人の多い施設内で利用する場所での利用を想定して作られたUNI-CUB

日本科学未来館では現在、本田技研工業(ホンダ)と共同して、着座型のパーソナルモビリティ「UNI-CUB(ユニカブ)」の実証実験を展開中だ。今回、その一環として、抽選で選ばれた同館友の会の会員5人を対象に、「Miraikan×Honda -実証実験 60分でも p(^-^)q スマイル! - 未来館てんこもりツアー with UNI-CUB」というイベントが実施された(画像1・2)。一般の方が複数台のUNI-CUBを使ってツアーを行うというイベントは、未来館はもちろん、UNI-CUBでも今回が初めてである。

画像1・2。未来館内を移動するUNI-CUBツアー一行

また、今回特別に最新のUNI-CUB(ソフトウェアなど内部的に発表回時に比べてかなりアップデートされている)に搭乗させてもらってきたので、その感想も含めて、ツアーの模様をお届けしたい。筆者が、実際に搭乗して操作したことがあるほかのパーソナルモビリティとの比較もしてみたい(セグウェイ(画像3)、トヨタのWinglet(画像4)、i-REALおよびi-REAL Kei(画像5)、i-unit(画像6)、産業技術総合研究所(産総研)のMarcus(画像7)、立ち乗り型マイクロモビリティ(画像8)、テムザックのRODEM(画像9)などへの登場経験あり)と思うが、今回の主役であるUNI-CUBが中心となるため、ほかのパーソナルモビリティと比較する際、結果としてほかの機体の短所を挙げるような形になってしまったところもあるが、その点はご了承いただきたい。

これは、ほかのパーソナルモビリティがUNI-CUBと比べて性能的に劣っているとか、使いづらいということではなく、未来館のような「人の多い施設内で利用する」、というUNI-CUBの開発コンセプト(UNI-CUBが最も得意とする条件下)での比較なので、どうしてもほかのパーソナルモビリティの守備範囲ではないこともあるからだ(同じパーソナルモビリティでも、どこでどう使うかの開発時のターゲットが異なっている)。

画像3。元祖パーソナルモビリティのセグウェイ。日本では最も販売されているパーソナルモビリティである

画像4。ソニーが開発し、途中で技術や開発スタッフごとトヨタに譲渡されて開発が続行中のWinglet。画像のLタイプのほか、SとMもある

画像5。トヨタのパーソナルモビリティの4代目(今のところ最新モデル)であるi-REAL(2007年)の中でも新しい警備用のi-REAL Kei(2009年)。案内用のi-REAL Annもある

画像6。トヨタが2005年の愛知万博で出展したパーソナルモビリティのi-unit。色が次々と変化していき、かなりカラフル

画像7。産総研が開発中の車いす型パーソナルモビリティのMarcusシリーズ「1」。「2」は雨天対策が施され、天板にはGPSも装備されている

画像8。産総研の立ち乗り型マイクロモビリティ。乗り心地が重視された設計になっている

画像9。九州のロボットベンチャーのテムザックが開発した「ライド型」ともいうべきRODEM

さて本題に入るとして、このUNI-CUBは、人との調和を第1に考えられて開発されているパーソナルモビリティである。もちろん、周囲の人のことを考えないで開発されているパーソナルモビリティなどはないのだが、その部分が非常に重視されているのが、UNI-CUBの特徴だ(画像10)。

画像10。ツアーは未来館が通常通りに開館している日曜日の午後に行われた。一般来館者のすき間を縫ってUNI-CUBツアー一行が移動していく

UNI-CUBはパーソナルモビリティの中では少々変わっている。セグウェイやWingletのような立ち乗り方式の倒立2輪振子型や、トヨタのiシリーズなどのような搭乗型、または産業技術総合研究所のMarcusのような車いす型などがあるが、そのどれでもない着座型だからだ(画像11・12)。

画像11・12。UNI-CUBの正面からと横から。ハイテク1輪車とか1輪車型ロボットという感じである

厳密にいえば、搭乗型も車いす型も着座するわけで、UNI-CUBも座って乗るグループの一員なのだが、とてもコンパクト(全長520mm×全幅450mm×全高745mm(ステップを除く))なこと、座面に重心移動を伝えて動かすという仕組みがほかに例がない。立ち乗り方式も重心移動で操作するが、真横への平行移動などはできないので、従来にない操作と動きをするのが特徴なのである(オムニホイールを使用した真横への平行移動を行える電動車いすなどはある)。

UNI-CUBにはまたがって座るような形になるので、その搭乗者の身体の方が外側にあるため、直接UNI-CUB本体が周囲の人に接触する前に、搭乗者の身体の方が当たるコンパクトさとなっている。前方にはヒザの方が出ているし、左右には両肩や腕の方が張り出しているという具合だ。

唯一、後方の旋回用車輪のみが搭乗者よりも突き出ており(画像13)、旋回する時やバックする時は注意が必要である(今後、開発が進んでいくことで、プロトタイプの「U3-X」(画像14)のように旋回用車輪が外される可能性もある)。どちらにしろ、本体が直接は接触しにくいし、当たったとしても人同士になる可能性が高いし、さらには搭乗者は両手を使えるし、UNI-CUB本体が倒れてしまうとしても、搭乗者のだいたい身体の下という具合なので、周囲の人にのしかかったりしない。まず周囲の人にケガをさせてしまうような事態になりにくいのである。

画像13。後方の旋回用車輪。ここだけがはみ出しており、旋回時や後進する際に周囲の人にぶつからないよう、注意が必要

画像14。プロトタイプの「U3-X」。ホンダは1989年からパーソナルモビリティの開発を行ってきており、資料によると、UNI-CUBの前に6種類のプロトタイプが開発されている

