日本のICT教育事情

日本でICT教育というと、学校設備をアピールする手段に聞こえることも少なくない。しかし、テクノロジーの導入は欠かせないものの、どれだけ多くの人の可能性を切り開けるのかを考えていくことがICT教育のポイントになる。そして、従来教育の枠にとらわれず、ICT社会で働くためのスキルやコミュニケーション能力を学校生活の中で身に付けていくことに向き合うことが教育者の責任になりつつある。

もちろんそうした試みは日本でも行われている。今回、日本からSOFに参加した独立行政法人メディア教育開発センター(NIME) 中川一史教授と海陽学園 松居和子教諭は、マイクロソフトと共同で進める「NEXTプロジェクト」を紹介。タブレットPCなどICTを採り入れた授業が生徒の学習意欲の喚起や思考を深めることに効果があると説明した。

独立行政法人メディア教育開発センター(NIME) 中川一史教授

学校法人海陽学園 松居和子教諭

東京大学先端科学技術センター バリアフリー分野 特任教授 中邑賢龍教授

東京大学先端科学技術センターで障害のある人の学習支援を研究する中邑賢龍特任教授は、Windows Vistaのユーザー補助機能「コンピュータの簡単操作センター」を例に、多額の投資を要せずに障害者でもパソコンを利用できること、様々なコミュニケーションをとれることを説明。手が震えてキーを誤入力しやすい人は、キー入力の認識時間の設定を変更すれば問題を解消できるなどの具体例を交えて紹介した。

中邑教授を中心とした東京大学とマイクロソフト日本法人は2005年、障害者のための「ITアクセシビリティ」カリキュラムを作成。これは今年9月、マイクロソフトとユネスコが発表したICTアクセシビリティカリキュラム「CARE(Curriculum for Accessibility Reach)」のベースとなっている。CAREは、障害のある児童や生徒にICTを利用して様々な機会を提供することを目的としたカリキュラム。日本で研究されたものが、このように世界の教育現場に向けて発信されている例もある。

また、ITFのポスターセッションには、茨城県立石岡第二高等学校 佐々木優子教諭も参加した。佐々木教諭が紹介したプロジェクトは、高校1年生の情報課程授業で取り組んだ「折り紙売り込み大作戦」。生徒が「メディアが伝える情報の意図を理解できるようになってほしい」(佐々木教諭)という思いから、メディアリテラシーの学習方法として、海外の人たちに日本の伝統文化である折り紙を紹介することを考えさせた。

まずは生徒自らが情報発信者になることで、効果的に情報を伝えるために必要なプロセスを体験させる。その中で、情報には送り手の意図が込められていることを自覚してもらうわけだ。ICTとの関わりでは、考えをMicrosoft PowerPointでまとめたり、表現技法として動画を使う生徒が出てきたりと、相乗効果として"自分の考え"を伝えることに対して積極的に取り組む姿勢が見えるようになったという。

茨城県立石岡第二高等学校 佐々木優子教諭。佐々木教諭が手に持つのはポスターセッションで使用したポスター。プロジェクト内容が英語で書かれている

生徒が作成した折り紙の説明ムービー。デジカメで撮影した動画と「Windows フォトストーリー」で制作した

最後に

教員や生徒のサポート、障害のある人への"機会"提供、教育設備の充実化、地域振興への関与……マイクロソフトの教育における役割は多岐にわたる。当然、同社には社会貢献を通じたマーケット戦略があるわけだが、今回のITF/SOFを見ても、ICT社会が求める教育の変革にはマイクロソフトのようなテクノロジーを持つ企業の関与が不可欠なことがわかる。親やコミュニティによる教育参加が欠かせないことも確かだ。ITF/SOFで発表された様々な教育への取り組みや成果は、教育を新たな視点でとらえるきっかけにもなる。こうした情報は、教育関係者のみならず広く世間がアクセスしやすい形で公開されていくべきだろう。