いまの場所にたどり着くまでに、どんな選択肢があったのか――。この連載では、道を切り開き始めた次代の担い手たちに、歩んできた決断の背景と、その先に見据える未来を聞いていく。それぞれの選択がどのように現在をつくり、次の挑戦へつながっていくのかを、記録していく試みだ。
本稿で話を聞いたのは、お笑いコンビ ロングコートダディ。ともにNSC大阪校31期生で、堂前透さんは1990年1月16日生まれ(福井県おおい町出身)、兎さんは1988年8月19日生まれ(岡山県岡山市出身)。2009年にコンビを結成し、2021年・2022年の『M-1グランプリ』で決勝に進出。2025年の『キングオブコント』では第18代王者に輝いている。吉本興業 東京本部にて話を聞いた。
「NSCか、ピクニックか」運命の指差し
――お笑い芸人を目指したきっかけについて教えて下さい。
堂前透さん(以下、敬称略):普通の高校生活を送っていたのですが、大学だけがなかなか決まらなくて。進学以外の選択肢が出てきたとき、ふと思い浮かんだのがNSCでした。
小さな頃からお笑いには興味があったけど、なにより「人の笑顔とハンバーグ」が好きだったんです。でも、当時から絵を描くことにも惹かれていたし、いろんな道があったんじゃないかとは思います。
兎さん(以下、敬称略):お笑いは、ウケれば売れていくと思う。でも絵の場合、どうすれば食べていけるか想像しにくくないか? そもそも堂前が、売れる絵を描いていきたいタイプなのかも怪しいし。
お前、絵では成功しないんじゃない……?
堂前:もう、お前に何がわかんねんって感じですけど(笑)。お笑いも絵も、何をもって成功とするかはわからないですし。どんな選択をしても、楽しくやれてはいたんじゃないかな。
――兎さんのきっかけも教えて下さい。
兎:高校卒業後に美容師の専門学校に入ったのですが、すぐに辞めることになったんですよ。ハサミを盗まれちゃって。
ほかにやりたいことが思いつかず、バンドとアルバイトをしながらダラダラ過ごしていました。でもある日、そんな僕を見かねた姉が、目の前に封筒を2枚突きつけてきたんです。「これで、あんたの道が決まる」と。
片方は、NSCの志願書でした。僕が中学生のとき、芸人になりたいと言っていたのを覚えていてくれたみたいで。そしてもう片方は、全然知らない人と行く、一般のピクニックの申込書。あのとき、自らの意志で「こっち」と指差した瞬間は、たしかに運命の分かれ道でした。もしピクニックを選んでいたら、そこで知り合った人と結婚して、幸せな家庭を築いていたかもしれません。
――芸人になるとき、反対した人はいませんでしたか?
兎:さっき話したとおり、目標のない生活を送っていたので……。家族は全員「いいやん」と、ちょっと安心した反応でした。
「お前が成功するわけない」と全力で止めてきたのは、子どもの頃から仲の良かった同級生です。普段から結構ボケてたのに、もしかしたらスベっていたのかもしれません。友だちの弟からも、面と向かって「やめた方がいいですよ」と言われていました。
堂前:僕は芸人になるときは、反対の声は全然聞こえてきませんでした。どちらかといえば、止め方がわからなかったんだと思います。逆に、コンビを組むときのほうが止められましたね。
兎:僕の周りの人や、親しくしていた同期からもストップがかかったみたいで。やっぱり単純に、僕が面白くなかったからだと思います。
――同期として出会ったお二人が、コンビを組んだ理由を教えて下さい。
堂前:ヤンキーの同期に、罰ゲームで「兎にコンビ組みたいって言ってこいや」と命令されたからです。でも実際に2人で活動してみたら「あれ、いいんちゃうか」となったので、いまもコンビを続けています。
あとは、メガネがでかかった。
兎:コンビ結成前は、メガネをしていたんです。僕が行った眼鏡屋さんが勘違いしていたみたいで「目が悪ければ悪いほど、メガネも大きくせなあかん」と言われて。視力が低かったので、メイドインイタリアの一番でかいやつを選びました。
堂前:顔半分くらいのメガネをかけてるのに、「かけていませんよ」みたいな顔でNSCを歩き回ってるのが面白くて。のちのち、元祖VRって呼ばれてたよな。
兎:VRが世に出たときに「お前、先にかけてたやん」と言われていました。
――兎さんが堂前さんを選んだ理由は?
