東京海上日動システムズは、東京海上グループ内の情報システムを手がける情報システム会社だ。2004年に、東京海上システム開発、日動火災システム開発、東京海上コンピュータサービスの3社が合併し、現在の形となっている。そんな東京海上日動システムズに、社内SNSがあるという。

東京海上日動システムズ経営企画部ソリューションプロデューサ楠目祥平氏、同部ソリューションデザイナ籔田里恵氏、アドバンス企画部ソリューションプロデューサ山口敬之氏、同部プロダクトエンジニア河野美紀子氏に、社内SNSの効果や取り組みなどについて話を聞いた。

インフォーマルなコミュニケーションの場

同社では、社内SNSを分業制で運用/運営している。システム面の運用はアドバンス企画部、運営面は経営企画部が担当する。

2005年、すべての社員が創造的に活き活きと活動できることを目的とした、ワークスタイル改革活動(Waku Waku WorkStyle)が全社取組として始まった。その一環として、エンドユーザーへの訪問、他社との交流、コミュニティ活動、社内交流、情報発信など、部の枠組みを超えた横断的な活動を行ってきた。社内SNSはアドバンス企画部が社員の有志を集めて主催しているIT利用技術研究会が2006年12月から研究をしており、2007年に取り組みとして提案。「社内SNSはWaku Wakuっぽい」ということで、会社全体として取り組むことになった。

全員参加型、実名性で参加

社員と業務支援スタッフが利用でき、実名性の全員登録制だ。社員数は約1,350名で、業務支援スタッフを入れると約1,500名が参加できるようになっている。そのうち1445名が参加している。全社員の8割近くがいる多摩市の本社の他、新宿、東銀座、大崎、千葉に拠点が分かれているため、顔を知らない社員や、拠点間の社員の交流に使われている。

アクセスは会社からのみ可能で、携帯電話からは不可だ。ただし昨年度から、トライアル的にシンクライアント端末を用いた自宅からのアクセス・書き込みを試行している。業務の一環という位置づけのため、就業時間中の閲覧/書き込みは禁止していないが、自然と朝の就業前とお昼休みに日記やコメントなどの書き込みが多くなっている。

日記、コミュニティ、メッセージなど、OpenPNEのデフォルトの機能をそのまま利用しているが、圧倒的に人気なのは日記だ。日記は月曜や金曜という休日前後をピークに、1日平均で約40件上がる。全体公開が多く、内容はプライベートのことが大半だ。

リアルにつながるコミュニティ

コミュニティには、大きく業務系と趣味系がある。業務系は、委員会やIT技術系、プロジェクトなど。クラブ活動、旅関連、音楽や写真、食べ物系などの趣味系は、さらに盛り上がっている。4月には114個だったが、その後5カ月で約50個も増えており、トピック数も右肩上がりだ。

旅コミュニティは、最初「今まで行ったところでどこがいいか」という情報交換の場だったが、盛り上がって実際に国内旅行に出かけることになったこともある。

プロジェクトによっては、コミュニティが仕事に使われているところもある。関係者が集まれない時などにトピックを立てて論議をするのに活用されているのだ。ただし、SNSは情報が埋もれてしまうので、資料を蓄積する場合は別にあるポータルを使っている。

その他、仲間を募ったり情報共有したりするのにも使われている。たとえば、「代理店さんへの訪問を活性化させましょう」というテーマがあると、それに対してやりたい人が6、7人手を挙げ、活動が始まる。「SNSは部をまたいだ情報を共有するのには一番いい。多くの業務は部内で完結するが、組織をまたいだ活動になった途端SNSが便利に使える」と楠目氏は語る。その他、「日記やコメントのやりとりで仕事がやりやすくなった」という意見が目立つ。

東京海上日動システムズの社内SNSのトップページ

SNSユーザの「マイページ」にあたるページ

写真がデータベースを逼迫

利用しているのはOpenPNEだ。野村総研やNTTデータが使っていたことや、グループ会社の東京海上日動あんしん生命が先行して使っていたなどの理由から決めた。まず基本のシステムを作り、その後認証基盤をカスタマイズし、2007年6月にサービスを開始した。

順調にユーザー数・アクセス数が増えてきた2008年、初期構築時の想定以上の速さでデータが増加し、レスポンスが悪化した。このため、2009年の春にバージョンアップと機器入れ替えを行っている。一番の原因は、日記などに添付される写真が増えてきたことだった。

このバージョンアップを担当したのが河野氏だ。河野氏は手嶋屋のユーザー会に初回から参加しており、ここでの情報交換が大いに役立っているとのこと。ユーザー会での情報をヒントに、バージョンアップ作業を見事に完遂した。「絵文字機能が意外に喜ばれました。」(河野氏)、「盛り上がって嬉しい反面、リソース管理が大変」(山口氏)

