血液凝固に関わるビタミンKという必須栄養素の小腸での吸収は、コレステロールを輸送する膜タンパク質のNPC1L1が主に担っていることを、東京大学医学部附属病院薬剤部のグループが見いだした。 脂質異常症の治療薬として広く使われだしたNPC1L1阻害剤のエゼチミブはビタミンK吸収不全を引き起こし、ほぼすべての患者で抗血液凝固薬のワルファリンの作用を増強することも確かめ、ビタミンの吸収阻害を介した薬物相互作用の考え方を示した。

図. 今回の研究で実証されたビタミンKの小腸吸収と肝臓でのビタミンKサイクルの概要(提供:東京大学)

ビタミンK吸収の仕組みに関する初の報告で、生体に重要なビタミンK吸収の調節に新しい手掛かりを与えた。高田龍平(たかだ たっぺい)講師、山梨義英(やまなし よしひで)助教、大学院生だった小西健太郎(こにし けんたろう)さん、鈴木洋史(すずき ひろし)教授らの共同研究で、2月18日付の米科学誌Science Translational Medicineに発表した。

血液の凝固を活性化するビタミンとして古くから知られているビタミンKは、骨粗鬆症や動脈硬化症の予防・治療に効果があることが近年報告されるなど、その多様な生理機能に注目が集まっている。ヒトの体内では作れないため、主に食物から摂取しているが、その小腸での吸収の仕組みは未解明のままだった。

東大病院薬剤部の研究グループは、小腸の上部にあるコレステロール輸送体膜タンパク質のNPC1L1がビタミンKの吸収を担うことをうかがわせるいくつかの傍証に着目して、解析を進めた。NPC1L1を発現させたヒトの培養細胞は、対照群の細胞と比べて約 4 倍のビタミンK取り込み活性を示した。また、この取り込みはエゼチミブで阻害された。

さらに、NPC1L1 遺伝子を欠損したマウスのビタミンK吸収量は、野生型マウスと比較して約75%も減っていた。野生型マウスにエゼチミブ を投与すると、NPC1L1 遺伝子欠損マウスと同程度にまで ビタミンK吸収量が低下した。これらの結果で、生体のビタミンK 吸収の大部分が NPC1L1 依存性・エゼチミブ感受性経路によることが明らかとなった。

次にラットへの薬物投与実験をした。ワルファリン単独投与群に比べて、エゼチミブとワルファリンの併用群では、顕著な血液凝固時間の延長が観察され、肝臓中のビタミンK濃度は併用群で単独投与群より下がっていた。エゼチミブとワルファリンの薬物相互作用は、エゼチミブの吸収阻害に起因する肝臓中のビタミンK濃度の低下によることが示された。

個別の報告例のみだったエゼチミブとワルファリンの薬物相互作用について、東京大学大学院医学系研究科・医学部倫理委員会の承認のもと、その発生頻度と程度を東大病院の電子カルテ情報で調べた。ワルファリンを服用していた解析対象者 42人のうち 37人で、エゼチミブ服用の後に血液凝固時間が延長していた。両薬物間の相互作用が特異体質によるのではなく、誰にも生じうることを裏付け、ワルファリン療法で重要な知見となった。

高田龍平講師は「小腸でのビタミンKの吸収を担う膜タンパク質を初めて示し、ビタミンの吸収阻害を介した新しい薬物相互作用の仕組みを提唱した。基礎と臨床を橋渡しするトランスレーショナル研究の側面からも意義が大きい。この成果は、さまざまな効果が期待されるビタミンK の体内動態制御や、ビタミンの吸収変動を考慮した適切な薬物治療・薬用量設定に貢献するだろう」と話している。