データの窃取や改ざん、サービス妨害、ランサムウェアなど、さまざまなサイバー攻撃が起きている現在、あらゆる「モノ」を作る上でセキュリティが不可欠になっている。それは何も、WebサービスやアプリといったIT関連のモノ作りだけの話ではない。センサー類を組み合わせたIoTや、物理的な「モノ」の製造を支える生産管理システム、流通システムなど、ありとあらゆるモノ作りの現場において、セキュリティを意識した企画・設計・実装が必要な時代になりつつある。

そんな潮流を踏まえ、身近な場でも求められている「何かのためのセキュリティ」を支えるスキルと倫理観を持った若者を発掘し、興味を伸ばしていくきっかけとして実施されているのが「セキュリティ・キャンプ」だ。

年に1回、4泊5日の合宿形式で実施されるセキュリティ・キャンプ 全国大会は、10年以上にわたって行われてきた。受講者はのべ500人を超え、修了者のなかからは大学院でセキュリティ研究に携わる人や、実際にセキュリティサービスを提供する企業に入社し、解析や監視業務に携わる若手エンジニアも誕生している。

しかし、まとまった期間家を離れるのは難しかったり、興味はあるものの具体的な内容がわからないことから二の足を踏んでいたりする学生も少なくない。そこで2012年度から実施しているのが、「地方大会」(セキュリティ・ミニキャンプ)だ。北は北海道から南は沖縄まで、毎年全国数カ所で、その地域の企業や警察、自治体などの協力を得ながら行われ、全国大会のエッセンスを伝えてきた。

本稿では、そんな地方大会が目指す「次のステップ」とともに、6月30日、7月1日の2日間にわたって開催された「セキュリティ・ミニキャンプ in 近畿」の模様についてお届けしよう。

地域コミュニティの形成・エンジニア地産地消のきっかけに

セキュリティ人材育成を求める声の高まりを背景に、セキュリティ・キャンプ自体の知名度は向上してきた。「これをベースに地方大会もそろそろ次のステップを目指し、地域で喜んでもらえる場にしたい」と語るのは、セキュリティ・キャンプ企画・実行委員で地域ワーキンググループを担当する佳山こうせつ氏だ。

セキュリティ・キャンプ企画・実行委員で地域ワーキンググループを担当する佳山こうせつ氏

同氏には、地方大会を「地域に根ざした、セキュリティについて学べる場」としてだけでなく、時には若者同士が明るく相談し合えるようなコミュニティの形成にまでつなげたいという想いがある。

「アンケートを取ってみると、半数以上が『地域でセキュリティを学べる場がない』と答えています。これはやはり、地域の課題として『道場不足』があるのではないでしょうか。『優れた人材の背中を見せ、育てる』という今までのセキュリティ・キャンプのいいところを生かしながら、地域で若者を育み、応援する場を作っていきたいと考えています」(佳山氏)

佳山氏は、そうして出来上がったコミュニティが、各地域に根を張る企業や教育機関にとっても有用な場になることにも期待を寄せる。

「コミュニティで得た知見を地元に持ち帰ったり、講師となって広めたり、さらにはここで育った人間がそのまま地元の企業に就職し、次の世代の活動を応援していってほしいと思っています」(佳山氏)

時に、ダークサイドに落ちそうな仲間がいれば手を差し伸べ、食い止める――ミニキャンプをそんな場の形成につなげることが目標だという。

佳山氏は「地元育ちのエンジニアが地元で活躍する『地産地消』のサイクル作りを、産官学が連携した『共助』を通じて後押ししていきたい」と力強く語った。