奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)は7月18日、スピントロニクス材料でデバイスを作る際に妨げとなる表面不活性層の深さ分布を定量的に評価することに成功したと発表した。

同成果は、NAIST物質創成科学研究科 田口宗孝特任助教、大門寛教授、理化学研究所放射光科学総合研究センター 大浦正樹ユニットリーダーらの研究グループによるもので、7月17日付けの英国科学誌「Nature Communications」に掲載された。

スピントロニクスデバイス材料においては、表面における電子の移動度と磁性が、内部より低く活性が低いことが知られていたが、これまでの研究では極表面しか検出できなかったため、その不活性な表面層がどれだけ深くまで存在して、デバイス特性に影響しているかという情報は得られていなかった。

同研究グループは今回、英国の放射光施設Diamondと日本のSPring-8の硬X線光電子分光(HAXPES)と理論解析を組み合わせ、代表的なスピントロニクス材料である希薄磁性半導体(Ga,Mn)Asおよびペロブスカイト酸化物La1-xSrxMnO3の特異な表面状態を詳細に調べた。

この結果、スピントロニクスデバイス材料内部の電導度が高く金属的かつ強磁性的領域から、表面の電導度の低い半導体的かつ非磁性的な不活性領域への変化の様子を、直接的かつ定量的に測定することに成功。内部と異なる表面層の厚さは、これまで考えられてきた0.4nmよりも非常に大きく、(Ga, Mn)Asでは約1nm、La1-xSrxMnO3では約10倍の4nmもあることが明らかとなった。

同研究グループは、この研究で明らかになった表面不活性層の厚さは、数十nmサイズのデバイスで用いられる電導層の厚さとほぼ等しく、デバイス開発に深刻な影響を与えていることを示しているとしている。

La0.67Sr0.33MnO3と(Ga0.87Mn0.13)Asの表面不活性層の深さ分布 (出所:NAIST Webサイト)