学生に理解されていないモノづくり産業

エレクトロニクスとは何か、と問われて今の大学生は、自分には関係のない概念で"何やら難しいもの"、と考えていることがわかった。これは、私が城西大学経営学部の学生に"エレクトロニクス産業の今"について講演(講義)させていただいた際に学生に聞き、レポートを提出してくれたものをまとめた結果である。レポートは全部で211名からいただいた。

講演を始めるにあたって最初にエレクトロニクスやITという言葉から何を連想するか、一体何だと思うか、あるいはエレクトロニクス製品とは何を指すか、などの質問をしてみた。いきなり講師に質問されて学生たちは面食らったようだが、IT=パソコン、インターネット、何か難しいもの、というような答えが返ってきた。エレクトロニクスとは、電子工学、あるいは電子を利用する仕組みや概念を指すものと、たとえ定義しても逆に訳がわからなくなってしまう。このため、私の講義はエレクトロニクス製品をまず紹介することから始めた。

常に身近にあるエレクトロニクスの存在を理解させる

最初の説明に導入したのは、学生の目を引く目的もあったが、自作の自宅クリスマスイルミネーションを紹介した。光るのはLEDと呼ばれる半導体チップであり、これも立派なエレクトロニクス製品にたくさん使われている。逆に光っているから目に見えてわかりやすい。だから訴えやすい。

その次に最新のiPhone 3GSの写真を見せた。ここに搭載されている機能、音声入力やコピー&ペースト機能などを紹介した。これらを動かす機能を実現しているのは半導体チップであることを強く印象付けるため、iPhone 3Gの分解写真も見せた。LCD、筐体、半導体が所狭しと搭載されているプリント基板、カメラ、タッチパネル技術などを簡単に紹介した。

iPhone 3Gの分解(左)とキモとなるプリント基板(右)

この後で、エレクトロニクス製品が20年前と現在とで、どう変わってきて私たちの生活を変えてきたか、電話、テレビ、自動車、コンピュータなどの違いを紹介し、エレクトロニクステクノロジーがいかに私たちの生活に影響を与えてきたかを説明した。次に、その製品を作るために参加しているさまざまな企業を紹介した。iPhoneだと、半導体、LCD、プリント回路基板、筐体デザイン、材料、タッチスクリーンなどを提供するハードウェアメーカーに加え、新しい機能を提供するソフトウェアメーカー、など実にさまざまな企業がかかわっていることを説明した。さらに、半導体チップだけでもSiウェハ、設計、製造、製造装置、材料、パッケージ、製造装置に使う化学薬品など、さまざまなハードウェア企業、チップに焼き付けるソフトウェアを作るメーカーなど、半導体チップを作るだけでもさまざまな企業が参加していることを伝えた。

現在の製品種類 20年前の製品 前世代の産業 何がどう変わったか これからどうなるか
携帯電話 家の黒電話 電電公社 家庭から個人へ
無線にTV付き
スマートフォンへ移行する可能性がある
iPhone
(スマートフォン)
該当見当たらず - - -
パソコン ブラウン管
デスクトップ
コンピュータメーカー LCD化
ノートブックへ移行
スマートブックへ移行する可能性
テレビ ブラウン管据え置き型 家電メーカー LCDやプラズマへ 本当の壁掛けの実現
デジタルカメラ 機械式カメラ 精密機械メーカー 失敗ができる
その場で確認可能
アルバム不要
笑顔しか写さないなどの技術が登場
MP3プレーヤ MD/CDプレーヤ 家電メーカー 小型化、ポケットに入って1万曲集録etc イヤフォンのワイヤレス化
動画再生機能
ICレコーダ テープレコーダ 家電メーカー ランダムアクセス可能
テープ不要
MP3プレーヤとの一体化
Blu-Rayレコーダ VTR 家電メーカー ランダムアクセス可能
テープからディスクへ
ダウンローダブル or HDD化
FAX/プリンタ オフィス機器サイズ 精密機器メーカー インク技術の進展
機能の複合化
さらなる複合機化
クルマ
(パワーウンドウ、LEDライト、バックモニタ、カーナビ)
手動式 自動車メーカー 燃費/安全性/快適性の向上 電気自動車化
プラグインハイブリッド
燃料自動車
今の製品と20年前の製品の比較

もちろん、エレクトロニクス産業/半導体産業の進化が今でも止まらないことについて述べ、新聞が書き立てているような落ち目の産業ではないことを世界の半導体企業の業績と日本半導体企業の業績を比較し、世界では伸びているが日本ではうまくいっていないことを紹介した。もっとも簡単にその原因を説明するために、ダーウィンの言葉を引用した。「未来に生き残るものは強い者ではない。賢い者でもない。環境の変化に対応できるものだ」という言葉はそのまま、日本企業に当てはまる。蛇足だが、ボブ・ディランの「時代は変わる」という歌の最後が「時代は常に変わっており、今1番でもいずれビリになる、今が旬でもすぐに廃れる、時代は常に変わっているから」という歌詞で終わっているがこれも追加した。

半導体産業の伸びは止まらない(出典:WSTS)