スバルが同社初の自社生産電気自動車(BEV)「トレイルシーカー」を作っている矢島工場(群馬県太田市)は、「生産における柔軟性の追求」を掲げている。クルマの生産における柔軟性って何? 現場で探ってきた。
柔軟性のキモは“混流”生産
矢島工場の生産開始は1960年。敷地面積は東京ドーム12個分に当たる約55万平方メートルで、従業員数は約5,900人を数える。スバルにとって、太田市スバル町にある本工場と並ぶ主力完成車工場だ。
なぜ矢島工場では「柔軟性」を重要視するのか。報道陣向けの工場見学でプレゼンテーションに立ったスバルの渡辺郁夫常務執行役員兼技術本部副本部長はこう語る。
「ご存知の通り、自動車産業は今、百年に一度といわれる大きな変化の真っ只中にあり、電動化の進展、需要の不確実性、産業構造の転換など、先を見通すことがかつてないほど難しい時代を迎えています。こうした時代にあって、私たちスバルが競争力の源泉と位置付けているのが、本日のテーマである“柔軟性”です。規模の大きくない私たちだからこそ、変化を恐れるのではなく、むしろ変化に柔軟に対応し、それを強みに変えていく。その挑戦の最前線が、本日ご覧いただく矢島工場です」
矢島工場では現在、ICE車(エンジン車)とBEVの両方を作っており、トヨタ車(スバルとトヨタが共同開発し、トヨタブランドで販売しているクルマ)まで生産している。構造も成り立ちも異なるクルマをひとつのラインで生産できるのは、スバルが“究極の混流”と呼ぶ取り組みが実現できているからだ。
歴史ある変種変量短生産
スバルには、リソースを余すことなく最大限に活用する「変種変量短生産」という考え方がある。
同じラインで複数の車種を生産するという「混流ライン」と、同じ車種を複数の工場で生産できるようにしておき、需要に応じて工場間での車種の配分を柔軟に変えるという「ブリッジ生産」の2つを組み合わせ、需要の波に応じて生産を最適化し、設備も人も遊ばせることなく生産を続けるのが「変種変量短生産」だ。
スバルでは1960年代の「スバル360」から現在に至るまで、変種変量短生産を続けてきている。自社車両の混流だけでなく、国内では日産自動車「サニー」や「パルサー」、米国ではトヨタやいすゞ自動車の車両を生産してきた経験があるそうだ。
トヨタ車も含めた現在の生産体制の実現により、BEVのライアップ拡充やトヨタとの協業による効率的な投資、来るべきBEV時代に備えたモノづくりの知見蓄積の3つができたとするスバル。一方で、複雑な生産体制を構築する過程ではいくつかの問題が生じたという。例えば、構造の異なる車両を同時に生産する混流技術の難しさ、部品数や取引先の増加による輸送の非合理化などだ。
例えばサスペンションの取り付けひとつをとっても、基準位置や工程順序に違いがあったという。前者は取り付け基準位置を柔軟に変更できる可動式に変更、後者はスバルの従来工順をトヨタ式に追従させることで対応したそうだ。
多様なクルマが流れてくる光景は圧巻
実際に矢島工場の完成検査部門を見ていると、約1分に1台というペースでBEVのスバル「トレイルシーカー」とトヨタ「bZ4Xツーリング」が流れてくる。仕向地が異なるのでハンドル位置も左右まちまちだ。そして、たまにICEの「フォレスター」が流れてくる。
パワートレインとしてモーターを積むBEVと同じライン上に、ガソリンタンクやマフラーを積むICEが流れてくる光景はちょっと異様だ。ICEにあってBEVにはないパーツは、ラインの端っこで取り付けるレイアウトにしてある。フォレスターの生産はまだテスト段階だというが、2026年夏頃からは本格的に混流ラインに入ってくるそうだ。
矢島工場内はスバル初のバッテリーASSY生産工場を別棟として併設している。そこで完成したバッテリーユニットは「空中回廊」のような通路で取り付け場所まで運び、ボディにマウントする。
こうした生産方式は、現在建設中でもともと「EV専用工場」として計画していたスバル大泉工場にも引き継ぎ、進化させていくという。大泉工場ではトリプルハーフ(生産工程、開発手順、部品点数を半減させる)の要となる太くて短い製造ライン、変種変量短生産ができる自動化ライン、データとAIでモノを必要な時に必要な場所へ届ける知能化構内物流を構築する。これらの施設が完成すれば、本社工場、矢島工場、大泉工場が約4kmという一本の道でつながる「モノづくりの中核拠点化」が完成する。
不確実な需要予測に頼ることなく、変化に応じて、日本でも米国でも、ICEもハイブリッド車(HEV)もBEVもフレキシブルに生産するという生き残り策。これがスバルの「生産における柔軟性の追求」なのだ。
































