸 教授、神戸大学の石崎公庸 准教授、国立遺伝学研究所の中村保一 教授、基礎生物学研究所の上田貴志 教授、東北大学の経塚淳子 教授らとの共同研究によるもの。詳細は米国の学術誌「Cell」オンライン版に掲載された。

左から、ゼニゴケの陸上進出の過程および、ゼニゴケのオス株とメス株(出所:東北大学Webサイト)

イネやアブラナなどの被子植物からコケ植物まで、全ての陸上植物は藻類から進化し、約5億年前に水中から陸上へと進出した。コケ植物の一種である苔類は、陸上進出後の最も早い時期に他の種から分かれて独自に進化した植物の系統の1つであり、陸上植物の祖先の特徴を保っている。このことから、苔類を用いた研究により、全ての陸上植物に共通する重要な分子メカニズムとその進化を解明することが可能になると期待されている。

ゼニゴケは苔類の代表的な種の1つであり、個体発生・生理・遺伝の様式について観察が行われてきた。近年、ゲノム編集技術をはじめとするさまざまな遺伝子機能解析の手法が確立され、分子メカニズムの研究が容易な植物として改めて注目されるようになった。

今回の研究では、短いDNA断片を大量かつ同時に解析する次世代シークエンス解析と、分子の系統樹を明らかにする分子系統解析を用いて、ゼニゴケの全ゲノム構造を明らかにした。その結果、ゼニゴケは他の植物種に比べて、植物の発生過程・生理機能の制御に関わる遺伝子の重複が非常に少ないこと、ゼニゴケが陸上植物の基本的な分子メカニズムの祖先型を持つことなどがわかった。

今回の成果を受けて研究グループは、今後の展開について、ゲノム編集技術などを駆使して個々の遺伝子の機能を明らかにするとともに、さまざまな解析をゲノム全体で網羅的に行う予定だとしている。また、こうしたゼニゴケを「モデル植物」とする研究により、未だ解明されていない全ての陸上植物に共通する重要な分子メカニズムを進化学的な観点から明らかにすることができ、さらに、農作物・有用植物への応用につながることが期待されるということだ。