大手半導体メーカーのFreescale Semiconductorは、6月18日~21日に米国テキサス州サンアントニオで顧客向けの講演会兼展示会「Freescale Technology Forum(FTF) Americas 2012」を開催した。すでにイベントの概要は大原氏のレポート記事で報告されている。本レポートでは、6月19日の午前に設けられた基調講演セッションの概要をご紹介したい。
この基調講演セッションは、実質的にはイベントのオープニングセレモニーでもある。照明を下げた会場でまずはオリジナルのオープニングムービーを上映し、Freescaleの半導体ソリューションが我々の社会や生活などを支えている様子をデモンストレーションした。
オープニングムービーが終わるとすぐに、同社の最高経営責任者(CEO)を務めるGregg Lowe氏が登場した。Lowe氏は、半導体チップが世界をよりスマートにしていくこと、そのためにFreescaleは、組込みプロセッシング(マイクロプロセッサ、マイクロコントローラ、DSP)、制御(アナログ)、通信接続(RF)、センス(センサ)、ソフトウェアを顧客に提供していくと述べていた。
2015年には56億台のモバイル機器がネットにつながる
続いて、講演者が切り換わった。ネットワーク製品とマルチメディア製品を担当する事業部門「NMSG(Networking & Multimedia Solutions Group)」のSenior Vice President and General Managerを務めるTom Deitrich氏が登壇した。
Detrich氏は、2015年までに全世界で56億台のモバイル機器がWebサイトに接続するようになるとの展望を示した。Webサイトへの移動体通信インフラを支えるのは、携帯電話システムの基地局でも小さなセルである。フェムトセル(ユーザー数が8名~16名程度)やピコセル(ユーザー数が32名~64名程度)といったセルが増えていく。
NMSGのSenior Vice President and General Managerを務めるTom Deitrich氏 |
2015年までに全世界で56億台のモバイル機器がWebサイトに接続するようになる |
自動車の「環境対策」と「安全向上」を支える
そして再びCEOのLowe氏が登壇し、講演の話題を自動車分野に切り換えた。自動車分野の抱える課題は「環境」と「安全」である。Lowe氏は1975年から2025年までの50年間に自動車の燃費(1ガロン当たりの走行距離)が5倍強に向上し、排ガス量(走行距離当たり)がおよそ4分の1に低下するとのトレンドを示した。このトレンドをけん引するのがハイブリッド自動車と電気自動車で、ハイブリッド車は2009年~2014年に年率37%の割合で、電気自動車は年率110%の割合で台数が急激に伸びるとした。また米国の2011年における交通事故死者数は3万2,310名で、1949年以来の低い数値になったと説明した。
次に、自動車用製品と産業機器用製品を担当する事業部門「AISG(Automotive, Industrial & Multi-market Solutions Group)」で自動車部門を担当するRay Cornyn氏が登壇した。
Cornyn氏は、ガソリン自動車の効率はあまり高くなく、ガソリン・エネルギーが自動車の走行に使われる割合は13%に過ぎず、一方で70%は熱となって消えてしまうと述べていた。アイドル状態でもガソリン・エネルギーの17%を消費するほか、変速機におけるエネルギー消費が6%、パワー・ステアリングやエアコンなどにおけるエネルギー消費が2%あるという。低いエネルギー効率を高めるための手法として、ブレーキングのときに発電機を回してバッテリを充電する機能を挙げていた。
また最近になって注目されている「機能安全」と呼ばれる考え方を実現するためのソリューション「SafeAssure」を紹介した。衝突警告機能や車速/車間自動制御機能、視界360度のカメラビュー機能などを実現する製品を提供する。
衝突警告(Collision Warning)機能や車速/車間自動制御(Adaptive Cruise Control)機能などによって自動車の安全を確保する。手前のクルマは「SafeAssure」を実現するコンセプト・カー |
ARMコア32ビットマイコンの低消費電力をアピール
そして講演者は、AISGのSenior Vice President and General Managerを務めるReza Kazerounian氏に交代した。Kazerounian氏はARMコア内蔵32ビットマイコン・ファミリ「Kinetis」のローエンドに相当する「Kinetis L」シリーズを用意したことで、既存の8ビットマイコンから16ビットマイコン、そして32ビットマイコンまでをKinetisファミリでカバーする態勢が整ったことを強調した。
AISGのSenior Vice President and General Managerを務めるReza Kazerounian氏 |
ARMコア内蔵32ビットマイコン・ファミリ「Kinetis」が既存の8ビットマイコンから32ビットマイコンまでをスケーラブルにカバーする |
そしてゲストとして、ARMコアのベンダである英国ARMでChairman and CEOをつとめるWarren East氏が登壇し、「Kinetis」ファミリを構成する各シリーズの位置付けを説明した。これまではARM Cortex-M4コアを内蔵する「Kinetis K」シリーズと「Kinetis X」シリーズがあり、このほど新たにARM Cortex-M0+コアを内蔵する「Kintis L」シリーズが製品化された。ARM Cortex-M0+コアを内蔵する初めてのマイコン製品となる。
Kazerounian氏とEast氏が壇上に残っているところで、AISGのSenior Systems Engineerを務めるEduardo Montanez氏も登壇。そしてMontanez氏がKazerounian氏とEast氏に説明する形で、Kinetis Lシリーズと競合製品との性能比較テストをデモンストレーションした。競合製品はいずれも16ビットマイコンで、Texas Instrumentsの「MSP430」、Microchip Technologyの「PIC24」、ルネサス エレクトロニクスの「RL78」である。
テストの結果は、当然というか、Kinetis Lシリーズが消費電力当たりの性能値で競合製品に比べてかなり高い値を示していた。競合製品はシリーズ名だけの表示で詳しい型名が明示されておらず、この結果だけから判断を下すのは早計だと思われるが、それでもARM Cortex-M0+コアの1mAあたりの性能値がそれなりのものであることがうかがえる結果となっていた。
テストの動作フロー。まずバッテリを充電し、マイコンを初期化する。それから「CoreMark」ベンチを動かし、バッテリが残っていることを確認し、スリープ・モードに入る。5秒後にスリープを抜け、「CoreMark」ベンチを走らせる |
性能比較テストの結果。消費電力当たりの性能(CoreMark/mA)で競合製品に比べ、Kinetis Lシリーズが高い値を得ていた |
最後にCEOのGreg Lowe氏が再び登壇し、まとめの言葉を述べて基調講演を締めくくった。振り返ってみると、半導体があらゆる分野で用いられるようになり、特に自動車のエレクトロニクス化やさまざまな機器の低消費電力化をけん引する重要な役割を担うようになってきたこと、そしてそうした分野の中心に居るのがFreescaleであるということが強くメッセージとして打ち出されたものであったと感じる基調講演であった。