パワー半導体トップのInfineonに照準か

ところで、ON Semiconductorは今回のFairchild買収について、「戦略的注力市場である自動車、産業、スマートフォンといった多様なエンド市場の全域にわたり、総額およそ50億ドルの売上高を持つ、パワー半導体市場のリーダーとしてのポジションを確立する」ためとしている。パワー半導体最大手のInfineonとのFairchild買収競争に競り勝ったON SemiconductorはInfineonに照準を定める2位の地位に昇れたということだろう。

ON Semiconductorの社長兼CEOのKeith Jackson氏は「急速に集約されている半導体業界において、当社はFairchild買収で強力な能力を備えたパワー半導体のリーダーとしてのポジションを確立する。当社の計画は、高・中・低電圧の全範囲をカバーする製品を顧客に提供するために、両社の補完的な製品ラインを集約することである」と述べている。ON Semiconductorは、買収完了後の18カ月以内に年間1億5000万ドルのコスト削減を達成するとしている。

消える半導体業界の老舗 Fairchild

Fairchildは、ショックレー研究所から飛び出した「(ショックレー所長によると)裏切り者の8人」によって1957年に設立された半導体産業界の老舗中の老舗で、世界初の商用ICメーカー(TIとほぼ同時期)として知られる。50年以上に渡り半導体産業のけん引役を務めてきた"ムーアの法則"は、同社の研究担当ディレクターだったGordon Moore氏が、1965年にIC拡販のために提案した希望的観測に基づく法則である。その後、1968年にFairchildの経営に不満を持って退社したMoore氏やRobert Noyce氏によりIntelが誕生した。一方、頭脳を失ったFairchildは、その後衰退し、紆余曲折をへてフランスの石油掘削企業Schlumbergerや米国National Semiconductor(現在はTIに買収)に相次ぎ買収され、1997年にふたたび元の名前で独立し、今日に至っている。 同社はかつて長崎に半導体工場を持っていたが、企業業績の不振で1980年代後半に売りに出していた。クリーンルーム設計が米国流だったために日本の伝統的な半導体企業は買収を躊躇したが、1987年にソニーがそれをSchlumbergerから買収し、現在のソニーセミコンダクターの主力工場の1つである長崎テクノロジーセンターの基礎となった。

Fairchildは現在、パワーとモバイル設計に向けた、エネルギー効率に優れた付加価値の高い半導体を供給しているが、名門Fairchildの名が半導体業界からまもなく消えてしまうのは時代の流れとはいえ寂しい気がする。

本流のFreescaleが消え、傍流のON Semiが躍進

1990年代末から2000年代初頭にかけてMotorolaから半導体事業部門がFreescale SemiconductorとON Semiconductorに分離独立した際、本流の通信用ロジックLSIを引き継いだFreescaleがNXP Semiconductorsに買収されてその名が消えた一方、傍流のディスクリート素子やアナログ半導体をひきついだON Semiconductorが三洋半導体(旧 三洋電機の半導体事業)やCypress SemiconductorのCMOSセンサ部門などを次々と買収してここまで発展するなど誰が想像していただろうか。

ちなみにON Semicondcutorは急成長する車載CMOSセンサ分野でダントツの世界トップシェア(56%)を誇っている。ソニーがトップシェアを守る民生用イメージセンサと車載用は別世界である。ON Semicondcutorが今後、さらにランキング上位を目指してどんなM&A作戦をとるか注目される。本格的IoT時代を見据えて生き残りをかけた世界半導体業界の再編はさらに加速するだろう。