一人ひとりが生き生きと働き、パフォーマンスを高めるには心身ともに健康に働ける職場環境が何より重要です。そういった社員の健康に配慮した経営を「健康経営」と呼び、近年注目されています。

そうした中、経済産業省と日本健康会議では、優良な健康経営を実践している企業を認定する「健康経営優良法人」という取り組みを行っており、「健康経営優良法人2024」ではカシオ計算機(以下、カシオ)が大規模法人部門の『ホワイト500』に認定されました。

カシオは2021年に健康経営推進チームを社内に発足、2022年には「CASIO健康基本方針」を制定し、さまざまな施策を行っています。

今回はそんな取り組みの内容について、担当者の方にお話を伺いました。

  • 左からカシオ計算機株式会社 人事部 人事グループ  健康マスター・エキスパート 風間直人氏/カシオ計算機株式会社 人事部 業務グループ 健康運動指導士 両立支援コーディネーター 健康マスターエキスパート・普及認定講師 岡野聖子氏/カシオ計算機株式会社 人事部 業務グループ リーダー 健康経営エキスパートアドバイザー 健康マスター・エキスパート 千葉繁雄氏

健康経営推進チーム発足の背景と「CASIO健康基本方針」の内容とは

――カシオ計算機では2021年に「健康経営推進チーム」を発足させ、2022年には健康経営重点目標を開示して全社で取り組んでおられます。まず、健康経営推進チームを発足させた経緯を教えてください。

風間:2021年、当社の人事部門の重要テーマのひとつとして「健康経営」が取り上げられました。当時は、人的資本投資の重要性が増していくことが予想された時期でもあり、まずベースとして従業員の健康増進と、それによるパフォーマンスの向上などを重要なHRテーマとして掲げることにしたのです。人事担当役員からは、「きちんと体制を組み、目標を明確にして取り組むように」という方針が出され、私と千葉、岡野の3名で健康経営推進チームを発足させたという流れです。

――それまでも健康経営に関する施策は実施されていたのでしょうか。

千葉:健康経営推進チームを発足する前から、人事部ではさまざまな健康に関する施策を行っていました。少し説明させていただくと、健康経営の中のひとつのカテゴリとして「労働安全衛生」という考え方があります。例えば健康診断を受けた後のフォローや、時間外労働の管理、ストレスチェックなどが労働安全衛生と呼ばれます。その労働安全衛生については、以前からしっかりと実施してきました。

ではなぜ健康経営推進チームを改めて発足したのかというと、労働安全衛生以外にも健康経営に関する課題があるからです。労働安全衛生は法令遵守の部分であって、健康経営はもっと広い概念の内容です。例えばワークエンゲージメントやプレゼンティーズム(健康の問題を抱えながら業務を行うこと)などは健康経営の取り組みです。

こうした課題に横断的に取り組むために健康経営推進チームが発足しています。

――カシオで定めている「CASIO健康基本方針」の具体的な内容について教えてください。

風間:具体的には「私たちは、一人ひとりが安心して生き生きと働き、仕事を通じて最大のパフォーマンスを発揮できる職場の環境づくりを目指します。そのために、一人ひとりが主体的に考え、健康意識の高い行動に努めます。」という内容です。

千葉:CASIO健康基本方針は健康経緯を推進する上での柱になる考え方になります。どうしてもいろいろな施策を打っていると、迷うことも出てきますよね。そんなときに立ち戻るのがCASIO健康基本方針。方針を再確認することで、何のために施策をやっているのか、どこにつながるのか見失うことがなく進行できます。

セミナー、社内相談窓口の設置、時間有給 - カシオが実践する健康経営施策

――カシオは2024年に 「健康経営優良法人2024」の『ホワイト500』に認定されました。2018年にも認定されていますが、2024年の認定では順位も上がっています。当時と現在では健康経営に関してどのような意識や取り組みの変化があったのでしょうか。

