ISSCCでは論文の発表が夕方5時まであり、その後、発表者が質問に答えるAuthor Interviewがある。そして、午後のプログラムは5時半ころに終わるが、更に、7時からイブニングセッションというパネルディスカッションがあり、その間に夕食と、かなり忙しいスケジュールである。

プロセサ関係では、"Can Multicore Integration Justify the Increased Cost of Process Scaling"というタイトルで、2日目にイブニングセッションが行われた。パネリストは、MIT教授で、Tilera社の創立者でCEOのAnant Agarwal教授、IntelのMicroprocessor LabのディレクタのShekhar Borkar氏、RenesusのSHプロセサ開発のジェネラルマネージャの長谷川氏、SunのチーフサイエンティストのRick Hetherington氏、IBMフェローでPOWER7のチーフエンジニアのBrad McCredie氏、AMDのシニアフェローのChuck Moore氏で、いずれも各社のプロセサ開発をリードする地位にある人たちである。

セッションオーガナイザの意図は、微細化で半導体プロセスの開発コストが上がるが、マルチコア化でそのコストを回収するだけの利益を上げられるかという問いかけであったような気がするが、この点に関しては、各パネリストとも、ほとんど議論がなく、半導体業界としては、新たな付加価値をつけるためには微細化を続ける必要があり、マルチコアだけで投資を回収する必要は無いので、議論の対象ではないという見解が支配的であった。

Agarwal教授は、ムーアの法則で、18ヶ月ごとにコア数は倍増する。Tileraは既に64コアを発売しており、2018年には4096コアのプロセサが出てくることは確実で、出てくるかどうかを議論することは意味がなく、それをどう使うかが重要と、アグレッシブなコア数増加を主張した。また、用途に関しても、既に数万CPUを使うサーバーファームが存在し、コア数が増えれば、サーバーファーム・オンチップが出現する。また、デスクトップでも画像の圧縮、検索、ビデオ処理が行われ、ネットワークの処理にも膨大な処理能力が必要であり、十分用途があるという意見である。しかし、このような多数のコアを使うスケーラブルなソフトウェアを作る必要があると述べた。

IntelのBorkar氏は、コアの複雑化による性能向上の鈍化や消費電力増大の観点から、シングルコアの性能向上は停止する傾向にある。従って、マルチコア、メニーコアしか進む道は無い。半導体の微細化で開発コストは指数関数的に増大するが、一世代ごとにMIPSあたりのコストを半減できればペイすると述べた。

ルネサスの長谷川氏は、PCは16コア程度で頭打ち。サーバはより多くのコアを使えるが、ソフトウェアがネックで、これが変わらないとコア数は画期的には増えないという意見である。しかし、微細化に伴い、チップの開発コストが増大するので、組み込み分野で開発できるSoCの品種は絞られ、ソフトで機能をカストマイズする方向であり、マルチコアによる性能向上は進む。また、大量のフラッシュメモリのようなNVRAMの搭載が、用途を大きく広げる可能性があると述べた。

SunのHetherington氏は、今年中に256スレッドのマシンが登場する。1000スレッドを超えるサーバは間も無く出てくる。しかし、消費電力が目前に立ちはだかる壁であり、また、コア数が増えると、チップ内のコア間を接続するクロスバが巨大になる点が、コア数の増加の問題になると述べた。一方、ソフトウェアに関しては、現状のソフトウェアモデルで1000スレッドのサポートは可能との立場である。

IBMのMcCredie氏も、消費電力が最大の問題で、消費エネルギーを減らすことが最重要である。この点で、微細化は必須であると述べた。マルチコア化は進むが、使いやすさの点で共有メモリのSMPの規模拡大に向かう。将来的にはコストや消費電力が、CPUとメモリで半々というところに落ち着いて行くという意見である。

AMDのMoore氏も消費電力が最大の問題と指摘し、汎用プロセサと、より電力効率の良い各種の専用のサブシステムを組み合わせたヘテロジニアスなマルチコアになると主張した。

興味深かったのは、マルチコア化は進むという点ではパネリストの意見は一致しているが、それがどのようになるかという点で、Agarwal教授は、ソフト開発のコストの観点から、多種のアーキテクチャのコアをサポートすることは出来ず、標準の汎用コアを多数個搭載する方向に向かうと主張したのに対して、AMDのMoore氏は、専用アーキテクチャは特定の用途に対しては電力効率が1桁以上高く、各種の専用アーキテクチャのコアを集積する方向に向かうと主張した。

ルネサスの長谷川氏は、携帯用プロセサの例を引き、用途向きの各種コアの集積に向かうと述べて、Moore氏に賛同した。また、Intelはコアを単純化してマルチコアに向かうが、同時に専用のアクセラレータの搭載も必要という意見であり、IBMも汎用コアとCELLのようなアクセラレータ搭載に向かうという意見であった。

AMDは各種アクセラレータの搭載や結合を目指すFusionやTorrenzaを打ち出しており、2009年にはAccelerated Processing Unit(APU)を集積した製品を出荷する計画である。Intelも80コアプロトタイプやグラフィックを中心としたアクセラレータと言われるLarrabeeの搭載を噂されており、このあたりの発言は、それぞれの会社の方向性と一致していると言える。

また、Sunは多数コア、多数スレッドでスループット重視という立場であるのに対して、IBMはシングルスレッドでプログラムのソースが行方不明で修正も出来ないようなプログラムが多数使われ続けており、シングルスレッド性能も重要と主張した。そして、Intelは、従来の主張で、ソフトが早急にマルチコア、マルチスレッドに対応しなければならないと述べた。

これまでの各社の方向性から予想された結論と言えるが、議論としては面白いパネルディスカッションであった。