産業技術総合研究所(産総研)は9月20日、独自に開発した単結晶酸化ガリウム(Ga2O3)の成膜プロセスを用いて、半導体Ga2O3をトンネル障壁層とした単結晶だけからなるトンネル磁気抵抗(TMR)素子を開発したと発表した。

TMR素子断面の電子顕微鏡写真

同成果は、産総研 スピントロニクス研究センター 半導体スピントロニクスチーム付 齋藤秀和 企画主幹らの研究グループによるもので、9月20日付けの米国科学誌「Physical Review Applied」オンライン版に掲載された。

最近、磁気抵抗変化率(MR比)を大幅に向上させるために、全単結晶TMR素子をベースとした縦型のスピン電界効果型トランジスタ(縦型スピンFET)が提案されている。強磁性半導体を電極とし、非磁性半導体を障壁層とした全単結晶TMR素子には、極低温では100%以上の高いMR比を示すものもある。しかし、この素子には室温でMR比がほぼゼロになってしまうという問題がある。

同研究グループが半導体トンネル障壁層材料として用いたGa2O3は、結晶構造が複雑であるため、鉄(Fe)などの一般的な強磁性電極と組み合わせた単結晶TMR素子の作製は困難と考えられていた。しかし今回、独自の成膜プロセスを開発し、Fe強磁性電極とGa2O3トンネル障壁層からなる全単結晶TMR素子を作製することに成功。室温でMR比92%を達成した。

具体的には、成膜に分子線エピタキシー法を利用した。まず、下部電極である単結晶Fe上に厚さ0.4~0.7nmの薄い単結晶酸化マグネシウム(MgO)層を成長させ、この上に、厚さ1.5~3.0nmのアモルファスGa2O3膜を室温付近で製膜。その後、適量の酸素を膜に吹き付けながら500℃程度までの熱処理を行うと、高品位の単結晶Ga2O3膜が得られる。この単結晶Ga2O3膜上には、単結晶Fe上部電極を直接成長させることができる。なお、得られた単結晶Ga2O3膜を詳細に分析したところ、スピネル型という単純な結晶系の構造であったという。

同研究グループは今後、MR比の一層の向上を図るとともに、Ga2O3膜に電界をかけて出力電流を制御するためのゲート構造の設計と動作実証を行い、5年後を目途に実用的な性能の縦型スピンFETを開発するとしている。

単結晶Ga2O3膜の作製方法

TMR素子の室温でのMR比。Ga2O3層を単結晶化することによりMR比が大幅に増大していることがわかる。これは、単結晶MgOを用いたTMR素子と同様に、トンネル障壁層と上部強磁性電極の単結晶化により電子が波の性質を保ったまま伝搬できるようになったためと考えられる