風間:2018年は、そもそも「健康経営優良法人」への参加社数がそれほど多くありませんでした。当社は当時から健康診断やストレスチェックといった各種健康増進施策はしっかりと行っておりましたので、それが評価されて2018年の認定につながったのだと思います。

それから多くの会社が健康経営に力を入れるようになり、参加社数も増加した背景もあり、当社の認定は2019年以降少し停滞していました。当社の取り組みの水準が下がったわけではなく、他社の取り組みがどんどん上がってきたという認識です。

そうした中で2021年に健康経営推進チームを発足し、改めて健康経営に求めるものを精査しました。また経営トップから全社に向けて健康経営を呼びかけました。そうやってこの2年間、しっかりと施策を積み上げてきたことが、2024年のホワイト500認定につながったのだと考えています。

――では、健康経営に関する具体的な施策についても教えていただけますか。

岡野:まず、定期健康診断の再検査のフォローです。再検査の受診率についてはもともと低かったわけではないのですが、さらに高めていくための取り組みを実施しています。対象者の上司の方にも業務上の配慮をお願いする一方、例えば勤怠上、業務扱いとしたり、受診にかかる交通費を支給したりと、再検査に行きやすい環境整備を行っています。やはり上司から言われると、職場の健康意識は上がるようですね。

次に保健指導です。中でも特定保健指導は、法律では健康保険組合が実施することになっていますが、当社ではかなり以前から共同事業として会社としても一緒に実施しています。特定保健指導の標準的なプログラムは決まっていて、対象の方と会社の看護職で3ヶ月間、食事指導や運動指導などを行っています。社外から指導いただくよりも、一緒に働いているメンバーなので身近ですし、より具体的に相談しやすいのではと思っています。

千葉:希望者の方に対する食事の補助も行っています。メタボリスクのある方に宅配の食事を提供することで、どんなものをどれくらい食べていいのかに気づいていただけるような施策です。

――食事内容を可視化してもらえるとわかりやすいですね。ただ注意を受けても、どう改善すればいいかわからないことも多いと思うので。

千葉:そうですね。この施策は従業員からも好評です。

――そのほかにはどのような施策を?

岡野:例えば女性の健康課題に対するセミナーの開催です。これは2021年の健康経営推進チーム発足時から実施してきました。3月の国際女性デーと10月のピンクリボン月間に合わせて、著名な講師にセミナーをお願いしています。「全従業員向け」「女性向け」「管理職向け」という3つのパターンを設けて、内容としては、女性特有の健康課題への理解や月経や更年期など女性の体に関する正しい知識を学べるセミナーとなっています。

千葉:女性の健康とうたっていますが、実際には男性の参加率も高いです。とくに管理職の男性はチームをマネジメントする上でも知っておくべき知識ですし、仮にチームに女性がいない場合でも、ご家族など周囲の女性について理解を深められます。セミナーについてはパートナーと一緒に見ていただけるように、社外からも聴講できる仕組みにしています。

風間:研修にも力を入れています。階層別研修やキャリア研修の中で、その年齢に合った健康課題についてレクチャーをしていますが、とくに節目になるのは、新任マネージャーに対する研修です。マネジメントする上で知っておいてほしいことのひとつとして、健康経営の考え方について取り上げるようにしています。

岡野:年齢に合わせた研修では、例えば55歳なら筋力低下・転倒予防、40代後半ならがん、30代なら歯周病といったその年代の方に関心の高い内容にしています。

千葉: さまざまな場面で「健康経営」を目にすることで、自分ごととして、当たり前なこととして捉えて頂けるようにしていきたいと考えています。

――確かに若い世代だと、健康と言われてもあまりぴんとこないかもしれません。意識を変えるためには会社からしっかりと発信する必要があるわけですね。

岡野相談窓口も設置しています。例えば病気の治療と仕事の両立支援や、女性の健康に関する相談などを受けています。社内の相談窓口を明確化することで、「ここに相談すればいいんだ」と相談しやすくなります。本人はもちろん、上司の方が相談に来ることも多いですね。「部下が悩んでいるようだけど、自分からは聞きづらいから言ってあげてほしい」とか。

