シャープおよび東芝の白物家電事業が新たな体制のなかで再スタートを切らなくてならなかった理由は、白物家電事業そのものの不振というよりも、経営の舵取りにこそ問題があったといわざるを得ない。

事実、両社の白物家電をみると、優れた製品が続々と登場している。

シャープは、世界初のお茶メーカー「ヘルシオお茶プレッソ」は、2014年4月の発売直後から品薄が続き、月産4,000台の当初計画を4倍に引き上げるという人気ぶり。また、電気無水鍋「ヘルシオホットクック」も計画比1.5倍で生産。蚊を取ることができる蚊取空清も、当初計画の3倍に増産するというヒット商品となっている。そして、シャープのロボット型携帯電話「RoBoHoN(ロボホン)」も、予約だけで1,000台を記録するスタートをみせた。

「ヘルシオお茶プレッソ」(左)と「RoBoHoN」

このように市場に受け入れられたり、話題となったりする製品が相次いで登場しているのだ。

「石窯ドーム」シリーズのレンジ

東芝も同様だ。もともと国産白物家電のほとんどが東芝という歴史を持つ同社にとって、白物家電事業は、東芝ブランドの代表的製品である。いまでも、東芝独自の技術は業界をリードしている。例えば、炊飯器では、かまど炊き加熱構造を再現した「備長炭かまど本羽釜」が高い評価を集めるほか、オーブンレンジでは、独自の石窯ドームを採用。石窯のおいしさを目指した製品開発に取り組み、「オーブンの東芝」というイメージを定着させてきた。

シャープも、東芝も、日本の市場に最適化した製品を、日本人の視点で開発し、日本人が使いたくなる製品が長年にわたって登場。それがいまでも継続しているのである。

実は、シャープの白物家電事業と、東芝の白物家電事業は、一時期、統合する可能性もあった。シャープは最終的に鴻海精密工業の出資による再建案を選択したが、それと対峙していた官民ファンドの産業革新機構による再建案では、シャープと東芝の白物家電事業を統合し、日本の家電メーカーを維持する方針が盛り込まれていた。

今年6月まで東芝の社長を務めていた室町正志氏が、「白物家電事業の売却先として、シャープは選択肢のひとつ」と明言していたことからもそれは明らかだった。

だが、先にも触れたように、シャープが鴻海精密工業の再建案を選択したことで、この話は幻となった。

だが、産業革新機構の案を受け入れれば、シャープと東芝の白物家電事業が安泰だったのかというとそうともいえない。日本の家電メーカーとしての存続は維持されるが、「競合しないのはアイロンぐらい」と言われるほど、両社の商品には、あまりにも重複分野が多いため、大規模なリストラが実施されることは必至とも言われた。継続的にユニークな製品を投入しつづけることができる環境を維持できるかどうかという点には、疑問符がつかざるを得なかったといえる。