車両設計におけるTVSデバイスの主要分野と課題

現在の自動車設計でTVSデバイスの役割が重要となる主要分野が2つあります。1つはインフォテイメントや快適性システムなど、小信号が関係する車内エレクトロニクスです。もう1つはモータやソレノイドなど、高い頻度で切り替わる発生源からの大きな過渡への対処です。

ISO7637-2規格は、特に自動車セクタに関連する過渡パルスを定義しています。12V(乗用車)または24V(トラックや商用車)電気系統を搭載したすべての車両をカバーしており、コンプライアンスのために実施する必要がある試験方法と手順を規定しています。注意すべきは、一部の自動車メーカーはこの規格とは多少異なる独自の規定を持っていることと、検討するべきパルスの種類も異なる点です。

車両システムがますます高度化するのに伴い、次世代半導体技術への継続的な移行により、問題がより複雑化しています。微細プロセス・ノードで製造されるICは、過渡の影響を受けやすいため、より効果的な保護が求められます。さらに、自動車メーカーは燃費節約のために、車両重量の削減を目指しています。自動車産業全体が、パッケージ・面積がより小さく高さが低い部品を求めています。したがって、部品ベンダは強力な保護機能を備えつつ、より体積が小さいフォーム・ファクタのTVSデバイスを製造するという課題に直面しています。

現時点では、車載アプリケーション用デバイスは一般的に、SMAまたはSMBパッケージ形式を採用しています。ただし、上記の理由から、サイズの縮小傾向がますます強くなっています。十分に効果的な保護を実現するには、このダウンサイジングの流れに関係なく、一般に約600Wの電力定格を維持する必要があります。さらに、自動車メーカーは、過渡によって引き起こされるストレス・レベルを低減するために、より低いクランプ電圧も求めています。ベンダは現在、SMA-FlatおよびSOD-123FL形式への移行に取り組んでいます。

SOD-123FLは、自動車メーカーが要望するフットプリント・サイズの縮小を実現し、占有するプリント基板(PCB)の面積も小さくなります。(過渡エネルギーの放散に利用できる面積が小さくなるため)熱性能がある程度犠牲になり、ダイ・サイズに関係する耐圧能力は低下します(ASICのプロセス・ジオメトリが28nmや22nmに移行すると、シリコンが脆弱になるので、ピーク電圧をより低いレベルに抑制する必要がある)。電力レベルを低減するためにシステム再設計が必要ですが、これはより多くのエンジニアリング・リソースを割り当てる必要があることを意味します。関連する開発コストが上昇し、市場投入までの時間が長引きます。このため、移行する理由がなくなります。比較した場合、SMA-Flatのほうがより魅力的なオプションとなります。このパッケージにもSMAおよびSMBデバイスを上回る重要な利点があり、全体のサイズを縮小しながら電力放散レベルをSMBデバイスと同等(およびSMAデバイス以上)にすることができます。この能力は、現在採用されているTVSパッケージ形式のダイ・サイズ能力に匹敵するので、高額な再設計作業を実施する必要はありません。熱性能は変わらないが、最大パッケージ・フットプリントを縮小できる利点があります。

設計の全体的な電力要件を検討する際は、電圧範囲だけでなく消費電流が全体のエネルギー消費に及ぼす影響についても検討する必要があることに留意してください。検討中のTVSデバイスのピーク電力放散能力を確定する方法の1つは、事前に定義されたパルスを使用することです。10×1000μsの非反復パルスをこの目的に使用できます。この手法は基本的に、立ち上がり時間が10μsで、半値に到達するまでの期間が1000μsのパルス波形を意味します(図1参照)。この値は通常、デバイスのデータシートで簡単に見つけることができます。SMA-Flatパッケージのデバイスは、パルス波形に関連する放散電力レベルが数百Wの市場で現在導入が進んでいます。

図1. 10/1000μのパルス波形

純電気自動車(EV)とハイブリッド電気自動車(HEV)の両方の成長が見通し通りに続くと、電圧過渡からの保護という新たな課題が浮上することになります。市場が大規模に展開しつつあるため、この問題は車両そのものだけでなく、車両をサポートしているインフラにも当てはまります。自動車業界が最終的に48V電源に移行する場合は、さらなる障壁が立ちはだかると予想されます。もちろん、すべての車両に導入されるのはずっと先のことと考えられますが、HEVのスタート/ストップ・システムや、内燃型エンジン搭載車両に採用されている回生ブレーキ・システムは、従来の予想よりも速くこの開発の進展を後押しする可能性があります。このように高い電圧が採用されるので、保護対象の総ワット数を増やす必要がある可能性があり、過渡の頻度や種類も変化します。

より高い電圧のTVSへの移行とフラット・リードの低プロファイル・デバイス形式の採用により、車載アプリケーションのシナリオで発生する電圧過渡への対処方法にさまざまな影響を与えます。ICの精巧な部分が最新の自動車で発生する過酷な過渡に耐えられるよう、必要なあらゆる要素を組み合わせることが求められます。同時に、大きな熱問題の影響を受けずに、省スペースと軽量化を実現するコンパクトな製品を自動車メーカーに提供することも望まれます。

著者プロフィール

Deres Eshete(デレス・エシュテ)
ON Semiconductor
スタンダード・プロダクト・グループ
オートモーティブ・ビジネスデェベロップメント・マネージャ
2011年にON Semiconductorに入社後、世界各地のさまざまな出版物に向けて多くの車載関連記事を執筆。ON Semiconductor入社以前はDelphiでセーフティ・アプリケーションにつながる役割を担ったインフォテインメントとナビゲーション・システムの主任設計技術者として従事。米国ローズ・ハルマン工科大学で電気工学理学士、ノートルダム大学で電気工学修士、パデュー大学のクラナート・ビジネススクールで経営学修士を取得