筆者の携帯電話にも毎日届く、さまざまな広告ショートメッセージ(SMS)や意味不明なセールスの電話。それこそ早朝から深夜まで、不動産、車、株式投資、バーゲンセール、領収書偽造請負、武器売買、出会い系サイト、売買春の広告などが、携帯電話の受信フォルダに投げ込まれる。さらに、知り合いからは携帯番号変更のショートメッセージがたびたび届く――もちろん、知り合いも迷惑でたまらなくなったためだ!

中国では今、国民のプライバシーが正札付きで売買されている。個人情報の盗用から迷惑ショートメッセージの送信に至るまで、プライバシー泥棒たちが膨大かつ高度に情報化された産業チェーンを築き上げている。一体誰が中国国民のプライバシーを侵害し、誰がその盗み出したプライバシーで甘い汁を吸っているのだろうか。

迷惑ショートメッセージの発信元企業を摘発、同業者に"激震"

今年、国営テレビである中国中央電視台(CCTV)が放映した消費者の利益保護を目的とした「3.15」特別番組では、分衆無線という会社が、迷惑ショートメッセージの主要な発信地として指摘された。

分衆無線は当局に摘発され、同社傘下7社の情報技術企業もその後、中国の大手携帯キャリアである中国移動(チャイナモバイル)によってショートメッセージサービス業務を停止された。これを受け、ショートメッセージを扱っている会社の一部も、「情勢が緊迫した」として、オフィスを移転したり業務を一時停止したりしている。また、ショートメッセージ発信業務サーバを扱っている一部の会社も、業務を停止した。

分衆無線の迷惑ショートメッセージによる犯罪は、今年になって露見したが、その一方では、通信キャリアの対応について、単なる一時しのぎの対応しかしていないとの批判が業界の専門家から上がっている。

業界筋は、中国では、携帯電話の番号などが悪質なService Provider(以下、「SP」)に登録された瞬間、その携帯ユーザーの悪夢が始まるといわれている。身分証明証の番号、住所、携帯電話番号、利用開始日時、毎月の通話料、といった個人情報が正札付きで販売されているというのだ。

契約後3日で中小SPにまで広まる携帯番号

中国移動の「VIPユーザー」の情報263万件は2,000元(約3万円)、全国の株式投資者のリスト65万件は3,000元(約4万5,000円)、個人資産が1,000万元(約1億5,000万円)以上の会社経営者の携帯電話情報1万8,000件は600元(約9,000円)……。筆者は「情報伝播交流プラザ」というサイトで、個人情報が正札付きで販売されているのを発見した。

同サイトによると、彼らは何百万人もの中国移動のVIP携帯電話ユーザーの一次資料を持っているので、情報には決して間違いがないという。

中国のSP業界では、ある噂がまことしやかに語られている。当日の午後に契約された携帯電話の番号が、明くる朝には超大手のSP企業に知られてしまう。昼までには大手のISP企業に伝わり、二日目の晩か三日目の朝には、中小のISP企業にまで知られてしまうというのだ。

これは、個人の携帯番号が、ネットワークに加入した時点でSP企業のデータベースになってしまうことを意味する。SP企業が携帯キャリアから取得するのは、分類されていないままのばらばらの番号だが、彼らはその番号リソースをさらに細かく分類する。

携帯キャリアが特定したVIPユーザー、月々の通話料が500元(約7,500円)を超えるユーザーなどの番号は特に人気があり、「一部の番号は0.05元(0.75円)から1元(15円)までの値段で売られている」(業界筋)というのだ。

携帯キャリアとの関係の度合いで収入決まる「BD」

この業界で重要な役割を果たすものに、「BD」がある。BDは元々Business Developer(ビジネス開拓員)という意味だったが、ここでは、携帯キャリアに対するSP側外交員という意味だ。

彼らの収入は、携帯キャリアとの関係の度合いで決まる。なぜなら、SPの業績を左右する二つの要素である番号リソースと事業計画が共に携帯キャリアによって決められるからだ。

BDは、昼間は普段休むが、夜になると出勤し、携帯キャリアの関係責任者に付き合ってバーやカラオケに現れ、チャンスを見ては種々の「援助費」を出す。個人情報のリソースの取得以外に、BDはSPにとっての「消防隊員」の役割も演じている。SPがトラブルに遭えば、BDはキャリアの関係者を捜してきて「始末」をつけさせる。

BDは場合によっては、中国国内の幾つかの省を行き来し、事が落着するまで「安全な地域」に潜伏する。BDの月収は1万元(約15万円)以上といわれ、場合によっては数万元になる人もいる。また、年末には歩合給があり、200~300万元(約3,500~4,500万円)ももらえる時がある。もちろん、彼らの手元にはそのほかにも大量の活動経費が渡されていることは言うまでもない。