いまの場所にたどり着くまでに、どんな選択肢があったのか――。この連載では、道を切り開き始めた次代の担い手たちに、歩んできた決断の背景と、その先に見据える未来を聞いていく。それぞれの選択がどのように現在をつくり、次の挑戦へつながっていくのかを、記録していく試みだ。

本稿で話を聞いたのは、お笑いコンビ ちょんまげラーメン。田渕章裕さんは1985年6月2日生まれ(兵庫県たつの市出身)、きむさんは1987年12月24日生まれ(大阪府箕面市出身)で、ともにNSC大阪校31期生。2010年にコンビを結成し、M-1グランプリでは2019年から3年連続でファイナリストとなっている。吉本興業 東京本部にて話を聞いた。

芸人を志した2人、コンビ結成は「消去法」?

――お笑い芸人を目指したきっかけについて教えて下さい。

田渕章裕さん(以下、敬称略):僕は3歳上の兄の影響が強かったんです。兄がバラエティ番組が好きで、小学生の頃僕もそれを一緒に見ていて。中学校に上がる頃には「こんな仕事をしたいな」と思うようになりました。ゴールデンタイムだとダウンタウンさん、深夜帯ではリットン調査団さん、バッファロー五郎さん、野性爆弾さんらが出ている番組は録画で見ていました。テレビを通じて、関西の芸人さんたちを知りました。

きむさん(以下、敬称略):僕はM-1の影響が大きいですね。もともとお笑いは好きだったので、中川家さんが優勝した2001年も、次のますだおかださんが優勝した2002年も見てて。そのときはめっちゃ漫才にハマっているわけではなかったんですけど、2004年に優勝したアンタッチャブルさんを見て「こんな面白い人たちがいるんだ」「漫才ってすごいな」と衝撃を受けちゃって。自分のなかで「これ面白いかも」と思っていたものがすべてネタになっていて「こういうのやりたかったんだ!」って思った記憶があります。

――芸人になると決めたときの、周囲の反応は?

田渕:僕は高校時代に、親に伝えたんです。すると父親が「芸人やるのはええけど、大学がとにかく面白い環境だから、とりあえず大学に通って、卒業するときにまだ芸人やりたかったらやってもええんちゃう?」って言われて。そこで大学4回生のときに、もう一度親と相談したら「やりたいって言ってたもんな」って。うちのオヤジはカメラマンの仕事もやってたので、サラリーマン以外の職業に対する理解もあったと思うんです。そのときは「これ以上もう努力できひん、って思うくらい頑張れるんやったら、むちゃくちゃ応援したるわ」って言ってくれて。1ミリの反対もなかったので、こっちがビックリしたくらいです。

きむ:うちの親も、はじめから応援してくれました。高校のとき、ひとりでNSCに入るのは怖かったので友だち何人かに声をかけたんですが、全員に断られちゃって。そこでお笑いの講義がある大学に入るんですが、授業の終わりに講師のところに行って「お笑いについて教えてくれませんか」ってお願いしたら「金いるわ」って言われて冷めちゃって、1年で大学を辞めてNSCに入り直しました。

――コンビ結成の経緯についても教えてください。

きむ:NSC在学中には3組くらいのコンビを組んでいたんですが、卒業後にすべて解散して1人になっちゃって。そのとき同期の、現在は居酒屋をやっているトミーという子が「Bクラスのたぶっちゃんが解散するらしいで」って教えてくれて、じゃあちょっと声をかけてみようかなって思って。

田渕:きむはAクラスで、そのときクラス分けをすごく気にしてたんですね。よく「Cクラスの奴とは組みたくない」って言ってて。

きむ:コロチキのナダルはCクラスやったんですよ。だから同期でも絶対に声かけなかった(笑)。でも当時、Aクラスにいた人で現在もお笑い芸人を続けている人って、少なくなっちゃったな。

田渕:それまで喋ったこともなかったきむから「コンビを組まへんか」って誘いがあったとき、実は他にも3人から声をかけられてたんです。全員、よく知らない人で、きむに至っては喋ったこともなくて(笑)。その3人は「変なやつ」って印象だったんですが、きむは全く知らない人だったので「組んでみようか」ってなりました。だから消去法ですよね。そうしたら、きむの方がよっぽど変な奴で、「まぁ4人とも変な奴やったんやな」って気付くんですけど。はじめは、お試し感覚でした。

きむ:それまでのコンビは、ボクがネタを書いてて、あんまり合わない相方のときは、台本の上にボケの間を取る秒数まで書いて渡してたんですが、それが途中から嫌になっちゃって。でも、たぶっちゃんと合わせたときに「ちょっと前に立ってやってみようか」ってなったときに、ボクが大笑いしちゃって。漫才ってこんなに楽しいんや、一緒にやりたいな、って思えたんですよね。

「インディアンス」から「ちょんまげラーメン」になって約1年。これまでを振り返る

――コンビ名を「インディアンス」から「ちょんまげラーメン」に改名してから1年強経ちましたが、これまでの期間を振り返ってみるとどうですか?