兎:堂前からコンビを組みたいと言われたとき、こいつ泣いてたんですよ。涙には弱かったので、一度やってみるかとなったのが始まりです。
堂前:僕の記憶では、泣いていたのは兎なんですけどね。
兎:寝っ転がってたので、自分の涙がメガネを伝っていただけかも。
まあほかに理由を挙げるなら、笑いのツボが近かったところかな。同じギャグ漫画を読んでいて、笑うところが同じだったんですよ。だから堂前から話があったときは、返事に迷った記憶がありません。
「自分は向いていない」一度芸人を辞めてから再結成するまで
――芸人を辞めようと思った瞬間はありますか?
兎:辞めようと思った瞬間どころか、コンビ結成してから3年ほど経ったとき、僕は実際に芸人を一度辞めました。当時のことを思い出すとしんどいんですけど。
当時先輩が誘ってくれて、芸人100人ぐらいで海に行ってバーベキューをする会があったんです。でも僕は、あまり輪に入っていけなくて。
みんなワイワイ盛り上がっているなか、僕はひたすらに肉を焼き続けていました。そのときに「あ、自分は芸人に向いていないんだな」と思ったんですよね。
極めつけは、誰も食べない肉を焼いていた7人ぐらいのなかに、堂前もいたこと。いや、堂前はそれでもいいと思います。お笑いのセンスがあるから。
でもコンビとして、2人とも同じ位置にいるのはダメなんじゃないか。そう感じたときに、芸人を辞める決意が固まりました。
堂前:実際に兎から芸人を辞めると言われたときは、一切反対はしませんでした。決意した人間を前にして、止めようがなかったのが正しいかもしれません。できたのは「1週間考える時間を作ろう」と提案したぐらいだったかな。
――どのような経緯で、コンビ再結成に至ったのでしょう?
兎:コンビ解消して1カ月ぐらいで、僕がまたすぐに芸人をやりたくなったからです。落ち込んでいたのが、ご飯を食べて元気になったんでしょうね。なによりも、周りが笑いで溢れている環境はやっぱり素敵で、居心地が良かったと気付くことができたので。でもすぐに言うのは恥ずかしかったから、堂前には4カ月空けてから伝えました。
堂前:一度辞めて戻ってくる人って、あまり聞いたことがないですね。前代未聞ちゃう?
僕はピンでやるのも楽しかったので、復帰してもしなくても、どっちでもいいかなと思っていました。ほかの人とコンビを組むことも一瞬想像したけど、誰ともうまくいく気がしなかったし。
兎:堂前なら、誰とでもうまくやれそうだけどね。
堂前:いや、どこかで絶対にぶつかる。兎だから、今もいけてる部分はあるのかもと思っています。
賞金マイナス1,000万円でも賞レースに出たい
――キングオブコントでの優勝など、さまざまなことがあったなかで、堂前さんが生配信で急に結婚を報告されました。相談せずに公表した理由を教えて下さい。
堂前:恥ずかしくて言えなかったわけではなくて、単純に兎のリアクションが見たかっただけなんです。でも失敗でしたね。
兎:お前が縛ったからじゃない? 「5文字の言葉しか喋れない5文字マン」という企画の途中に、いきなり報告してくるから。
堂前:「おめでとね」しか言われなくて。
兎:そのままネットニュースになったから、僕がめちゃめちゃ薄いコメントをしているみたいになったんですよ。
――縛りがなかったら、どんなリアクションでしたか?
