既報の通り、Cypress SemiconductorとSpansionは経営統合を行うことを12月1日に発表、これに関するConference callを12月10日(米国時間)に行ったが、12月12日には日本の報道機関向けのConference callが特別に設けられた。そこでこの内容と、12月10日の本国向けConference callの内容をまとめてレポートしたい。
まずは簡単に統合の全貌を。CypressとSpansionは株式交換の形で経営統合を行う(Photo01)。これはSpansionの株主は、Spansion株1株をCypressの株2.457株と交換する、という形で実現。存続会社はCypressとなる。実態はともかく、見かけ上はCypressがSpansionを買収した形だ。
今年第2四半期の両社の売り上げを見ると、Spansionが3億1470万ドル、Cypressが1億7360万ドルといったところで、両社あわせると四半期あたりほぼ5億ドルとなるので、トータルすると年間20億ドルの売り上げを持つ企業が出現することになる。
先ほど「見かけ上は」CypressがSpansionを買収、と書いたが実質的には株主はほぼ同数になり、新会社の取締役会は両社から4名ずつが参加することになる。その意味では対等合併に近い(Photo02)。合併につきものの、独禁法の審査などがあるが、今のところ来年第2四半期中に合併が完了する予定だ。
さて、この合併によって何が得られるかという話であるが、説明の中で強調されたのは「両社の製品ポートフォリオには重複が無く、なので相補的効果を最大限に発揮できる」ということ。MCUではSpansionのもつFMシリーズとCypressのPSoCであわせて10億ドル規模の売り上げがあり、一方NOR FlashやSRAM/FRAMといった、いわば「DRAMとFlash以外すべて」のマーケットで両社は強いシェアを握っており、こちらも10億ドル規模になるとする。また、Spansionが強いAutomotive/産業用と、Cypressが強い通信/民生向けということで、マーケット的にも補完関係があり、確かに素直に考えると重複は無い。これに関してSpansionのCEOであるJohn H. Kispert氏に「そうは言ってもローエンドのPSoC4とFM0シリーズは構成が非常に近くないか」と確認したが、アプリケーションがまったく異なるから問題はない、という見解であった。少なくとも短期的にはこれがお互いにぶつかることはなさそうだ。
この製品ポートフォリオに関してもう少し判りやすく示したのがこちらである(Photo04)。ちょっと前の話になるが、11月にSpansionがe.MMC NANDを発表した時に、「Spansionの目的は組み込みマーケットでのNo.1サプライヤになることで、実際Flashに関してはこれが実現しているし、MCUやAnalogもそうだ」というTouhid Raza氏の言葉があり、これはもちろん同氏だけではなくSpansion全体のメッセージであるのだが、確かに今回の合併はこの目的に沿ったものであるとは思う。だからといってまさかCypressと合併するとは思わなかったのだが。
Photo04:ここには書かれていないが、合計で10億ドル規模のMCUの売り上げがあり、そのほとんどがARMということになると、これはARMに対してのプレセンスの強化にも繋がることになる。これは運用面での効率性の最適化に繋がる話であろうが |
さて、ここからはやや日本寄りの話となる。特にSpansionは主要なTier 1 OEMを大量に顧客として抱えており、また元々SpansionのNOR Flashは自動車メーカーに強いプレセンスを持っているから、同社の車載分野での存在は大きい。CypressもTouch SensorやSRAM(今年同社は故障率が0.1FITとなるECC SRAMを発表しており、これも車載向けを当然想定している)などを販売しているが、Spansionに比べればずっとプレセンスは高くない。ところが合併により、既存のFMシリーズMCUやNOR Flashとあわせて、CapSenseやSRAMを提案する機会が増えるから、これは悪い話ではない。長期的にはPSoCを車載向けに提案することも考えている(CypressのPresident and CEOであるT.J. Rodgers氏)そうだ。
