三菱重工業(MHI)と宇宙航空研究開発機構(JAXA)は8月18日、H-IIAロケット35号機の打ち上げに関するプレス向けブリーフィングを開催した。同機は準天頂衛星「みちびき3号機」を搭載。12日に打ち上げる予定だったが、ロケットの推進系統に問題が見つかり、延期していた。新たな打ち上げ日時は、8月19日14時29分00秒。
延期の原因となったのは、第1段のヘリウム系統で通常よりも大きなガス漏れが見つかったことだが、同14日~15日にガス漏れの箇所を特定、部品交換を実施した。交換後に再検査したところ、圧力の降下量は従来と同レベルに戻ったという。これで復旧したと判断し、16日からは通常通りの整備作業を行っている。
ヘリウムガスの漏洩が見つかったのは、気蓄器(タンク)の封止プラグで使われていたシール部分(下図参照)。シールは金属製(耐熱合金にテフロンコーティングを施したもの)だが、ここに大きさ0.5mm程度の非金属の異物が挟まっており、そこからヘリウムが漏れていたようだ。
ヘリウム系統は、タンクに蓄えたヘリウムガスの圧力で、エンジンなどのバルブを動かすのが役目。タンクの片側には配管が繋がっており、ここからガスを供給/充填するが、製造上の都合で、配管の反対側にも、同型状の穴が開いている。この穴は特に利用しないので、封止プラグで塞ぐのだが、気密のために使ったシールから漏れてしまっていたわけだ。
封止プラグをねじ込む前に撮影した記録写真では、シール部に異物は見られなかったという。だが、その後の封止する作業工程において、異物が付着してしまったようだ。部品交換を行い、見つかった異物の成分を分析したところ、液体酸素/液体水素タンクに断熱材を貼り付けるための接着剤(エラストフォーム)であることが分かった。
このヘリウム漏れは、35号機で初めて起きた事象だった。気になるのはなぜ35号機でこれが発生したのか、という点であるが、MHIの平嶋秀俊MILSET長によれば、35号機ではヘリウムタンクの合格品の入手が遅れたため、同社飛島工場における製造工程が通常とは一部異なっていたとのこと。
通常、ヘリウムタンクは、エンジン部が単体の状態で組み付けられている。だが35号機は、入手が遅れたためそれに間に合わず、エンジン部と液体水素タンクが結合されてから、装着することになってしまったという。これが今回の問題に影響を与えた可能性があるが、ただ今号機に特有の問題なのであれば、おそらく影響は限定的だろう。
ヘリウム系統の点検は、飛島工場からの出荷前、種子島への輸送後、打ち上げ直前の3段階で実施しているが、最初の2回では、特に異常は見つかっていなかった。その時点ですでに異物は挟まっていたはずだが、この理由については「良く分からないが、異物が非金属だったので、何らかの動きがあったのかもしれない」(平嶋氏)とのこと。
前回お伝えしたように、機体側の原因で打ち上げが延期になったのは、2011年8月の19号機以来。久しぶりのことだったが、平嶋氏は「打ち上げ後にガスが抜けて失敗する可能性もあったが、それはちゃんと回避できた」と評価した上で、「1つ1つ確実丁寧に作業をして、打ち上げ成功を継続していきたい」と意気込みを述べた。
なお打ち上げ当日の天候は晴れの予報。風も弱いと予測されており、条件としては「良好な状況」(同)だ。現在、機体はVAB(大型ロケット組立棟)に格納されており、19日の深夜0時半ころより射点への移動が開始される予定。