スマートフォンは今や情報検索や友人とつながるコミュニケーションツールとして使うだけではなく、日々の決済にも使用するお財布代わりになっています。電車に乗るときに改札口でスマートフォンをタッチして入場することも当たり前になりました。とはいえスマートフォンをかばんから取り出すのは面倒なもの。Apple Watchなど決済機能が搭載されたスマートウォッチなら、腕をかざすだけで入場できます。

このように便利なモバイル乗車券、どちらの方法もICカードリーダーにモバイル端末をかざす必要があります。しかしそんな日々の光景が過去のものになろうとしています。韓国でICカード事業を展開する「T-Money」は、7月18日から「T-moneyタッチレス決済」の先行サービスを開始します。

T-Moneyは日本のSuicaに相当するサービスで、韓国ではだれもが持っている非接触型ICカード。今ではスマートフォンにも対応しており、韓国でも自動改札でスマートフォンをかざすことは当たり前になっています。韓国旅行に行ったことのある人なら、駅の自動販売機でT-moneyカードを買ったことのある人もいるでしょう。

  • 韓国版SuicaのT-money。ICカードはクレジットカード提携版や観光客向けもある

このT-moneyが開始するタッチレス決済は、スマートフォンを改札口にかざすことなく電車に乗車できるシステムです。スマートフォンにはあらかじめタッチレス決済に対応したT-money Payアプリをインストールしておきます。改札口にはBLE(Bluetooth Low Energy)のセンサーが組み込まれており、アプリを入れたスマートフォンを持った乗客が改札を通るときに検知し、その場で決済がワイヤレスで行われるのです。BLEはたとえばお店のそばに来たお客さんのスマートフォンに、お店のお買い得情報を直接送信する、といった機能がすでに実用化されています。通信距離は10m程度なので、改札口にスマートフォンをタッチせずとも、かばんやポケットの中に入れたままで感知されます。

  • スマホを出さずに改札口を通れるタッチレス決済

今回先行サービスされるのは「ソウル軽電鉄牛耳新設線」「仁川都市鉄道2号線」の2路線。まずはソウル近郊の路線でテストを行い、その結果をもとに大都市中心部にも広げていくようです。ソウル中心部の地下鉄は東京のように混雑しあいますから、朝夕のラッシュ時は人が連なるように改札口へ殺到します。どの程度連続した人をさばけるかどうか、システムのテストを行うためにも郊外路線が選ばれたのでしょう。

  • ソウル市北部を走るソウル軽電鉄牛耳新設線

タッチレス決済のメリットは両手がふさがっていても改札口を通ることができることです。荷物が多い時だけではなく、小さなお子さんと一緒の親御さんも改札の前で一旦かばんからスマートフォンを出したり、あるいは抱えているお子さんを下ろして腕のスマートウォッチをタッチする、という必要もなくなります。急いで駅まで向かったけど、かばんの中のどこにスマートフォンを入れたか、あわてて探す、ということも不要になるのです。改札口の前で立ち止まることが無くなれば、スムーズな入場が可能になります。

またT-moneyはこのタッチレス決済をバスの乗車にも広げる予定とのことです。電車の駅なら改札口は複数あるので1つの改札口で渋滞が起きることはほとんどありません。しかしバスは乗降口は1つずつであり、乗り降りの運賃支払い時にどうしても人の流れが詰まってしまうこともあります。タッチレス決済であればバスの乗降時間も早くなり、バス停での停車時間の低減から定時運行や道路渋滞の解消も期待できるわけです。

  • タッチレス決済はバスの乗車にも便利だろう(写真:visitkorea.or.kr)

また日本でも最近見直されているライトレール(都市型路面電車)への応用もできるでしょう。ヨーロッパなどではライトレールは信用乗車、すなわち改札口は無く、自動販売機で切符を買って乗車、あるいはホームにあるICカードリーダーにICカードをタッチして乗車するシステムが普及しています。しかし不正乗車へは抜き打ちの検札と高い罰金での対応に留まっています。そこでタッチレス決済システムを車両のドアに設置すれば、乗客は乗降時に何もすることなく電車に乗ることができるようになりますし、不正乗車の減少につながります。

とはいえタッチレス決済もまだ完ぺきではありません。スマートフォンの電源が切れていた場合や、スマートフォンを忘れてしまった場合、改札口でいきなりドアが閉まったり、ドアのない改札ならばすり抜けてしまう恐れもあります。スマートフォンのタッチであれば、たとえば残金が足りなければ警告も鳴りますから、その場で立ち止まれますが、タッチレス決済の場合は文庫本を読みながら改札を通過しようと思ったら、いきなりドアが閉まってぶつかってしまう、なんてことも起こりうるわけです。

昨今ではQRコードを使った乗車システムの普及も始まっていますが、スマートフォンをかざすという点ではICカード方式と利便性はそう変わりません。タッチレス決済乗車の実用化がいつになるのか、T-moneyの動きに注目したいところです。