――橋渡しの役割をされているわけですね。

岡野:先ほど3月と10月のセミナーについてお話ししましたが、ほかにもさまざまなイベントを実施しています。11月なら忘年会シーズンが近いのでアルコールに関する啓発、5月なら世界禁煙デーがあるので禁煙について学ぶなど、年間を通して常に何かしらのイベントを実施し、健康に関して考える機会を設けています。

千葉睡眠やアルコールに関するセミナーはとくに人気ですね。アルコールのセミナーではパッチテストで自分がお酒に強い体質か弱い体質かも調べられます。

風間:睡眠は思った以上に悩んでいる人が多いようです。セミナーの満足度も高いですし、かなり関心の高いテーマだと感じています。

千葉:睡眠時無呼吸症候群などは検査費用の補助も行っていますね。

風間:そこは福利厚生の範疇ですが、カフェテリアプランという施策を行っています。各種検査やワクチン接種などの費用補助に使えるメニューを取り揃えています。

――働き方についても柔軟な制度を設けられているそうですね。

風間時差出勤や在宅勤務など、その人の事情に合わせて勤務できる制度を設けています。介護や育児と勤務を両立するためには、柔軟な働き方が必要です。勤務開始は7時20から10時50分までの間で選択でき、早く出勤すれば早く上がれます。例えば早く上がってお子さんのお迎えをしたり、逆に遅く出勤してその前にデイサービスに送り出したりといった働き方が可能になります。

千葉:もちろん、上司ときちんと話して調整することは必要ですが、柔軟な働き方ができることで時短勤務や有給休暇をとることなく働けるのは大きな利点です。

風間:その有給休暇にしても、時間有給休暇制度を導入しています。通常は1日や半日単位でとるイメージがあると思いますが、当社では1時間単位で使えますし、1日の中で中抜けも可能です。

――プライベートで突発的に対応しなければいけないこともあると思うので、その際に必要な時間分だけ休暇が使えるのは嬉しいですね。

施策や制度の認知度を向上し、人的資本投資のKPI達成を目指す

――さまざまな制度を整えていらっしゃいますが、これらの制度を従業員の方にどうやって周知されているのでしょうか。

風間:勤務制度についてはほぼ定着していますし、セミナーで告知したり、メールを配信したり、ポータルサイトでもお知らせしたりしています。問い合わせも積極的に来るようになりました。

千葉:とはいえまだまだ周知のためのアクションは必要だと感じています。情報はポータルサイトにまとまっているので、次はそこをどう広めていくかが課題ですね。

――今後の健康経営の取り組みに関する展望を教えてください。

千葉:当社では戦略マップを設定していまして、その中でアブセンティーズムとプレゼンティーズム、そしてワークエンゲージメントの3つを重視しています。セミナーなどの施策をただ実施するだけでなく、もっと多くの人を巻き込んで参加率を高めていきたいと考えています。

風間:今後はより踏み込んだ取り組みも必要です。例えばセミナーなら一定期間でどれだけ理解度が上がったのかを定期的に確認するとか、そういった実質的な効果をあげる段階に入っていけたらと思っています。また当社では有価証券報告書の人的資本投資におけるKPIのひとつとして、健康診断の再検査受診率100%を2030年の目標に掲げています。現在は80%くらいまで来ているので、それをさらに高めたいですね。

それから最近話題に上がることの多い男性の育児休業ですが、これも100%にしたいと考えています。さらにたばこについても、現在の従業員の喫煙率は13%くらいで決して高くはないのですが、10%にしたいと思っています。どれも簡単ではないのですが、様々な施策を打つことで一歩一歩、実現に向けて取り組んでいきます。

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従業員が最大のパフォーマンスを発揮するためには、一人ひとりが生き生きと働ける職場環境づくりが重要です。健康経営に関するさまざまな取り組みが高く評価され、『ホワイト500』に選ばれたカシオ。健康経営をリードする企業として、今後の同社の取り組みに引き続き注目していきたいです。

[PR]提供:カシオ計算機株式会社