田渕:ようやく違和感がなくなってきたところです(笑)。付き合いの長い先輩や、スタッフさんはいまだに「インディアンス」って呼んでから、「ごめんごめん、ちょんまげラーメンだった」ってことがあります。改名するからには、前のコンビ名を残しつつというのではなく、ガラッと変えたかったんです。

きむ:普段、他の人と話をしていると「ちょんまげはさー」って感じで呼ばれるんですが、まだ「わざと言ってくれてるな」って気はします。ボク自身、まだちょっと恥ずかしさも残ってて(笑)。たぶっちゃんは、漫才のなかで毎回「ちょんまげラーメンです」って挨拶するんですが、ボクは言う機会がなくて、まだ身体に馴染むところまでいってないみたい。

――昨年は改名後、M-1ラストイヤーを戦いましたね。

きむ:過去のチャンピオンにも「改名して」「決勝まで行って」「優勝した」ってコンビはいないので、もし優勝できたら面白かったんですが、難しかったですね。ネタもしっかり見てもらって負けたので、後悔はないんですが。

田渕:コンビ名が変わったと言っても、ネタが大きく変わるわけではないので。毎年、マイナーチェンジを繰り返してチャレンジを続けていたわけなんですけど、M-1に挑戦し続けた最後の2~3年はきつかったですね。行けそうなんやけど行けない。一度、準決勝に返り咲いたときはめちゃ嬉しかったんですが、その先の壁が分厚くて。

巷では、今年もM-1の予選が始まりました。ボクたちは「やっとM-1卒業した」と思っていたんですが、こうして予選が始まってみると、「ええな、出れるみんなは」って思っちゃいます。しんどいのは知っているんですが。

――賞レースには、これからも挑戦していきますか?

田渕:そうですね。今後も、そういう緊張感のあるところで気に入ったネタを披露していきたいし、やっぱり「こいつら漫才やってんねんな」「ネタおもろいやん」って思われたいんです。あんまり長い期間、皆さんにネタを披露できないと「おもんなくなったのかな」ってなるし、“過去の芸人”になってまうと思うんです。

――ネタ作りの際にお2人の間で決めていることはありますか? 意見が衝突することは?

田渕:ネタについては、お互いが納得のいくまで相談しますね。「ここ変だなぁ」なんて箇所を1つずつ潰していきます。気持ち悪さが残った状態で舞台に出てしまうと、結局、結果もあまり振るわないんですよ。舞台に出るギリギリまで検討を重ねて、「間に合ったな」ということもあります。

きむ:頭の中が似ている2人ですし、向かっている目的地が一致しているので、あまり意見が衝突することはないですね。「えぇ、お前いまそんなん言う?」ってことはないですし、揉めごとは少ないと思います。

――将来、コンビとしてどんなビジョンを思い描いていますか?

田渕:漫才は続けていきたいですね。舞台で育って鍛えられてきたので、そこをゼロにしたくないです。尊敬している先輩も、テレビに出ながらも劇場をゼロにしていないですし、僕たちもそうなれたらなと思います。劇場を残しつつ、戦いの場所、活躍できる場所を増やしていけたら良いですね。

きむ:漫才師という肩書のままでいたいな、と思います。身体の動く限り、目の前のお客さんを楽しませていきたいです。

――単独ライブ「湯切リーゼント」を前に、楽しみにしているファンへ一言お願いします。

きむ:賞レースを意識していないネタが増えるのでは、と思います。というのも、これまで「このネタやってたらM-1あかんか」「これはM-1向きじゃないな」って、勝手に考える人生になっていたんです。でもM-1ラストイヤーを終えてから、選択肢が広がったじゃないですけど、今までだったらやっていない、自分らも「これ行けんのかな」って思うような新しいパターンも試しています。ある意味、実験的でもあるし、やる方としても楽しみです。

田渕:これまでやってこなかったことが多くて、不安ながらもワクワクするような、手探りの状態でもあります。だから、いつも単独ライブに来てくださるお客さんたちの反応を見るのも楽しみです。正直、ひょっとしたら反応が弱くなる瞬間も増えるかも知れない。でも「ここどうやろ」って部分を集めていって、今後のネタづくりにも活かしていけたらなぁ、って思います。

遊びの要素がたくさんの単独ライブになりそうです。これまでの常連さんはもちろん、「お笑いライブって行くのちょっと怖いな」「どうなんやろ」って思っている人も、気軽に遊びに来てもらえたら、と思います。

――お忙しいところ、ありがとうございました。

取材:岩木華子 構成/撮影:近藤謙太郎

ちょんまげラーメン単独ライブ「湯切リーゼント」
日程:2026年9月5日 (土) 開場 19:00 開演 19:30
会場:ルミネtheよしもと
出演:ちょんまげラーメン