UNI-CUBはその使用目的として、ショッピングモール、空港、博物館などの展示施設、図書館、学校など屋内での使用が想定されており、人が行き交う中で事故などを起こす心配もなく、また周囲の人を怖がらせたりすることがないようにということで開発された。

そのため、歩行者よりも視線が低くなる座って乗る形なので周囲に威圧感を与えてしまう心配がないし、シート上で体重移動して操作するので両手が空いているのでとっさの時には何かにつかまったり衝撃を和らげたりといったことが可能なわけだ。

また、UNI-CUB自体が倒れたとしても搭乗者はすぐに足を着ける構造になっているので、一緒に転ぶことはまずありえない。シート高は745~825mmということで、普通なら転ぶ前にステップに載せている足が自然と地面に着いてしまう(一緒に転ぶためには、逆に相当勇気を持ってわざとがんばらないとダメである)。なので、日本科学未来館の実証実験で、これまで多数のスタッフが搭乗しているが、UNI-CUBと一緒に転倒してしまった人は誰もいないそうである。

そんな具合で、乗りやすさと同時に人との調和を非常に重視しているUNI-CUBは、未来館のような屋内施設で使用した場合、ほかのパーソナルモビリティでは難しいと思われるようなことも簡単にやってのけてしまう。

例えば、ほかのパーソナルモビリティではかなりの操縦テクニックがある人じゃないと無理だろうと思われるのが、エレベーターへの乗降だ。まして、ほかに人が乗っている環境で、なおかつ複数台のUNI-CUBで、おまけに初めて乗って30分なんて人たちの操縦でとなったら、なかなか難しいのではないだろうか。

それを今回のツアーでは、普通にやってのけてしまった(画像15)。未来館の来館者用エレベーターは24人乗りなのでゲージが大きいのは間違いないのだが、ここに3台ずつ別れて乗った上に、そのすき間にも筆者を含めた取材者や未来館スタッフが5~6名ほど乗った。これでも別にぎゅうぎゅう詰めというわけではなく、余裕を持った状態である。

画像15。UNI-CUB3台と歩行者が一緒にエレベーターに乗っている様子。ほかのパーソナルモビリティでは何台もが一緒にエレベーターに乗るのは大変である

狭い場所でも違和感を感じない存在

普通、同じエレベーターの箱の中にパーソナルモビリティが乗っていたら、正直、威圧感や窮屈さを感じてしまうのが正直なところではなかろうか。ところが、UNI-CUBの搭乗者はだいたい視線が低いので威圧されている感はないし、後方の旋回用車輪がスペースを取っているのは確かだが、混雑した電車の中で大きな旅行カバンを足下に置いている人よりはスペースを取ってはいない。ものすごく人混みに溶け込んでいたのが印象的である。たかだかエレベーターに一緒に乗っただけなのだが、これは驚きの発見だった。

また、ほかのパーソナルモビリティではその場での旋回をしようとしても構造上どうしてもスペースを必要としてしまうものが多いが、UNI-CUBは基本的には主輪1輪のみで走っているので、その接地点で信地旋回できるから、エレベーターに乗り込んだら中で回ってちゃんと前を向いて降りられるという点も評価すべきポイントだろう。ほかのパーソナルモビリティでは、乗ってから箱の中で旋回するには、24人乗りのゲージでも2台ぐらいが限界ではないだろうか。

ちなみに、マンションなどの6人乗りぐらいのゲージだったらUNI-CUB1台+人2~3名、オフィスビルなどの11名乗りぐらいならUNI-CUB2~3台+人が数名という感じのはずだ(この数字は厳密に調査したわけではなく、一緒に乗ったイメージから想像しての話ではあるが)。

そして今回のガイドツアーは、まず1階からエレベーターで常設展示「世界をさぐる」の5階に上って展示を見て回り、その後、シンボル展示「Geo-Cosmos」の周囲に設けられたオーバルブリッジをグルグルと降りて「未来をつくる」や実験工房、サイエンスライブラリーなどがある3階へ行き、そこから再びエレベーターで1階へ下りて60分という内容である(説明や練習などは事前に30分かけて行われ、ツアーそのものだけで60分だった)。

このオーバルブリッジを降っていくというのも、UNI-CUB以外ではかなり慣れないとできないと思われる(画像16・17)。未来館に行ったことのある方ならわかると思うが、あのオーバルブリッジを仮に自転車で降りるとしたら、結構怖くないだろうか? 同様に、視点がより高くなる立ち乗り型や、重心移動の仕組みがないので着座して前のめりのまま降りていくことになる車いす型だとかなり怖い気がする(唯一、搭乗型は怖くなさそうだが、その分スペースを取るのでぶつけずに通行するだけでもかなり気を遣いそうである)。

でも、UNI-CUBの場合、座った状態で視線が低いし、本能的にのけぞるとちょうど体重移動でブレーキがかかるわけで比較的乗りやすい(時速6kmを超えないよう自動的にブレーキがかかる設計にもなっている)。コンパクトなので、あまり横幅のないオーバルブリッジで人混みを抜けながら走るのも比較的優しいというところもある。

そんなこんなでスイスイ進んであっという間の1時間、参加者の複数名が「降りた瞬間に身体が重いって感じました」「1時間が早かった」と感想を述べており、かなり楽しめたようである(動画1・2)。

画像16。Geo-Cosmosを左手に見ながら、オーバルブリッジを降っていくツアー一行

画像17。オーバルブリッジを降っていくツアー一行を後方から見たところ

動画
動画1。UNI-CUBに乗ってツアーが館内を移動していく様子。狭いところもなんなく抜けていく
動画2。オーバルブリッジをツアーが移動していく様子。この日始めて乗った人たちとは思えないほどすんなり降っていく