テクトロニクス社は3月26日に東京・品川の本社オフィスで報道機関向けの説明会を開催し、アナログ帯域幅が最大70GHzのハイエンド・デジタルオシロスコープ(デジタルオシロ)「DPO70000SXシリーズ」を開発したと発表した。

テクトロニクスのデジタルオシロ製品はミッドレンジからローエンドが主流で、これまでアナログ帯域幅が33GHzを超える、いわゆる「63GHz級」のハイエンド・デジタルオシロ製品は提供していなかった。63GHz級に相当する初めての製品が、DPO70000SXシリーズである。

テクトロニクス本社の説明会会場に置かれたDPO70000SXシリーズの本体。非常に簡素なフロントパネルが目を引く。カラー液晶ディスプレイの大きさは6.5型

DPO70000SXシリーズを説明会の会場で見たときに、フロントパネルがきわめて簡素なことに少々、驚かされた。フロントパネルの左にカラー液晶ディスプレイ、中央下部に入力チャンネル、右上にUSBコネクタを配置してあり、中央部が何も無い。クリーム色の「壁」があるだけだ。オシロスコープと言えば、様々なボタンやノブが並んだフロントパネルを普通は思い浮かべるだろう。実際に、これまでの最上位シリーズ「MSO/DPO70000シリーズ」は、そのような外観を備えている。

テクトロニクスが販売してきた、これまでの最上位シリーズ「MSO/DPO70000シリーズ」の外観。左にディスプレイ、右にボタンやノブなどを配置した、デジタルオシロとしてはごく普通のフロントパネルを備える。カラー液晶ディスプレイの大きさは12.1型

テクトロニクスが想定するDPO70000SXシリーズの使い方は、外部の大きな液晶ディスプレイと入力デバイスのマウスによって、ディスプレイに表示されたメニュー類をマウスで操作する、というもののようだ。あるいはタッチパネル付きの外部液晶ディスプレイを使用する、というものである。従来のオシロスコープと同様のユーザーインタフェースを望む顧客には、オプションでフロントパネル「DPO7AFP」を用意した。

オプションのフロントパネル「DPO7AFP」。説明会の会場で撮影した。左端に写っているのがDPO70000SXシリーズの本体で、高さは157mm

DPO70000SXシリーズを構成する製品は2品種。アナログ帯域幅が70GHz、サンプリング速度が最大200Gサンプル/秒の「DPO77002SX」と、アナログ帯域幅が33GHz、サンプリング速度が最大100Gサンプル/秒の「DPO73304SX」がある。

DPO70000SXシリーズの主要な性能

ランダム雑音を低減した70GHz帯域の実現技術

帯域幅が70GHzの「DPO77002SX」は、アナログ信号の入力チャンネルを3つ備える。1つは70GHz帯域専用の入力チャンネルで「ATIチャンネル」と呼ぶ。ここでATIとは「Asynchronous Time Interleaving(非同期時間インタリーブ)」の略称で、70GHzのアナログ信号をデジタル信号に変換する技術を指す。ATI技術はテクトロニクスが独自に開発した、63/70GHz級のデジタルオシロを実現するための入力回路技術である。

ATI技術は、アナログデジタル変換技術の要素技術であるサンプリング技術で分類すると、アンダーサンプリングに相当する。通常のアナログデジタル変換では、アナログ信号帯域の2倍を超える周波数でサンプリングする。例えば33GHz帯域のアナログ信号を対象とすると、サンプリング周波数は100GHz(100Gサンプル/秒)であることが多い。帯域が70GHzのアナログ信号では、140GHzを超えるサンプリング周波数が必要になる。

ここで問題となるのが、100Gサンプル/秒を超える速度で8ビットの分解能を備えるアナログデジタル変換器である。このような超高速の変換器ハードウェアは、実現することがきわめて難しい。現在のところ、8ビット分解能と100Gサンプル/秒の速度を両立させたハードウェアが、実用的な最高性能と言える。これ以上の性能を実現するには、時間インタリーブや周波数インタリーブなどの技術と8ビット分解能かつ100Gサンプル/秒のアナログデジタル変換器を2チャンネル、組み合わせる必要がある。

テクトロニクスが開発したのは、時間インタリーブとアンダーサンプリングを組み合わせた技術である。ここでアンダーサンプリングとは、アナログ信号帯域の2倍よりもずっと低い周波数でサンプリングすることを意味する。具体的には、70GHzの信号帯域に対して75GHz(75Gサンプル/秒)と低いサンプリング周波数でサンプルホールドを実行する。まず入力信号を2チャンネルに分波し、位相を180度ずつずらして、各チャンネルでサンプリングする。するとサンプリング周波数75GHzの半分である37.5GHzを中心として、37.5GHz~70GHzの信号成分は直流~37.5GHzの周波数帯域に折り返される(エイリアシング)。また逆に直流~37.5GHzの信号成分は、37.5GHz~70GHzの周波数帯域に折り返される。

ここでローパスフィルタにより、37.5GHz~70GHzの周波数帯域を遮断する。するとDC~37.5GHzの周波数成分が残る。それから再び、100Gサンプル/秒で信号をサンプルホールドし、アナログデジタル変換器でデジタル信号に変換してメモリに保存する。各チャンネルのメモリに保存したデジタル信号をDSPによって加算してから振幅を半分に下げ、信号を再構築する。この処理によってランダム雑音が最大で3dB低減される。

ATI技術の概要と利点

「DPO77002SX」の入力チャンネルに話題を戻そう。残りの2つのチャンネルは帯域幅が33GHzの入力チャンネルであり、サンプリング速度は100Gサンプル/秒になる。内部回路で説明すると、ATI技術によるアンダーサンプリングを経由せずに、100Gサンプル/秒でサンプリングし、アナログデジタル変換器でデジタル信号に変換している。通常のデジタルオシロと同じ、アナログデジタル変換技術である。

「DPO77002SX」の外観。本体寸法は、幅452mm×高さ157mm×奥行き553mm。本体質量は19kgである。ディスプレイは6.5型のカラー液晶で、解像度はXGA(水平1024画素×垂直768画素)

帯域幅が33GHzの「DPO73304SX」は、アナログ入力チャンネルを4チャンネル備える。ATI技術は搭載していない。2チャンネル入力時はアナログ帯域幅が33GHz、サンプリング速度が100Gサンプル/秒、4チャンネル入力時はアナログ帯域幅が23GHz、サンプリング速度が50Gサンプル/秒となる。

「DPO73304SX」の外観と概要

同じ2台を組み合わせたセットを用意

DPO70000SXシリーズの価格(税抜き価格)は、「DPO77002SX」が3680万円、「DPO73304SX」が3370万円である。

このほか、2台の同じオシロを組み合わせて入力チャンネル数を2倍に増やしたセット(「2ユニット・システム」)を用意した。「DPO77002SX」の2ユニット・システム「DPS77004SX」は価格(税抜き価格)が5660万円、「DPO73304SX」の2ユニット・システム「DPS73308SX」は価格(税抜き価格)が4380万円である。