新開発の太陽電池にパルサーの観測 - さまざまな実験装置を運ぶドラゴン
ドラゴン補給船運用11号機(Dragon CRS-11)には、ISSに滞在する宇宙飛行士の水や食料、生活用品や、ISSで使うコンピューターや船外活動用の機器や部品、そして実験などで使う装置や器具など、合計2708kgもの補給物資が搭載されている。
そのうち補給船のカプセル内には与圧貨物が1665kg、船外トランクの非与圧貨物が1002kgを占める。
今回の補給ミッションでは、大きく5つの科学ミッションで使う物資が送り届けられる。
ROSE
ROSA (Roll-Out Solar Array)は、新開発の太陽電池の試験品である。
ISSに設置されているような従来型の太陽電池は堅く、ロケットでの打ち上げ時にかさばるという問題があった。
一方、ROSAは布のような薄くて軽い構造をしており、効率を高めると同時に、絨毯のように巻き取れるようにすることで、打ち上げ時に小さくまとめられるようにしたり、ロケットにより大きなサイズのものを搭載できるようになっている。
NASAではこの技術を、地球を回る人工衛星から、将来の深宇宙探査、とくに火星以遠への飛行に電気推進エンジンを使う際の電力源として使うことを考えている。
NICER
NICER (Neutron Star Interior Composition Explored payload)は、ISSの船外に設置される実験装置で、中性子星の観測を目的としている。
中性子星は、光やX線などを周期的に、規則正しく発生させている「パルサー」と呼ばれる天体の正体だと考えられており、NICERはX線を使って観測することで、パルサーの構造を解き明かすことを目指している。
NICERはまた、「SEXTANT」(Station Explorer for X-ray Timing and Navigation Technology)と呼ばれる実験装置も含んでいる。SEXTANTは、パルサーが規則正しくX線などを出していることを利用し、太陽系の中において正確な時間と位置を測る仕組みの確立を目指している。
原理的には地球における全地球測位システム(GPS)と同じで、NASAでは将来的に、太陽系を飛行する探査機や宇宙船にこの技術を採用し、GPSならぬ、パルサーを使った"全太陽系測位システム"を実現させようとしている。
マウスを使った骨粗しょう症の新薬の実験
これまでの研究で、人や動物が宇宙に長期間滞在すると、骨の密度が減ったり、骨粗しょう症を発症したりすることがわかっている。滞在中に運動をするなどを対抗策を行えば悪化は防げるものの、すでに失った骨をもとに戻すことは、宇宙はもちろん地球でもできない。
この実験では、骨を再生し、なおかつさらなる喪失を防ぐことが期待されている新しい薬をマウスに投与し、その効果などを調べることを目的としており、将来的に地球で骨粗しょう症に苦しむ人々を救ったり、ISSに滞在する宇宙飛行士や、より長期の宇宙飛行に赴く宇宙飛行士の健康を保ったりといったことが期待されている。
ミバエを使った心臓の研究
これまでの研究で、宇宙船の中のような微小重力(無重力)環境では、心臓の機能が衰えることがわかっている。これは重力のある地球とは違い、微小重力環境下では勢いよく血液を送り出す必要がないためだと考えられているが、この実験ではミバエ(キイロショウジョウバエ)を使って、そのメカニズムの研究をすることを目指している。
その知見は人体へも応用でき、宇宙飛行士の心血管系への影響の研究や、その対応策を開発する手助けになることが期待されている。
MUSES
MUSES(Multiple User System for Earth Sensing)は、高精度のデジタル・カメラや、ハイパースペクトル・イメージャといった地球観測装置を設置できるプラットフォームで、電力やデータの通信装置はもとより、見たい場所に正確にカメラを向けられる能力や、いくつもの機器を搭載できるスペースをもつ。
また装置は取り外して交換したり、さらに性能のよいものを搭載したりといった変更が可能で、海の観測や農業への応用、災害対策や資源探査、山火事などの監視などに役立てることができるという。
中国や日本の実験用物資、国際協力で開発された超小型衛星も搭載
ドラゴンにはこのほかにも、NASAをはじめ、欧州宇宙機関(ESA)や民間企業などが実施する、さまざまな実験で使われる装置や用品などが搭載されている。
また新華社通信などの報道によると、ドラゴンCRS-11には、中国の北京工科大学の実験装置も搭載されているという。
この実験は宇宙の放射線によるDNAの変化を見ることを目的としたもので、ISSの実験スペースを商業的に貸し出している民間企業「ナノラックス(NanoRacks)」を通じて、ISSの利用の契約を結んだという。実験期間は1カ月ほどで、復路もドラゴンCRS-11に搭載され、地球に持ち帰られる予定となっている。
米国は宇宙分野での中国との協力を半ばタブーにしており、ISSに中国の実験装置が送られるのは今回が初めてとなる(ただし、ISSに設置されているアルファ磁気分光器(AMS)のチームには中国も参加しており、これまでも間接的にはかかわっていた)。中国が参加可能になった経緯は不明なものの、NASAとの直接的なやりとりではなく、ナノラックスを経たことで実現したものと考えられる。
また、日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)関連の実験用物資として、物質を静電気の力で浮かべて加熱させることができる「静電浮遊炉(ELF)」や、「小動物飼育装置(MHU)」、ほ乳類の繁殖における宇宙環境の影響(Space Pup)の実験用品、中温高品質タンパク質結晶生成実験(MTPCG#1)などで使用される実験用品も搭載されている。
さらに、JAXAと九州工業大学が推進している「BIRDSプロジェクト」で開発された、超小型衛星も搭載されている。BIRDSは超小型衛星の開発を通じた人材育成を目的としたもので、九州工業大学の日本人学生に加え、モンゴルやガーナ、バングラデシュ、ナイジェリア、タイといった国々の留学生が参加し、5機の超小型衛星が開発された。
この5機の衛星はドラゴンからISSに搬入されたのち、今年度中に日本モジュール「きぼう」から放出される予定となっている。
九州工業大学では、今後もBIRDSプロジェクトを中心とした、超小型衛星の開発を通じた人材育成や国際協力を進めていくとしている。またJAXAでも今後、有償利用や国際協力による「きぼう」からの超小型衛星の放出機会を設けると同時に、放出能力も強化する予定で、将来的には産業として自立化させることを視野にいれているとしている。
参考
・CRS-11 Dragon Resupply Mission
・SPACEX CRS-11 MISSION OVERVIEW
・First Dragon Reflight | SpaceX
・SpaceX to reuse Dragon capsules on cargo missions - SpaceNews.com
・Live coverage: Falcon 9 rocket lifts off on space station resupply run - Spaceflight Now