前編に続いて、VAIO X誕生の裏表についてソニーの林氏と星氏に聞いていきたい。まずは、通常と違うという開発の経緯だ。

ソニー株式会社 ネットワークプロダクツ&サービスグループ VAIO事業本部 第1事業部 1部 1課 統括課長 林 薫氏(左)と、同 企画戦略部門 企画部 PC&Peripheral課 星 亜香里氏(右)

VAIO Xは、マーケティングや企画戦略が起点となる通常のVAIOシリーズとは異なり、設計側から「こういう物を作ってみたくて、こういう物を商品化させてほしい」(林氏)と提案して生まれた。だから、カテゴリありきで作る必要がなく、完成した後も無理に枠にはめる必要はなかった。普通におとなしく生きてきただけなのに、ある日突然、草食系男子といわれる筋合いがないようなものだ。

林氏は「こうした経緯で開発したモデルは、VAIOノートC1や505あたりまでさかのぼります。黎明期の頃はやっていることすべてが提案みたいなものでしたからね。VAIO Xの場合、私の中に『紙のノートのような存在感のPCを作りたい』という思いがずっとあって、勝手に設計チーム内で有志を募ってモックまで作ったんですよ。その段になって初めて社内で提案して、Goサインをもらえるまでこぎつけたという感じです。ちょうど、同時期にマーケティングからの提案をもとにVAIO type Pを開発していました。PとXは仕様は似ていても作った経緯が違うんですよね」と振り返る。

モックの時点でキーボードの配置やボディの厚みなどのおおよそのデザインは固まっていた

では、なぜリリースがこのタイミングだったのか。「2008年の春頃に登場したAtom Zが非常に魅力的だったんです。モバイル機に必要な性能を確保しつつ消費電力が低いというAtom Zの特性を生かせば、VAIOノート505の頃から僕らが理想としていたノートPCが作れるんじゃないかと。加えて、同時期にSSDが安くなり、従来よりも軽量で形状の自由度が高いリチウムイオンポリマーバッテリーが実用的になったのが大きいですね。そして、我々にはこれまで培ってきたカーボン素材の成形技術やLEDバックライト液晶もあります。偶然にもそうした要素が組み合わさったことで、僕らのなかで本格的にプロジェクトが始動したわけです」(林氏)

VAIO Xのイメージの原点となった厚めのノート(左)と、VAIO Xのモック

それは、圧倒的閃きっ…!! そして、圧倒的至福っ…! 林氏は文具店で手頃な厚さの紙のノートを購入し、有志とイメージを共有。議論を重ねて完成したモックは、製品版のVAIO Xに非常に近いものだった。フルフラットで厚みはおよそ14mm。この筐体で10時間稼働するPCのイメージが企画を通す以前、Windows 7の一般販売開始よりも数ヶ月前に完成していたという。