民間月面探査チーム「HAKUTO」は4月21日、相乗り先のインドチーム「TeamIndus」と共同で記者会見を開催した。昨年末に相乗り先の変更が発表されてから、TeamIndusが来日して会見に登場するのはこれが初めて。同チームからミッションの概要について説明があったので、本レポートで内容をお伝えしたい。
左から、KDDIコミュニケーション本部長の山田隆章氏、HAKUTO代表の袴田武史氏、TeamIndusのSridhar Ramasubban氏 |
両チームのローバー。左がHAKUTOの「SORATO」で、右がTeamIndusの「ECA」だ。サイズとスタイルは良く似た印象 |
HAKUTOは、月面レース「Google Lunar XPRIZE」に日本から唯一参加しているチームである。同チームが開発しているのはローバー「SORATO」のみであるため、月面に行くためには他チームのランダーに相乗りする必要がある。当初、HAKUTOは米国チーム「Astrobotic」に相乗りする予定だったが、同チームの撤退により、TeamIndusに変更していた。
ローバーの探査ミッションは、陸上のリレー競技に似ている。第1走者はロケット、第2走者はランダーで、アンカーがローバーだ。「ミッションの成功」というゴールのためには、この3人全員が完走する必要があり、誰か1人でも転んでしまえば、ミッションは失敗する。これが難しいところだ。
SORATOまでバトンが渡ってくるのか、カギとなるのは第2走者のランダーだろう。民間による月面着陸に成功すれば、それは世界初の快挙となる。逆に言えば前代未聞のチャレンジであり、それだけ難易度が高いということでもある。
日本ではあまり馴染みが無いかもしれないが、インドの宇宙開発のレベルは高い。信頼性の高いPSLVロケットを持ち、月探査機「チャンドラヤーン」や火星探査機「マンガルヤーン」を打ち上げた実績がある。マンガルヤーンは、アジア初となる火星周回軌道への投入にも成功している(日本は過去「のぞみ」で失敗)。
登壇したTeamIndusのSridhar Ramasubban氏によれば、TeamIndusにはインドの宇宙機関ISROを退職したメンバーが20人在籍しており、その経験が活かされているとのこと。開発しているランダーについては、HAKUTOの技術リーダーである東北大学の吉田和哉教授も「手堅い設計」だと評価する。
ランダーの打ち上げ時重量は600kg(そのうち400kg程度は推進剤)。ペイロードは20kg程度で、その中にHAKUTOのSORATO(4kg)や、TeamIndusのローバー「ECA」(7kg)が含まれる。月面に到着後、地球との通信はランダーが行い、ローバーはランダーを経由して、地上との間でデータをやり取りすることになる。
ECAはSORATOと同じ4輪型のローバーで、最高速度は秒速10cm。傾き30°までの斜面を登る能力があるという。搭載するセンサなど、詳細について言及は無かったが、3つのカメラを搭載しているそうだ。
また、HAKUTOからも、ミッションの最新状況について説明があった。現在、フライトモデルを製造しているところで、まもなく完成。今月以降、環境試験やフィールド試験を行い、8月以降にインドへ輸送する計画だ。フライトモデルは同じものを4台製造し、本番用、地上バックアップ用、実験用、PR用とする予定とのこと。
月面に到着したあとは、TeamIndusとの競争になる。勝負の行方について、HAKUTO代表の袴田武史氏は「我々が勝てるとは思っているが、Google Lunar XPRIZEは競争することでお互いを高めるもの。すでに誰が優勝してもおかしくない状況になっていて、参加者みんなが優勝者だと個人的には思っている」とコメントした。
袴田代表はまた、レース後のビジョンについても触れ、「月面探査を継続して実行できる世界を作っていきたい。それにより、将来、月にある水資源を開発し、宇宙に経済圏を作ることができる。宇宙に人間の生活圏を築くのが我々のビジョン。Google Lunar XPRIZEは、そのための大きな一歩になると信じている」と述べた。
なおHAKUTOは4月23日(日)~5月7日(日)、宇宙ミュージアム「TeNQ」(東京都文京区)において、TeamIndusとの共同イベントを開催。ミッションの説明パネルや、月のサイエンスに関する展示が行われる。4月29日(土)と30日(日)には、SORATOの操縦体験や、HAKUTOメンバーによる講演も実施される予定。