米国のスペースXは5月1日(日本時間)、米国家偵察局(NRO)の衛星「NROL-76」を搭載した「ファルコン9」ロケットの打ち上げに成功した。ファルコン9による軍事衛星の打ち上げは今回が初めて。今回のファルコン9の機体は再使用ではなく新品で、打ち上げ後に着陸にも成功した。

米国家偵察局の衛星「NROL-76」を搭載した「ファルコン9」ロケットの打ち上げ (C) SpaceX

第1着陸場に向かって降下するファルコン9の第1段機体 (C) SpaceX

ロケットは日本時間5月1日20時15分(米東部夏時間5月1日7時15分)、ケネディ宇宙センターの第39A発射台から離昇した。ロケットは順調に飛行し、離昇から約2分20秒後に第1段と第2段を分離した。

第1段はその後、大西洋上空から北米大陸に向かって舞い戻り、打ち上げから約9分後、発射台近くにある「第1着陸場」(Landing Zone-1)に着陸した。

一方の第2段も、その後順調に飛行を続けた。軍事衛星の打ち上げだったため、飛行の状況や打ち上げ後の衛星の状態などは明らかにされなかったが、のちにスペースXとNROは「打ち上げは成功した」と発表している。

NROL-76

NROL-76は、米国の国家偵察局(NRO)が運用する人工衛星で、その特性上、衛星の目的や姿かたち、性能などはすべて極秘にされている。NROL-76という名前は特定の衛星の種類を表しておらず、単に「NROの衛星の76機目の打ち上げ」を意味する。打ち上げの順番や数字の割り振りも前後しており、これまでに76機が打ち上げられたというわけでもない。

ただ、公開されている情報から推測することは可能である。まず今回の打ち上げに伴う打ち上げ警戒エリアは、発射場から北東の方向に設定されている。この場合、打ち上げられる衛星の軌道傾斜角は60度前後と考えられる。また、ファルコン9の第1段が発射台の近くまで戻り着陸できるだけの余裕があるということは、地球低軌道への打ち上げか、比較的質量の小さな衛星であることを示している。

これまでにNROが運用している衛星のうち、軌道傾斜角60度の軌道に投入された、低軌道衛星や質量の小さな衛星は大きく2種類ある。

ひとつは「クェーサー」、「サテライト・データ・システム」(SDS)と呼ばれる衛星で、ロシアの「モルニヤ」や日本の「みちびき」のような高い軌道傾斜角をもつ擬似的な同期軌道(いわゆる「モルニヤ軌道」)で運用され、地表を観測する偵察衛星などからのデータを、地上局に中継する役割を担っている。

もうひとつは2006年に打ち上げられたUSA-193、もしくはNROL-21と呼ばれている衛星である。この衛星は次世代の偵察衛星の試験機「FIA」であったと考えられており、高度250km、軌道傾斜角58.48度の軌道に打ち上げられた。ただし打ち上げ直後に故障し、ミッションは失敗。その後、軌道高度が落ち、大気圏に再突入することになったが、搭載している燃料のヒドラジンが地上に撒き散らされる危険があったことから、米海軍のイージス艦がもつ弾道弾迎撃ミサイル「SM-3」を改良したミサイルによって迎撃され、破壊処分された。

したがって今回打ち上げられたNROL-76は、この衛星の後継機や代替機の可能性が高い。まったく新しい種類の衛星である可能性もあるが、2013年にエドワード・スノーデン氏によってリークされたNROの予算書からは、今回打ち上げられた軌道に該当するクェーサーやFIA以外の衛星は確認されていない。

衛星の正体や軌道が公式に明らかにされることはないが、衛星の追跡を趣味にするサテライト・ウオッチャーによって発見されれば、低軌道かモルニヤ軌道かは明らかになろう。

NROL-76が収められた衛星フェアリング (C) SpaceX

NROL-76のミッション・パッチ (C) NRO

スペースX初の軍事衛星打ち上げ、2週間後にも次の打ち上げ

ファルコン9の打ち上げは今年5機目となり、打ち上げ回数は33回、成功率は約93.9%となった。また第1着陸場への着陸は、2015年12月、2016年7月、2017年2月に続き、今回で4回目。また洋上での回収と合わせると、第1段機体の回収成功は10回目となった。

なお、前回の打ち上げで実施された衛星フェアリングの着水、回収については、今回実施されたかどうか明らかになっていない。

また、ファルコン9はこれまで、もっぱら米国航空宇宙局(NASA)や米国や他国の商業衛星の打ち上げを行っていたが、偵察衛星や軍事衛星など、国防にかかわる人工衛星の打ち上げは、今回が初めてだった。今後もNASAや商業衛星を中心としつつ、米空軍の試験衛星やGPS衛星の打ち上げもいくつか予定されている。

次のファルコン9の打ち上げは、2週間後の5月16日以降に予定されている。この打ち上げでは衛星通信会社インマルサットの通信衛星「インマルサット5 F4」を搭載し、静止トランスファー軌道へ送る。機体は再使用ではなく新品で、また衛星の質量が約6トンと大きいため、着陸脚などを装備しない、使い捨て形態での打ち上げになる見込みとなっている。

ファルコン9の打ち上げ (C) SpaceX

着陸する第1段機体 (C) SpaceX

参考

NROL-76 Mission press kit
NROL-76 Lifts Off, Ushering in a New Era
Launch Hazard Area Maps
SpaceX successfully boosts top secret U.S. government satellite into space - Spaceflight Now
SpaceX Falcon 9 launches first NRO mission with NROL-76 | NASASpaceFlight.com