テレビを中心に数年前から話題になっていた「有機EL」。その特徴は、コントラスト比が高く視野角が広いことが挙げられる。PCにも有機ELパネルが取り入れられ、特に写真や映像クリエイター向けPCであれば、その特徴を最大限に生かすことができるだろう。
ただ、「有機ELパネル搭載ノートPCは高価」というイメージが強いのも事実。たしかにこれまでは30、40万円台といったプレミアム価格帯製品が中心だった。
しかし、マウスコンピューターのクリエイター向けブランドDAIVから登場したノートPC「DAIV 5N-OLED」は、有機ELパネルを搭載し、CPUは8コア、GPUはRTXシリーズというハイスペック機でありながら、209,800円(税別)からという価格帯を実現している。このコストパフォーマンスであれば、現役から若手まで、幅広いクリエイターのニーズを満たしてくれるだろう。
そこで今回は、「DAIV 5N-OLED」の外観から性能まで詳細にレビューしていきたいと思う。
そもそも、なぜ今、クリエイティブ向けのPCがノートなのか。近年CPUやGPUの性能が向上し、ノートPCとデスクトップPCとの性能差も、以前ほど大きく離れてはいない。最終出力段階は別として、その前段階、編集・制作などの作業については、ハイスペックなノートPCの性能で十分カバーできる。それだけPCの性能が向上したということだ。ノートPCでもCPUは最大8コア16スレッド、GPUはCGレンダリングや動画のエンコード、AAAゲームタイトルがフルHD、最高画質でも余裕で楽しめるようになってきた。これが性能面でクリエイター向けノートPCが選びやすくなってきた理由のひとつだ。
そしてもうひとつ、リモートワークやフリーアドレスなどを始めとした、昨今のワークスタイルの変化も要因に挙げられる。実際、デザイナーでも普段はリモートワーク、必要なときだけ出勤するという話を聞く。そうしたワークスタイルにおいて、PC構成は2つ考えられるだろう。ひとつは自宅用と職場用で2台のデスクトップPCを使用し、データはクラウドで同期させる方法。もうひとつは自宅でも職場でも、ハイスペックなノートPCを持ち歩き、1台ですべてをカバーしてしまう方法だ。常時使うデータは本体内なので、同期に要する時間も最低限で済む。ファイルサイズが大きいクリエイティブ用途では、同期に要する時間を無視できる後者のほうが効率的ではないだろうか。
DAIV 5N-OLEDは15.6型の4K-UHD有機ELパネルを搭載したモデルだ。サイズはW359×D258×H30.3mm、重量は約2.41kg。据え置き用途中心でデスクトップPCを代替することで、省スペースのクリエイティブ環境を実現できる高性能ノートPCだが、いざというときには持ち運びもできる。
15.6型といえば、ノートPCではスタンダードな画面サイズ。モバイル向けでは14型未満が主流だが、クリエイティブ用途となると画面情報が特に重要だ(解像度、そしてドットピッチも)。モバイル用もワンサイズ大きな15.6型でフルHD以上の高解像度は、クリエイター向けノートPCを選ぶ際の最重要ポイント。その半面モビリティはトレードオフになりやすいが、本製品はナローベゼル(狭額縁)を採用し、横幅は359mmとコンパクトに抑えられている。
奥行き258mm、厚さ30.3mmというのは、とはいってもモバイル向けノートPCと比べるとやや大きな値だ。しかし、これはストレージ搭載数やインタフェース面など、拡張性がより重視されているためだ。ただし、ポジティブな側面もある。そのひとつがディスプレイパネルのポジションだ。本製品のパネルを開くと、一般的なモバイル向けノートPCよりも少し高い位置にセットしやすい。長時間の作業でも首への負担が小さい。
写真、映像、印刷……色が重要となる業務に適した有機ELパネルを採用
DAIV 5N-OLEDの最大の特徴は、繰り返しになるが有機ELパネルだ。その特徴は冒頭で述べたとおりで、特に色表現が求められる用途にマッチしている。これは有機ELテレビと同じうたい文句なのでご存知の人も多いだろう。
パネルスペックとして公開されているのは、解像度が3,840×2,160ドット(4K)、グレアコーティング、そしてDCI-P3比カバー100%だ。sRGBよりも広色域のDCI-P3比で100%というのは、従来の液晶パネルモデルでは達成するのがなかなか難しい数値といえるだろう。ただしスペック情報だけでは実感しづらい面もあるので、ここは同社の液晶パネル搭載クリエイター向けモデル「DAIV 5N」を用意し、並べた状態で比較をしてみよう。
なお、DAIV 5Nは今回のDAIV 5N-OLEDとは標準構成のスペックもほぼ似通っているが、大きく異なるのはサイズ・重量・液晶パネルだ。 DAIV 5Nが本体サイズ355.5×236.7×19.9、重量1.17kg、液晶にフルHDを採用しているのに対して、DAIV 5N-OLEDは359×258×30.3、重量2.41kg、液晶に有機ELパネル4K-UHDグレアを採用、ほかインタフェースにも多少差がある。
モビリティを重視しているDAIV 5Nと比べ、DAIV 5N-OLEDは拡張性や有機ELパネルを採用による機能性を重視しているのが特徴だ。この点でターゲットニーズが異なることをお断りしておく。
さて、両者を比べるにあたり、有機ELなのだから色は相当いいのだろうと思いつつも、コントラスト以外はそこまで大きく違うことはないだろうと思っていた。比較対象もクリエイター向けのDAIV 5Nということもあって、有機ELではないにせよ、優れた発色だと感じていた。しかし一度有機ELパネル、それもDCI-P3比100%を体感してしまうとやはり異なる。(※「DAIV 5N」のレビュー記事はこちら)
注目してほしいのは赤、黒、黄色だ。この比較で最も印象的だったのが、赤色の発色かもしれない。液晶パネルとはいえ、クリエイター向けモデルの比較的よい発色のパネルと比較しても、有機ELパネルの鮮やかさは一段上に感じられた。RGB各色の発色が鮮やかとされる有機ELパネルだが、この赤、そして黄色(赤+緑)の色味の違いは印象的だ。なかでも、光の表現で重要なのが黄色。サンプルに用いた写真は黄色というよりも金色や木目色が写ったものだが、金属的な光沢、鮮やかさという点で、有機ELパネル搭載DAIV 5N-OLEDのほうが印象的で実物により近く感じられる。
そして黒。黒は液晶パネルが不得意とする表現であることは知られている。通常の液晶パネルでは、液晶素子が白色バックライトの光を遮ることで黒を再現する。このとき、たとえ黒に強いVAパネルといえどわずかに光が漏れ、漆黒を再現することは難しい。しかし、有機ELパネルは自発光方式なので、電圧がかからない部分は文字通り漆黒の表現が可能だ。