2種類ある車の運転サポート手法

車の運転サポートには、「Chauffer(お雇い運転手)型」と「Guardian Angel(守護天使)型」がある。お雇い運転手は、主人の命令で完全に運転を代行するSeries型の制御である。一方、守護天使は、危ない時だけ助けを差し伸べるParallel型の制御である。

運転サポートにはSeries型の制御であるお雇い運転手(Chauffer)型と、Parallel型の制御である守護天使(Guardian Angel)型がある

お雇い運転手型のシステムは、常に運転を担当し、運転上の事故などの責任は車の製造者の責任となる。一方、守護天使は危ない時に助ける役目であり、事故の責任の大半は運転者の責任である。そして、お雇い運転手はすべての状況で運転ができる技量を持つ必要があるが、守護天使の場合は、少なくとも運転者を危険にさらさないということを満たせば良い。

開発面でいうと、お雇い運転手は、技術が完璧になるまでは人命が失われる恐れがあり、実用にできないが、守護天使は使える領域を順番に増やしていくという実用化が可能であるので、結果として早い時期から人命を救うことが可能になる。

そして、お雇い運転手の場合は電車に乗っているのと同じで、ドライブする楽しみはあまり感じられない。これに対して守護天使の場合は、初心者でも高性能の走りを楽しめるという点で、ドライブの楽しみが味わえる。

トヨタの自動運転技術の開発には3つのゴールがある。それは、「安全性の改善」、「移動手段へのアクセスの改善」、そして、「屋外での移動手段の提供から室内での移動手段の提供までトヨタの事業領域を広げる」ことである。

トヨタの自動運転技術の開発には3つのゴールがある。それは、安全性の改善、移動手段へのアクセスの改善、そして屋外での移動手段の提供から室内での移動手段の提供までトヨタの事業領域を広げること

先述した1兆マイルの信頼性の確保であるが、トヨタは車を中に入れてあらゆる走行状態を作り出すシミュレータを持っている。このシミュレータを使えば、実際の走行より急激な加減速を行うことなどもできるし、同じ状態のテストを再現してソフトウェアのリグレッションテストを行うこともできる。

1兆マイルの信頼性を確保する切り札がシミュレーション。東富士研究所にある車を入れてあらゆる環境での走行をシミュレートできるシミュレータ

これらの技術を開発するため、トヨタはスタンフォード大学にほど近いカリフォルニア州のPalo AltoにToyota Research Institute(TRI)を設立した。150名の陣容でスタンフォード大の協力を得ながら守護天使型の技術の研究開発を行う。そして東海岸のマサチューセッツ州Cambridgeに50人規模の開発拠点を置き、MITの協力を得てシミュレーションの研究開発を行うという。

トヨタは守護天使型のシステムの開発に、スタンフォード大の近くのPalo Altoの約150人のチームの研究所を設立し、東海岸のCambridgeに50人のシミュレーションチームの研究所を設立した

さらにGTC 2016の基調講演のなかでPratt氏は、ミシガン大学と協力してミシガン州のAnn Arborにお雇い運転手型の技術を開発する研究拠点を設立することを新たに発表した。規模は50人で、2016年6月に立ち上げる予定である。

トヨタは守護天使型の方が実用に結び付けやすいと考えているが、お雇い運転手型の技術と守護天使型の技術には重なる部分も多く、将来的にはお雇い運転手型の技術も必要となると考えられるので、 TRIの研究を強化するものとなるという。

ミシガン大学と協力して、お雇い運転手型の技術を開発する研究拠点も設立する

最後にPratt氏は、「他の自動車メーカーは競争相手ではあるが、他社も含めて、IT関係の会社、政府機関、ハードウェアメーカーなどと建設的で競争的な協力関係を樹立することを望む」と締めくくった。

ライバル自動車メーカーを含めてIT会社、政府、ハードメーカーなどと建設的、かつ、競争的な協力関係を樹立することを望む