三菱重工業(MHI)と宇宙航空研究開発機構(JAXA)は8月12日、同日13時40分に予定していたH-IIAロケット35号機の打ち上げを直前に中止、延期を発表した。理由は「ロケットの推進系統に確認を必要とする事項が生じた」ため。対策に日数を要する見込みで、現時点で新たな打ち上げ日は決まっておらず、早くても17日以降になる模様だ。

当日の種子島宇宙センター。天候は問題無かった

35号機は、準天頂衛星「みちびき3号機」を搭載。当日0時ころ、VAB(大型ロケット組立棟)から姿を現した同機は、25分ほどかけて第1射点への移動を完了。打ち上げに向け、順調に準備作業が進んでいた。しかし上記の問題が発生したため、12時22分頃に手順を止め、打ち上げ時刻をずらして対応しようとしたが、16時前に打ち上げの中止が決まった。

同日深夜0時から開始された機体移動。H-IIAロケットが姿を現す

左がVAB(大型ロケット組立棟)、右が射点。500mほどをゆっくり移動する

移動中の足下を見ると、大勢の作業員が。ロケットの巨大さが良く分かる

射点に到着したH-IIAロケット。このコンフィギュレーションは11年ぶり

「みちびき3号機」が格納されたフェアリング。5m径の5S型が採用

ブースタを4本搭載した204型。204型の打ち上げはこれが4回目となる

MHIとJAXAは同日17時より記者会見を開催し、中止の原因や今後の見通しなどについて説明した。出席者は、MHIの二村幸基氏(防衛・宇宙セグメント技師長)と、JAXAの藤田猛氏(鹿児島宇宙センター長)。

MHIの打上執行責任者、二村幸基氏(防衛・宇宙セグメント技師長)

JAXAの打上安全監理責任者、藤田猛氏(鹿児島宇宙センター長)

今回、問題となったのは、第1段に搭載されたヘリウム系統において、通常よりも大きな圧力の低下が見られたこと。最終点検で確認した降下量は0.96MPa/hと、要求値の1.0MPa/hを下回っていたものの、過去の号機の平均は0.58MPa/hで、それよりはかなり大きい。35号機でも、これまでの点検ではそれと同程度だったという。

最初から大きめの降下量であれば、それは"クセ"のようなものと捉えることもできるが、今回は急に増えた。原因としては、ヘリウムの漏洩が考えられ、そのまま打ち上げた場合、フライト中に漏洩量が増加する恐れもある。規定の圧力を割れば、エンジン関連のバルブを正常に開け閉めできなくなる。仕様内の数値でも打ち上げを中止したのは、それが理由だ。

説明資料

近年、H-IIAロケットは運用が非常に安定しており、天候以外の問題で打ち上げが遅れることがほとんど無かった。機体側の原因による延期となると、2011年8月の19号機以来、じつに6年ぶりだ。

このオンタイム打ち上げ率の高さがH-IIAロケットの大きなセールスポイントではあるが、二村氏は「我々は衛星を所定の軌道に運搬し、正常に分離するのが仕事。一点の疑義もないロケットに仕上げた状態で打ち上げることが、我々のベストエフォート(最善の努力)だと思っている」とコメント。「残念ながら今日打ち上げることはできなかったが、原因の追及、処置を淡々と進め、確実に打ち上げたい」と述べた。

今後の予定であるが、まず原因が分からないことには、見通しも立てられない。機体を一旦VABに戻した後で、ヘリウムの漏洩箇所の特定を急ぐ。漏洩箇所としては、配管の継ぎ手などが考えられるが、調査方法としては、石けん液を塗って泡が膨らむかどうか見る、リークディテクタでガスを直接検出する、などの手段があるそうだ。

対策にどのくらいの時間がかかるかは、その漏洩箇所次第だ。継ぎ手であれば、「深刻度はさほどでは無い」(二村氏)とのことだが、気蓄器の交換が必要になったりすると、大きな影響が出る恐れがある。ただ、今のところ、気蓄器本体に問題がある可能性は低いと考えられているようだ(気蓄器の場所は、コチラの図を参照 )。

次の打ち上げ日がいつになるかは、その対策の内容によって大きく前後する。少なくとも数日程度は必要と見られており、早くても17日以降になる可能性が高いそうだ。その上で、天候判断が行われることになるので、現時点で予想するのは非常に難しい。見に行こうと考えている人は、今後の情報に注意して欲しい。