それでは実際に今年のCS大会の様子に触れていこう。今年の競技部門で、最大の焦点となったのが完走率だ。昨年はインもアウトも52チーム中47チームが完走しており、90.4%ほど。さすがは強者のみが集まるCS大会というハイレベルな争いだった。

しかし、今年はまさかの展開。インコースの完走率は16チームで40%、アウトコースは21チームで同52.5%、両コースの平均で46.25%という具合だったのだ。昨年の約半分まで完走率が落ち込んでしまったのである。

いうまでもないが、CS大会にやってくるようなチームは、地区大会でボーナスステージのゴールである「ガレージ」までたどり着いたチームが多く、高い実力を有していることは明らかだ(画像3・4)。

画像3。ガレージインを決めた「R-GRAY BLACK」ソフトウェアコントロール西日本事業部/関西:大阪)

画像4。華麗にバックガレージインを披露した「AT者限定~あとす~」(富士ゼロックスアドバンストテクノロジー/南関東:神奈川)

しかし、そんな強豪たちが、1コーナーでオーバーランして転落といった具合でベーシックステージの完走もままならない事態が続出した。もちろん、ボーナスステージも最終のガレージインまで到達できない(画像5~8)。これがCS大会の魔力か、といったところである。

画像5。1コーナーをオーバーランして、ステージから転落してしまうチームも多々見受けられた

画像6。1コーナーをクリアできないチームも多かった。こうしたコースアウトのほか、転落してしまうチームもあった

画像7。完走できた後もままならない。階段のクリアに失敗して、脱輪してしまうチームも。階段はシーソーより難しいという話もある

画像8。シーソーももちろん簡単ではない。こうしてシーソー上で倒れるチームは少ないが、下りた時にバランスを崩すことが多い

そこでETロボコン実行委員会の星光行本部・実行委員長をはじめとする運営スタッフの方々に話を聞いてみたところ、昨年と大きく異なっていた環境要因が1つあったという。会場は、昨年同様にパシフィコ横浜の会議センター3Fの大会議室だったのだが、実は天井の照明の条件が異なっていたのだ。昨年は蛍光灯のみだったのが、今年は白熱電球もついていたのである(画像9)。

その程度で何の影響が? と思われる方もいるかも知れない。しかし、走行体はたった1つの赤外線センサ(NXTのセンサは価格的におおよそ5000~6000円)を用いて、白地に黒のライン(正確には白地と黒のラインの境目)をトレースしてコースを走っていくため(ライントレースは絶対条件ではないが、大多数のチームがトレースして走る)、白熱電球がついているといないとでは、まったくセンサにとって見え方がが変わってきてしまうのだ(画像10)。

画像9。パシフィコ横浜の会議センター3Fの大会議室の天井。梁と梁の交点にある白熱電球がついていなければ、また違った展開になっていた可能性あり

画像10。車軸の中央に下向きに設置された白い直方体が赤外線センサ。コース上の黒いラインの横が赤く照らされており、センシングしている

要は、白熱電球からの光がまんべんなくコース全体に降り注ぎ、どこの明るさも同じ、どこの白も黒(そのほか難所の前など一部ではラインがグレーになる)も色温度的に同じ、ということであれば問題はない。しかし、大会議室の天井の高さや白熱電球の配置間隔などの諸条件によって、そうではなくなってしまうことが大きな問題なのである。

人の目で見た場合はまったく変わらないように見えるのだが、センサのレベルでは場所によっては同じ白や黒のはずが違って感知されるため、地区大会とまったく同じコースレイアウトなのだが、実は難易度は遙かに上だったということらしい(ほかにも理由があったかも知れないが、結局詳細な原因はわからなかったため、大きな理由の1つと推測された)。

東京地区大会のスタッフでもある早稲田大学グローバルソフトウェアエンジニアリング研究所の所長で、同大基幹理工学部情報理工学科の鷲崎弘宜 准教授に教えてもらったのだが、これに対応するには、「多点キャリブレーション」が有効だという(画像11)。こまめに複数の場所で白と黒とグレーの確認をしておけば、走行体が白なのか黒なのか、それとも違う色なのか間違ってしまう確率を下げられるというわけだ。

今回、左へ曲がる1コーナーでコースアウトする走行体が多かったところを見ると、白熱電球の影響もあるだろうし、1コーナー付近は熱気が結構あり(記者も前半はそばに座っていたのだが、意外と暑かった)、赤外線センサではラインがどう進んでいるのか、判別しにくい状態だったのではないだろうか。そのため、左に曲がっているのがわからず、1コーナーを飛び出して転落、という事態に陥っていたのかも知れない。

そのほか、1コーナーをクリアできても、2コーナーや3コーナーでもコースアウトして転倒や転落を喫してしまうチームもあり、とにかく今年は完走率が低かった(画像12)。

画像11。現場の環境に合わせてキャリブレーションしているところ。写真は難所前にそれを予告する特別なラインカラーであるグレーを調整している場面

画像12。3コーナーでコースアウトするチームもいくつかあった。1コーナーに近いので、ここら辺は難所だったのだろう

また優勝チームのメンバーにインタビューした際に聞いた話では、横方向からの光も強かったという(原因までは不明)。よって、インコースは影響が低めだったが、アウトコースでは厳しかった、ということである。ただし、それでもインもアウトもガレージまでたどり着いているチームもあり、やはりプログラム次第、というところのようだ。