世界中の教育政策関係者が集う

School of the Future World Summit(SOF)は、ITFが教師側のイベントであるのに対し、「各国の教育分野におけるポリシーメーカー(政府関係者や研究者など)が集まって未来の教育について話し合うイベント」(Young氏)。未来の教育とは、単にICTを導入するだけではなく、次世代の学習環境の構築を意味する。本会議では、各国におけるICT教育の導入事例や、研究者によるICTを利用した実証実験などの成果が報告された。その中で印象的だったのは、教育分野へのICT導入の背景には、学校に付加価値をもたらす目的ではなく、各国の社会状況に応じた事情があるということだ。

米フィラデルフィアの「未来の学校」

2006年、マイクロソフトは自治体と共同して米フィラデルフィア(ペンシルヴァニア州)に「School of the Future」(未来の学校)を開校した。最新のICT設備を投入したこのハイテク高校では、特徴的な事例として、図書館の代わりにメディアセンターを設置している。生徒はここから様々な情報にアクセスする。蔵書はほとんどなく、授業でも紙のテキストやノートは基本的に使われない。

一見すると極端な例に思えるが、「生徒たちはこのやり方を気に入っている」(同氏)という。「図書館で本を探すのではなく、メディアを使って多くの情報にアクセスできる点にメリットを感じている」(同氏)。同時に、「実際の仕事上で情報を集めるという点を考えると、図書館の使い方よりもメディアセンターの使い方のほうが近い」と語る。

冒頭、マイクロソフトが認識する教育上の問題のひとつに、社会が求めるスキルと現在の教育が伝えるスキルにズレがあると述べた。それはより直接的な言い方をすれば、現状の教育カリキュラムでは仕事に必要なスキルが身に付かないということだ。フィラデルフィアSOFのメディアセンターの例は、生徒の雇用という面を考えると、職業訓練の意味も持つわけである。

ICT教育と雇用、経済振興への展開

今回のSOFでは、各国の教育関係者から「雇用」という言葉が何度か聞かれた。Young氏も、「雇われる側として、(生徒には)どういったスキルが必要かを教えることにも責任を感じている」と語る。各国の事情にもよるが、ICT教育の導入は、生徒の雇用やそこから発生する地域経済の発展など、社会に深く関わる取り組みとなっていることが理解できる。

たとえば、(生徒の雇用例ではないが)教育事業と地域経済との関わりでは、シンガポールで行われている「BackPack.Net」の先例がある。マイクロソフトが中心となり、政府と地元企業が提携してタブレットPCを使った学習環境を構築するプロジェクトで、タブレットPC上で使うソフトの開発を地元企業が担う。すでに地元企業のHeuLabが開発した教育ソフトは日本語にローカライズされ、日本の海陽学園で採用されるといったビジネス展開も見せている。なお、このプロジェクトの費用は政府や学校(保護者を含む)、マイクロソフトなどの企業によって負担されているとのことだ。