世界の主要穀物のうちトウモロコシとダイズは今世紀末までの気温上昇が1.8℃未満でも、収量の伸びは鈍化して食糧需要に対応できないことが、農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)などの研究グループによる推計で分かった。地球温暖化がもたらす食糧危機を示唆する研究成果で、論文はこのほど英科学誌「サイエンティフィック・リポーツ」に掲載された。
地球温暖化防止の国際的枠組み「パリ協定」は、世界の平均気温の上昇を今世紀末までに2℃未満、可能ならば1.5℃未満に抑えることを明記している。農研機構・農業環境変動研究センターの飯泉仁之直(いいずみ としちか)研究員のほか、国際農林水産業研究センター、国立環境研究所のメンバーによる研究グループは、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の報告書で使用されている4つの温室効果ガス排出シナリオを想定して地球温暖化が世界の主要穀物収量に与える影響を調べた。
調査に際しては、気温などの要因と生育過程との関係を数式で表現した数値モデルを使用し、世界各地を50キロメッシュ(網の目)で収量を推計した。4つのシナリオは「RCP(代表的濃度経路)2.6」「RCP4.5」「RCP6.0」「RCP8.5」と呼ばれる。研究グループは、これらシナリオに基づいた産業革命以前と比べた今世紀末(2091-2100年)までの気温上昇をそれぞれ1.8℃、2.7℃、3.2℃、4.9℃とした。4シナリオのうち「RCP2.6」は「温室効果ガスの排出量のピークを2100年までに迎えその後減少する」という排出量抑制策を最も強く押し進めた場合のシナリオ(低位安定化シナリオ)。
4シナリオごとの推計の結果、トウモロコシとダイズは、「RCP2.6」シナリオに基づいて産業革命以前から今世紀末までの気温上昇を1.8℃に抑えても、収量の増加の伸びは鈍化することが分かった。またコメとコムギについては、今世紀末の気温上昇が3.2℃を超えると収量増加が停滞し始めることが判明した。気温上昇が3.2℃未満だと世界の平均収量への影響はあまりないものの、低緯度地域などでは悪影響を受ける場合があるという。
研究グループによると、世界の食料需要は2050年には16年の約1.6倍に達すると見込まれている。同グループは、気候変動の下で世界の主要穀物の収量を継続的に増加させるためには、施肥管理や高収量品種の利用といった、発展途上国に対するこれまでの技術普及に加えて、高温耐性品種や灌がい・排水設備の整備などの、より積極的な気候変動適応技術の開発・普及を加速する必要があることを今回の推計が示している、としている。
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