韓国で行政訴訟を取り扱う裁判所であるソウル行政法院はこのほど、ゲームアイテムの取引仲介サイトの運営企業が、情報通信倫理委員会を相手取って起こした訴えを棄却したと発表した。同判決では、オンラインゲームアイテムを取引するサイトについて、青少年にとって有害な媒体であるとの判断が下された。
青少年がなけなしのお金をつぎ込むケースも
同訴訟では、訴えを起こした企業が運営する二つのゲームアイテム取引サイトを、倫理委が青少年に有害な「青少年有害媒体物」と指定したことに対し、同社がこの指定を取り下げるよう主張していた。
同社はオンラインゲームで使用するアイテムの取引やその仲介、競売などを通じて手数料を受けとるWebサイトを2002年から運営。韓国では当時からオンラインゲームやゲームアイテムの取引が盛んで、それに伴い、アイテム取引専用サイトも次々と登場、活況を呈していた。
しかしその反面、同取引に関わる詐欺やハッキング事件も頻発。特に経済力のない青少年が、アイテム欲しさに取引サイトにお金をつぎ込んだり、サイバー犯罪に手を染めるといったことが問題視されるようになっていた。
二つのサイトを「青少年有害媒体物」に指定
こうした状況に対応するため、倫理委は2003年4月、訴えを起こした企業が運営するサイトで提供されている情報が、「青少年の健全な人格成長と、生活態度に否定的な影響を及ぼす」という理由で、同サイトを青少年有害媒体物と指定した。
これに対し同社は、事業存続のため、2006年5月に倫理委に指定を解除するよう申し出たが、同委はこれを棄却した。
さらに倫理委は2006年7月、同社が運営する別の取引サイトについても、青少年有害媒体物として指定した。
「各種問題は取引サイトのせいではない」と主張
運営している二つのWebサイトが有害指定を受けた同社は、両指定を解除するよう、倫理委を相手取った行政訴訟を提起。同社では倫理委が指摘した、ゲームアイテムの取引から起こる問題について、「オンラインゲームの人気によりアイテム獲得の必要性が高まったため、同アイテムの市場的な経済価値が上がっただけであり、取引サイトのせいだとは言えない」と主張。
また、「詐欺やハッキングなどが起こるのは、ゲーム制作および運営会社が、個人のセキュリティを徹底せず、無責任にアイテムの現金取引の禁止約款を設けるといった至らない対策を施しているため」であり、「取引サイトを通じたアイテム取引は、オンライン/オフラインで物品を購入するのと大きく変わらない」とも主張した。
しかし結局、今回の裁判でソウル行政法院が出した答えは、同社の要求をすべて却下するというものだった。
ゲームアイテムに依存、換金性が高くなるシステムに
ソウル行政法院では、倫理委がゲームアイテム取引サイトを青少年有害媒体物に指定したことについて、指定制度は青少年の保護という高い目的のために存在するとした。
また、最近のゲームが、「より多くの利用者を確保するため、多くの場合アイテムへの依存度が高いシステムになっている」と指摘。これによりアイテムの価値も上がって高い換金性を持つようになり、それを斡旋するアイテム取引サイトの運営者が換金のうえで大きな役割を果たしていると述べている。
青少年の中には、アイテムを売って利益を得ようとする者もいるが、こうした青少年についても、「ゲームに没入することによる弊害も、自制する能力がある成人よりも大きい」と判断。これにより倫理委が指摘していた、青少年の人格成長や生活態度に否定的な影響を与えると結論付けた。
この判決により同社は、自ら起こした裁判で敗訴することとなった。
加熱するアイテム取引に一石
ゲームアイテムの取引の加熱は、オンラインゲームが盛んな韓国ならではの副産物だといえる。ゲームメーカーにとって同アイテムは、ユーザーがゲームにアクセスしてくれる最大の動機になっているので、よりユニークなアイテムを作り出そうと躍起になっている。一方、ユーザー側ではアイテム欲しさに次第に自制がきかなくなる状況が生まれている。
手軽に入手できないアイテムがなんとしてでも欲しい、必要ないアイテムを他の人に売っても良い、という人たちが集まるのが、本来のゲームアイテムの取引サイトのあるべき姿だ。だが、自制がきかなくなった青少年が経済力以上のアイテムを購入したり、入手困難なレアアイテムを高額で売りつけたりといった事態が発生したところから、問題が大きくなっていった。
中にはゲームのレアアイテムを売り歩くことで、これを生業にする人もいるというから、アイテムの価値、換金性は遊びの領域を超えているといえる。
そうした加熱状態に一石を投じたのが今回の裁判だった。アイテム取引サイトは青少年にとって有害媒体物であるとの判断は、アイテムの換金性を利用して商売をするアイテム取引サイトの存在意義を問うものといえそうだ。
今回の判決が、相変わらずのアイテム取引熱を冷ますことができるかは未知数だが、少なくともアイテム取引業者には緊張感を与えるものとなっている。