Photo05:ECU向けには旧富士通セミコンダクターのMCUが幅広く利用されることになり、ここにはCortex-Rベースの新しいものも含まれる。で、こうした部分ではないところに、今後Cypressの製品が入ってゆける道ができたかたちだ |
もう少し細かい数字はこちら(Photo06)。Spansionは現在、自動車業界向けに4億5000万ドルの売り上げがあり、Cypressは4000万ドルである。合計して4億9000万ドルということになる。これはそう大きな数字ではない、というのは2013年の推定売り上げは統計の取り方が調査会社によってまちまちだからという話だが、IHSの2014年4月の数字で言えば、10位のON Semiconductorですら2013年の売り上げが7億5600万ドルだからだ。これは主にパワー半導体などが寄与しており、逆に言えばパワー半導体のラインアップを持ち合わせていない両社にとってはやや厳しい数字なのだが、それでも合併後には両社は4位ないし5位(Rodgers氏は4位、と言っていた)を目指すということだ。
Photo06:これは本国向けスライドである。ちなみに2013年の売り上げで言えば、4位のFreescaleが18億4600万ドル、5位のNXPが16億8900万ドルなので、まだ結構開きがある気がする |
あらためてSpansionの現在の売り上げをまとめたのがこちら(Photo07)で、やはりNOR FlashとNAND Flashが同社の大きな稼ぎ頭になっていることが判る。一方のCypressの売り上げはこちら(Photo08)で、一番大きなのがSRAMやnvRAM/FRAM、ついでPSoC/CAPSense、最後がUSBコントローラやPSoC BLE/PRoC BLEということになる。これらを単純に合算した、合併後の売り上げ比率はこんな感じになる(Photo09)。少なくともこれを見る限り、特定の分野に偏らない、バランスの取れた売り上げという風にも思える。
Photo07:こちらも本国向けスライドより。こうしてみると、SpansionのMCUのほとんどは自動車向け、ということになる |
Photo08:このうち新興テクノロジ部門は、本国のスライドには無かったものだ。まぁまだ売り上げ規模が他に比べるとずっと小さいから、ということかもしれない |
Photo09:これは両社の第3四半期の売り上げを元に推定したものとなるから、実際はもう少しブレるかもしれない |
ちなみに直近の売り上げ予測と、合併3年後の予測はこんな具合(Photo10)。粗利を現在の42.2%から50%まで引き上げると共に、若干の経費削減によって経常利益を現在から倍増しよう、というなかなか意欲的な計画である。
さて、説明に関してはだいたいこのような感じであるが、以下質疑応答からいくつか。まず新会社では、すべての製品はCypressブランドで販売されることになる。なので、これまでは"Spansion NOR Flash"だったのが、"Cypress NOR Flash"になる訳だ。ただし例外があり、自動車向けおよび高信頼性製品の分野に関しては、引き続きSpansionブランドを使い続けるとしている。特にいくつかの認証を取得した製品に関しては、その認証の関係もありSpansionのブランドを使い続ける事は必須らしい。また、明言はされなかったが、Spansionが現在日本に持つ品質管理センターを生かして品質の底上げをしたいとしているあたり、将来的にはCypressの製品ラインのうち、自動車向けのものはSpansionブランドで販売される可能性もある。
次に生産に関してであるが、少なくとも今は生産拠点を統合したりする考えはまったくないとの話だった。これも冷静に考えれば当然で、Spansionの方はFab Liteの戦略を取っており、主要な製品は全部外部委託となっている。Cypressは逆にミネソタに65nm~350nmのFabを持っており、主要な製品は全部ここで製造されているほか、Foundry Serviceも提供しているが、Spansionの製品ラインの中でCypressのFabを利用できそうなものはあまり見当たらない。Kispert氏は「我々は富士通セミコンダクター(FSL)と良い関係を築いており、これを引き続き維持してゆく」としており、長期的には見直しなどは入る可能性はあるが、当面は現在のままで行くと思われる。また日本法人に関しても、現時点では特に統合などの予定はなく、引き続きCypress製品は日本サイプレスが、Spansion製品はSpansionの日本オフィスがカバーしてゆくという話であった。