米Adobe Systemsは、10月3日から3日間にわたって開催したユーザカンファレンス「Adobe MAX 2011」にて、新しいクラウドサービス「Adobe Creative Cloud」と、それに紐付くタブレット向けアプリケーション群「Adobe Touch Apps」を発表した。パッケージアプリケーションベンダーであるAdobeが本格的にクラウドに参入する形になるが、依然としてその詳細は明らかになっていない。今回、Touch Apps担当の同社Principal Product Manager、Mobile Digital ImagingのJohn Nack氏に話を聞いた。

Adobe Systems Principal Product Manager, Mobile Digital Imaging John Nack氏

――まず、Adobe Touch Appsはどういう経緯で誕生した製品なのでしょうか。ユーザのニーズを反映させたものなのか、あるいはAdobeからユーザに対する「こういう使い方をして欲しい」という提案なのか。

際どい質問ですね。はっきり言ってしまえば、顧客が何が欲しいのか模索している段階なのです。我々は顧客に望まれていると思って出すわけですが、ときには意に反して気に入られないこともあります。

9月に出したCaroucelには、明確なニーズがありました。PhotoshopやLightroomを使っているユーザから、大量の写真をもっと大きなスクリーンで、またはいろんな種類のデバイスで見たいと言われていました。その意見を反映させたのです。

しかし他のツールでは、それほどニーズがはっきりしていないものもあります。そのような場合には、Adobeの側からビジョンを示していかなければなりません。今回発表したTouch Appsの場合、必要とされているであろう個々の機能は分かっているのですが、ユーザのライフスタイルの中でそれがどのような使われ方をするのかについては、確たるビジョンがあるわけではない、というのが正直なところです。

――それは実際に使ってもらってフィードバックをもらいたい、というメッセージと受け取っても構いませんか?

はい。今は非常にエキサイティングな時代だと感じています。モバイルデバイスはアメリカではまだまだ新しいものであって、こうでなければいけないというものはありません。我々は、おそらくこういうツールをユーザが一番望んでいるのではないかと考えて開発していますが、それがいつも正しいとは限りません。ダイナミックな会社としてフィードバックを吸い上げていきたいと考えています。

あくまでひとつの指針としてですが、Touch Appsのようなツールを一番望んでいるのはどのようなユーザか、私の考えをお話しても構わないでしょうか。対象は2種類のユーザに分けられると思います。ひとつは比較的カジュアルなユーザです。クリエイティブなことにチャレンジしたいが、本格的なツールを使うほどではない、というユーザ層です。従来のAdobeの製品はハイエンドなユーザを対象としたものでしたが、そのような技術をより一般的な人に向けて提供できる面白さがあると感じています。

もうひとつは既存のAdobeユーザです。すでにハイエンドなツールを使っている方々には、Touch Appsを補完的に使っていただきたいと考えています。アイデアを短時間でさっとまとめ、それをタブレットからクラウドにアップして共有する。あるいはCSのツールに取り込んで編集する。そういう新しいエクスペリエンスを体感してもらいたい。

――あくまでも既存製品の補助的なものであると。

今まであったものの代わりになるものではないと思います。それはただの小型化であって、まったく新しい製品とは言えません。例えばテレビとラジオのように、補完的に使うことでより多くの価値を得られる、そんな関係になることを望んでいます。

――既存のCSユーザにとっては何が変わってくるのでしょうか。

まだ全ての情報が明らかになったわけではないのではっきりとは分かりませんが、私が期待している変化は、選択肢が増えるということです。我々は色々なツールを多くの人に使っていただくことを望んでいます。その裾野を拡げていきたい。とはいえ、今まで使ってきた人達が不便にることは避けなければいけません。

Touch AppsやCreative Cloudについては、これからもまだたくさんの情報が出てくると思います。あまりに大きな変化を求められるので、混乱がないように、首脳陣は情報を小出しにしているのではないでしょうか。

――ユーザの反応を見ながら決めているのではないか、とも受け取れますが。

その可能性もあるかもしれません。私も開発者の立場の人間なので、なかなか全ての情報が出てこないでストレスを感じているという皆さんの気持ちも理解できます。私も少し同じ気持ちです(笑)。

――Touch Appsのコア部分はAIRを使って作られているとの話でした。

そうです。AIRを使うことに決めた一番の理由は、ひとつのコードベースで複数のデバイスをターゲットとすることができるという移植性の高さです。デバイス固有の機能にはNative Extensiinsで対応しています。また、パフォーマンスの実現にもNative Extensiinsが役立っています。

いまは変化の激しい時代ですから、その変化に対応するためにはでデバイスに依存しない共通の枠組みというものが必要です。iOSやAndroidだけでなく、Windows 8やBlackberryなども視野に入れたとき、移植性の高さは極めて大きな利点になります。

――タブレットだけでなく、デスクトップ版に移植するようなビジョンはあるでしょうか。

技術的な面で言えば、市場にニーズがあれば選択肢としては考えられます。ただ、今はまだ発表されたばかりですから、膨大なリクエストが出ている中で優先的にやるべきことをどう選んでいくか、それを考えなければなりません。まずはタッチ・ジェスチャーで新しいユーザエクスペリエンスを感じてもらうことが中心になると思います。

――各ツールとつながるクラウド側のインタフェースはどのようなものになっていますか。

今のところはAdobe内部で決めた仕様のAPIになっています。ですが、例えばCaroucelで言えば、すでにGoogle PicasaやInstagramなどといった他の写真サービスと連携できないのかといった要望が届いています。我々としても、Creative Cloudと他のクラウドサービスとの連携ということは設計段階から念頭においてきたので、そういった未来像も可能性のひとつとしてあると思います。

――APIを公開してサードパーティ製ツールから接続できるようになる可能性などは?

十分に考えられます。現時点ではまだそういった具体的な計画はありませんが、ニーズがあれば対応していかなければなりません。

我々の目標は、ユーザにとって使いやすい、有用なツールを提供していくということです。そのために、ユーザの皆さんにも協力していただいて、意見や要望をどんどん出してもらえたらと思っています。