自動車販売や不動産管理企業も個人情報取得の対象

番号漏洩の源は、何も携帯キャリアだけではない。個人情報のリソースを取得するため、各種の会員制クラブ、自動車販売企業、不動産管理企業などがすべて「外交」の対象になる。SPの個人情報取得は、外交によるだけではなく、さらに姑息な手段もある。例えば、ある日、保険外交員が筆者に電話をかけてきた。その際、その外交員は、筆者が車を購入した時期や車のブランド、車種、保険契約期日などをはっきり知っていた。どうやってあんなに詳しい情報を入手したのか、いまさらながら不思議としか言いようがない。

中国国内の報道によれば、広州の衆為信息諮詢というSPが、ソフトウェアの無料提供を利用して、200万人もの不動産所有者の個人情報を盗み取ったという。不動産管理企業には無料でソフトウェアを提供し、同社が所有するある居住区内の不動産所有者の個人情報データベースを、そのまま自社のデータベースとリンクさせたという。

この際、もし不動産管理企業がソフトウェアの導入を拒否していたら、直接盗み取ることすら考えたであろう。一世帯の個人情報を盗むごとに、実行者は0.05元(0.75円)~0.15元(2.25円)の歩合給をもらえ、送信先から折り返しの問い合わせや商品購入などがあれば、さらに二次歩合給をもらえる仕組みであったらしい。

銀行や証券会社などからショートメッセージの発信業務を請け負った時に、SPが勝手に個人情報を自社のデータベースとして流用することもあるという。さらに、会員カード、会員制クラブ、ネットワークへの登録情報などからも、個人情報の取得が可能だ。まさに、中国の携帯電話などに関わる個人情報が筒抜けになっている状況が見て取れるのである。

大企業と個人事業者双方を相手に広告請け負う

中国において、SPには大きく二つの収益獲得方法がある。一つは、スポンサーから広告掲載料を売り上げること。もう一つは、主体的にせよ受動的にせよ、ともかくユーザーになんらかのサービスを売り上げることだ。

ショートメッセージによる広告配信にも、二種類がある。一つはビジネス型のショートメッセージで、主な利用者は大手企業。内容は祝祭日、誕生日などにおける挨拶や会社内部の重要情報などで、平均的な料金基準は1件0.06元(0.9円)だ。

もう一つは個人事業主が利用するショートメッセージ。例えば、不動産やバーゲンセールなどの情報から始まって、武器弾薬売買、偽造領収書発行といったオドロオドロしい情報の発信を行うものまである。

いずれも、ショートメッセージカードで発信するものだが、サービス利用者の端末には携帯番号が表示される。その秘密保持性や発信量の多さにしては比較的安価で、一件当たり0.02元(0.3円)前後だ。もちろん、大量かつ正確なユーザーの個人情報が存在することが前提だが、モバイル端末または大量発信できるサーバさえあれば、SP業者が大儲けできる仕組みである。

サービス利用者の携帯料金から利用料を天引き

悪質なSPが法外な利益を上げ始めたのは、中国の携帯ユーザー数が爆発的に増え出した2002年からだった。当時そうしたSPは、ショートメッセージを受け取るユーザーサイドの携帯端末を「ゴミ収集場」、うっかり罠にはまったユーザーを「ATM」とからかっていた。

これらのSPは、「ゴミ」を出しまくり、「ATM」から金を引き出し始めた。発信サーバ1台の一時間あたりの発信量は800件くらいで、一日の広告発信による収入は700~800元(約1万~1万2,000円)。これは、一般従業員の半月分の給料より多い水準だ。

悪質SPのこうしたサービスを利用するユーザーはさまざまで、その内容も多種多様。六合彩(賭博籤)の販売、売春斡旋、高利貸し、イメージ広告、キャッシュカード詐欺などが主なものとして挙げられる。取引は全てネットで行われ、暗黙のルールの下、サービス利用者の身元などは一切聞こうともしない。大量に送られる迷惑メッセージは、闇で行われる地下ビジネスに活動のプラットフォームを置いているのだ。

2003年ごろ、SPはより手っ取り早く儲ける方法を見つけた。当時、SPには、直接ユーザーから売上金を差し引くことができたので、携帯キャリアから携帯番号を入手し、売上金額をその番号にバンドリングさえしておけば、ショートメッセージを発信するだけで集金でき、なんの手間もかからなかった。利用者は何も知らないまま、毎月SPに8元~15元(約120円~225円)払ってしまっていた。

業界関係者は、当時の状況について、以下のように語っている。

「こうなってくると、この手の金儲けは金を強奪するよりも速い。なぜなら、毎日何百人もの人から静かに"強奪"できるからだ。しかも当時、このような行為は、ある程度携帯キャリアから黙認されていた」。

さらに、「SPの収入は、携帯キャリアとの間で85:15の割合で分配されていた。当時、SPは、二カ月間こうした仕事をして、1,000万元(約1億5,000万円)ほど儲け、携帯キャリアは何もせずに、150万元(約2,250万円)あまりの収入を得ていた」と証言する。