そして、Rockは、並列プログラムを書きやすくする切り札と言われているトランザクションメモリもこの機構を使って実現している。トランザクションの開始命令が発行されると、レーテンシの長い命令に遭遇したのと同様にEXEスレッドを開始する。

トランザクションが使用したキャッシュラインが他のプロセサ上で実行されているトランザクションで書き換えられていないかどうかなどのコンフリクトは、ストア要求を保持しておくL2$のストアバッファが監視しており、コンフリクトが検出されるとトランザクションは失敗する。

コミット命令の実行までにメモリアクセスのコンフリクトが検出されなければトランザクションは成功であり、ストアバッファに溜まったストア要求をメモリに反映する。但し、このストアはアトミックでなければならないので、全てのストア要求が処理されてしまうまで、関係するキャッシュラインをロックしてストアを行い、他のプロセサからのメモリアクセスが割り込まないようにしている。

このようにトランザクションメモリモードでは、トランザクションの全てのストアはコミットまでストアバッファに溜めておく必要があり、32エントリのストアバッファがあふれると、自動的にトランザクションは失敗になる。但し、連続するストアが同じキャッシュラインの場合には、一つのストアバッファエントリに纏めてしまうというストアコンプレッション(ストアマージとも言う)を行っているので、保持できるストア要求の数は、一般に32より大きくなる。また、EXEスレッド内のNTオペランドを持つ命令を延期命令キューに書き込むので、この延期命令キューがあふれた場合にも、ストアバッファの場合と同様に、トランザクションは失敗となる。

このようなサイズ上の制約はあるが、このハードウェア機構で処理できるトランザクションも多く、Javaなどの性能向上に大きな効果があるという。しかし、商用のサーバとしてはより大きなトランザクションも処理する必要がでるので、小規模トランザクションはハードウェアで処理し、大きなトランザクションはソフト処理するハイブリッド方式のトランザクションメモリシステムを実装する必要がある。

Rockのマイクロコアは、65nmプロセスを使用し、14平方mmと非常に小さいが、Out-of-Order実行の4命令Issue構造を持つ。加えて、2スレッドサポートで4組のアーキテクチャレジスタを詰め込んでいる。そして、スカウト、EXE、SST実行モードと言う高い実行性能を達成できるメカニズムを、業界で初めて採用したことは、高く評価できる。また、来年後半の実用化時点では、トランザクションメモリのハードウェアサポートを実現した業界初のプロセサとなると予想される。