蓄積は他のツール、SNSはその場での交流

同社には、同時期にeラーニング、Wiki、SNSができている。

Wikiは、損害保険用語、生命保険用語、システム用語などのカテゴリで、編集したい人がしていく仕組みだ。eラーニングは、各部ごとに眠っているノウハウの蓄積活動を行っている。昨年はかなりの書き込みが貯まった他、教材が生まれており、今年はさらに内容が充実しているという。「Wikiやeラーニングでは知識の蓄積を、SNSは聞いたらその場で答えてくれる人がいることが価値となると考えている」(楠目氏)

ルールを設けず柔らかく運営

社内SNSへの参加は、社員全員参加のコミュニティを社内SNSの構築メンバーが作成し、メールで促した。スタート時に約6割の社員が登録した。社長から一言「社内SNSを作ったので参加してほしい」という言葉があり、翌月さらに約2割の社員が入ってきた。それ以降は順調に増えている。周りが使っているのを聞いて入ったり、コミュニティ参加時に「必要なことはSNSに書いてあるから見て」と言われて入ったりなど、口コミに由来するところが大きい。

経営企画部は、ユーザーを増やすこと自体を重視はしていない。当初、籔田氏は、NTTデータに訪れてもっと活性化する方法を議論したことがある。しかし、「私たちがサクラのように毎日書き込んだり、毎日トピックを上げるという方法もあるが、それでは自発的な使い方ではない」と考えた。問題がある時に対応するのは経営企画部だが、ファシリテーターというわけではない。

ルールなどは特になく、社員のモラルに任せる部分が大きい。企業によっては活動を業務内に限定するところも多いが、制限を設けていないので柔らかいものが多いのが特徴だ。「ここまでプライベートな内容を書き込むとは思っていなかった。」と楠目氏は語る。

部署を超えた交流につながる

社内SNSを開始したおかげでさまざまな効果があった。部署を超えて交流があったり、会った時に「日記をいつも読んでいます」というやりとりがされている。会ったことがない人の日記にコメントしたことをきっかけにして、実際に会おうと飲み会が開かれたこともある。

「最初は全社課題の吸い上げや知識共有も狙っていたが、進める上でそんなに重要ではないのかなと考えるようになった」と楠目氏。「社内SNSは、会社の課題を吸い上げる仕組みというより、一人一人が持っている課題意識や気づきが出てくるツールではないか」。たとえば社員が「本を誰かに譲りたいが、簡単にできる場はないか」と書き、それを見て他のメンバーが「総務に働きかけます」とし、総務が仕組みを作るという動きにつながることがある。そのように、社員の気づきを経営企画などしかるべき部門や経営陣が見ることで組織が変わる可能性があるのだ。

面白いのは、オフの会話でも必ずオンにつながることだ。オフでのやりとりが、「飲みに行こうか」というオンにつながる。逆に、普段はオンで交流しているが、打ち合わせ時間が少ないのでSNSでコミュニティを作りオフで交流するというケースもある。社員に社内SNSがツールとして定着し始めてきたということだろう。「開始後一年くらいは日記中心だったが、コミュニティが増えてきて、社員も使おうとし始めているのを感じる」(楠目氏)

社長の声かけで情報の授業に挑戦へ

部長級以上の管理職や役員も社内SNSに参加している。導入期に日記で最もアクセスをとったユーザーは、常務に当たる役員だった。最初はやる気ではなかったものの、社員との会話の中で話題になったため「役員もやらなきゃダメだ」と考えて始めたところ、とまらなくなったのだ。「面識がない人からのコメントがおもしろい」と、毎日日記を3個くらい書いていたという。

社長が「高校の情報科の授業を助けたい」トピックをSNSに立てたこともある。やりたい人が手を挙げて、実際にコミュニティが立ち上がり、官庁との打ち合わせにまで発展した。社長は、確実に出したいメッセージはメールや会議で出すが、SNSもチャネルの一つとして利用したり、見るのを楽しみにしているという。たとえば、公式の場では「プロジェクトは順調です」という報告だけだが、SNS内では「必死になって頑張りました」などの社員の生々しい声が聞ける。そのように、社員がどのような思いで仕事をしているのかが分かる場としてとらえているという。

SNSより会社自体の活性化を

「SNSは結局ツールで、今の組織を映す鏡。SNS自体を活性化するというより、会社自体を活性化し、一人一人が思いを口にできる会社であることが大事」と楠目氏は考える。「社内SNSをどういう使い方をするか、何を求めて周りに発信するかも社員一人一人に任せる。自然体で望んで自然体で発展してくれたらいい」

また、「どんなコミュニティが生まれるかも大事」という。社員の関心が高い事柄についてコミュニティは自然発生的に生まれてくるという考えだ。会社が大事に考えていてもコミュニティがまだ立ち上がっていなかったら、何か阻害要因がないか、より関心を高めるにはどうするか考えて働きかけ方を考えていく。「社員が活き活きとしていろいろなチャレンジができるように環境を整えていきたい」