日本科学未来館(未来館)では4月18日より、本田技研工業(ホンダ)が開発した座乗型のパーソナルモビリティの改良型「UNI-CUBβ」を用いた、科学コミュニケーターによる展示フロア巡回を実施中だ(画像1)。またその日は、「ASIMOを用いた自律型説明ロボット実証実験 第2弾」(画像2)のちょうど最終日でもあり、この日の未来館は「ホンダデー」ともいうべき状態だった。その模様をお届けする。

画像1(左):UNI-CUBβに乗った科学コミュニケーターがすい~っとやって来て、説明してくれる実証実験を実施中だ。画像2(右):3代目ASIMOによる実証実験の第2弾は、より説明が自然になった

まずUNI-CUBβと未来館での実証実験についてのおさらいから。UNI-CUBβ(画像3)は2013年11月に発表されたホンダの座乗型パーソナルモビリティの最新型で、2009年発表のプロトタイプ「U3-X」(画像4)、初代「UNI-CUB」(画像5:以下、初代)に続く3代目だ。ASIMOなどのヒューマノイドロボット研究においてホンダが開発したバランス制御や全方位駆動車輪機構「Honda Omni Traction Drive System(HOTDS)」(画像6)といった技術が用いられているのが特徴だ。

2012年5月に未来館を開場にして発表されたのが初代で、未来館ではそうした縁からホンダと共同で、翌6月から同機を用いた実証実験をスタートさせた。実証実験の内容は、初代を用いて科学コミュニケーターが展示フロアの巡回を行ったり、来館者が参加してのワークショップや館内ツアーを実施したりするというものだ。そうした実証実験の数々で得られたデータや、乗り心地や利用用途についての意見などのフィードバックが開発チームに対して行われ、実生活での利用を想定して改良されて登場したのがUNI-CUBβというわけだ。

UNI-CUBβはスクーターのシートに座るようなイメージで、それにより搭乗者の視点が低くなり、成人の歩行者と目の高さが変わらないか低いぐらいなので周囲に威圧感をあまり与えないという特徴がある。しかも、初代UNI-CUBよりもさらに小型化された。

移動方法はU3-Xからずっと同じで、体を進みたい方向や曲がりたい方向に傾けて体重移動するだけで行え、前述のHOTDSにより真横にも移動可能だ。ちなみに初代に比べるとUNI-CUBβはステップが大きくなっている。さらに、搭乗型のように周囲をボディーが覆っているわけではないので、未来館のような展示施設などでの利用において、乗ったままでも展示物を見て回りやすいというメリットがある。こうした展示施設やオフィス、さらには家庭内でも使えることを前提として開発された小回りの利くパーソナルモビリティがUNI-CUBβなのである(画像7~15)。

画像7(左):UNI-CUBβを斜め前方から。画像8(中):真っ正面から。細身なのがわかる。また、ステップがスタンドになってUNI-CUBβを立たせる仕組みなのもわかる。画像9(右):真横から。初代と比べると、より製品版らしいデザインになったのがわかる

画像10(左):斜め後ろから。画像11(中):真後ろから。画像12(右):シートを後方から

画像13(左):後方の旋回用車輪が何か尻尾のように見えるようになった。画像14(中):旋回用車輪のアップ。画像15(右):別角度から旋回用車輪付近のアップ

逆にあえて短所を挙げるとすれば、まずセグウェイなどの立乗型のように屋外での長距離走行には向いていないという点が1つ。当然、オフロード走行にもあまり適していない。視線が低いがゆえに、立乗型のように人混みの中で先を見通すのも難しい。また、搭乗型のように完全に背もたれのあるシートに身を預ける形ではないので、どうしても安心感・安定感は若干低めになってしまう。それほど速度が出るわけではないのですぐにその不安感は取れるのだが、搭乗者の周囲に何もないことで初めて乗った時は、どこかにぶつかるのでは? と感じてしまうのである(ただし、ぶつかりそうという時の逃げる動作が体重移動になるので、本能的に停止できたりそのぶつかりそうなものを避けられたりする)。

また転んでしまったりしないのかと心配する人もいるだろうが、初代UNI-CUBが発表された2012年5月の発表会(未来館で行われた)や共同実証実験が始まった同年6月の時点では、まだソフトウェアの完成度が今よりも低かったために倒れやすかったそうだが、その後、未来館の科学コミュニケーターも驚くほどのハイペースでホンダの開発陣によるアップデートが行われ続け、あっという間に安定感が増し、筆者も搭乗させてもらった2013年3月の時点では、倒す方が難しいぐらいになっていた。ちなみに、初代は電源を切ると当然倒れてしまうのだが、UNI-CUBβは電源を切っても立たせておけるようになった。ステップがスタンドも兼ねているのである。

ただしUNI-CUBβは、UNI-CUBと名前がつくものの、ハードウェア的にもソフトウェア的にも初代UNI-CUBとは実際には別物的なところがあり、ソフトウェア的な完成度としては、実際に利用している科学コミュニケーターの方に聞いたところでは、初代UNI-CUBの方が上だったという(4月18日時点でのUNI-CUBβと比較して)。

今後、UNI-CUBβを利用して、また来館者向けの試乗イベントも行われる予定だ。東京モーターショー2013でも試乗が行われ、乗ってみた人もいるかと思うが、今後はおそらく未来館が唯一乗れる可能性がある施設になると思うので、イベント情報などはチェックしておくことをお勧めする。というわけで、UNI-CUBβの動きもこちらで紹介(動画1)。

動画
動画1。UNI-CUBβのスムーズな走行の様子