兎:そうだな……。おめでとうという気持ちと、「しんどい」という気持ちが共存したリアクションになっていたかもしれません。
堂前:あまり聞かないですよね、結婚報告を聞いてしんどいって。
兎:コンビって、友だち以上のところがあるじゃないですか。先を越されると思っていなかったので、悔しさや焦りが混ざって、感情がぐちゃぐちゃになったんですよね。しつこいものをいっぱい食べたような、胃もたれの感覚です。5文字で収まったほうが、余計なことを言わずに済んで良かったかもしれません。
――賞レースについて聞かせて下さい。堂前さんは「もう賞レースはいいかな」と言ってる一方で、兎さんは「どんどん挑戦したい」と、意見が分かれていると聞きました。
兎:賞レースについては、まだちゃんと話してないんですよね。2026年のダブルインパクトが別の仕事で出られなかったので、いま挑戦する賞レースがないんです。
2027年のダブルインパクトが、話のきっかけになるのかなと思います。僕は変わらずに出たいですね。ただ、ネタを100%書いている堂前のほうが、意見に重みがあるのはわかっています。
――堂前さんは、いまも気持ちは変わっていませんか?
堂前:変わってないですね。お笑いのモチベーションは、芸人によってそれぞれだと思っています。僕はいま、賞レース以外のことに力を注ぎたいのかもしれません。だから2027年のダブルインパクトも、マネージャーさんに別の仕事を入れてもらうしかないですね。ギリギリまで「今年は行ける」と兎を釣っておいて、2カ月間のカナダロケを入れてもらう。
兎:そもそも、2カ月間カナダは断るわ。
……わかった。次のダブルインパクトで優勝したら、俺が堂前に2,000万払う。
堂前:え、優勝賞金プラス1,000万円をくれるってこと?
兎:そうだね。俺はマイナス1,000万になる。
堂前:そんなに出たいの?
兎:何回も味わえることじゃないから。キングオブコントとダブルインパクトの両方チャンピオンになるなんて、なろうとしてなれるものでもないし。経験はお金に変えられないと思うので、マイナス1,000万くらいわけないです。
堂前:――それは、非課税?
――いま、全国ツアー『月光もたらす』の最中ですね。手応えはいかがですか?
堂前:例年より、気楽にできている感覚がありますね。
兎:チャンピオンになったから?
堂前:それもあるかもしれないけど、ネタが自分に染み込みやすくなったのかも。毎年、台本の覚えに不安があったんですが、今回はあまりなくて。
兎:それ、同じ感覚だわ。
堂前:自分たちにフィットするものが、どんどん作れるようになっているのかもしれません。
――残りは、10月6日・7日の仙台公演と、22日・23日の大阪公演ですね。どんな内容になりそうですか?
堂前:東京から始まって、変わってきている部分もあるんです。残り2カ所は、全く別のものにしてやろうかなと思っていて。ギリギリまで変えていくので、楽しみにしていてほしいですね。
――ツアーを楽しみにしているお客さんへ、メッセージをお願いします。
堂前:しっかり寝てから来てください。夜勤明けとかだと、ちょっとキツいかもしれません。本当に眠たくなってしまうくらい、変な時間がある公演だと思うので。
兎:楽しみにしている方は、本当に楽しみにできていますか……?
気がついたら、その日を迎えているということにならないように。お客さんは、お客さんなりにできることをやったうえで、全力で楽しんでほしいです。
――最後に、ロングコートダディとして、今後どんな未来を目指したいですか?
堂前:これからについて、まだ結論は出ていません。チャンピオンになって、新しいタイプの仕事をいろいろといただくようになりました。それぞれの個人の活動も増えているなかで、いまは未来について考える時間だと思っています。
兎:ロングコートダディに影響されて、芸人の門を叩く若手が増えたら嬉しいですね。誰かの憧れの存在になれるように、常に笑いの最前線にいたいと思います。
――お忙しいところ、ありがとうございました。
ロングコートダディ単独ライブツアー「月光もたらす」
日程:【宮城】日立システムズホール仙台シアターホール
10/6(火)17:30開場/18:30開演
10/7(水)13:00開場/14:00開演
【大阪】ドーンセンターホール
10/22(木)17:30開場/18:30開演
10/23(金)①13:00開場/14:00開演 ②17:00開場/18:00開演
※②のみ配信あり
チケット料金:前売5,000円/当日5,500円/配信2,500円(大阪最終公演のみ)








