群馬大学大学院工学研究科の櫻井浩教授、日本原子力研究開発機構(JAEA)の安居院あかね研究副主幹、高輝度光科学研究センター(JASRI)の伊藤真義副主幹研究員らの研究グループは、磁気コンプトン散乱を利用し、磁気記録材料であるTb43Co57アモルファス合金薄膜において、従来のマクロな測定方法だけでは不可能な、スピン成分と軌道成分を分離した磁化曲線を測定することに成功した。同成果は大型放射光施設「SPring-8」の高輝度・高エネルギー・円偏光X線を用いることで実現されたもので、応用物理学系の専門誌「Applied Physics Express」に掲載された。

次世代デバイスとして期待されるスピンエレクトロニクスデバイスは、磁場によるスピン制御を利用しているが、その材料開発はマクロな磁化測定に基づいて行われている。

磁性の起源は、電子自身が持つスピン成分と電子の運動による軌道成分から成り、従来のマクロな磁化測定では、スピン成分と軌道成分を合計した全体の磁化を観測するにとどまっておりミクロな磁化過程の観測は不可能であったため、磁性材料の高性能化に向け、スピン成分と軌道成分を分離し、それぞれの特性を調べるミクロな磁化測定が求められていた。

磁気材料であるTb-Coアモルファス合金薄膜は、スペリ磁性と呼ばれる特殊な磁気構造を有しており、高密度磁気記録材料として利用されている。磁性材料開発においては、ミクロな磁化反転過程の解明は高性能化の鍵となることから、研究グループではこれまで、磁気コンプトン散乱効果を利用して、スピン成分のみを選択した磁化反転過程の測定(スピン選択磁気ヒステリシス測定)が可能であることを実証してきた。

図1 マクロな磁化測定では全体の平均的磁気成分を測定する様子(a)と、ミクロな磁化測定ではスピン成分(矢印)、軌道成分(円軌道)を測定する様子(b)

今回の研究では、Tb43Co57アモルファス合金薄膜について、SPring-8の高エネルギー非弾性散乱ビームライン(BL08W)でスピン選択磁気ヒステリシス測定を実施した。

また、その結果を、マクロな磁化測定と組み合わせて解析し、スピン成分の磁化曲線と軌道成分の磁化曲線を分離することに成功したほか、スピン成分が軌道成分に比べて磁場に対して安定であることを見いだした。

図2 マクロな磁化測定(全磁化)、スピン成分の磁化曲線(●)、軌道成分の磁化曲線(○)をそれぞれ示している

同研究結果は、スピンエレクトロニクスデバイスの高性能化のためには、スピン成分・軌道成分個別の磁化過程の特性に基づいて、材料設計することが重要であることを示したもので、研究グループでは、これにより、スピンエレクトロニクスデバイスの材料開発において、スピン成分・軌道成分個別の磁化過程の特性を利用することで、デバイスの高速・省電力化を進めることができるようになるものとの期待を示している。