最近ではスマートウォッチに関わる大きなニュースはあまり聞かれなくなりました。機能強化は一段落し、消費者も高性能化は求めなくなりつつあります。むしろブランドとのコラボウォッチが多数出てくるなど、腕時計市場と似たような動きも見せています。
世界のスマートウォッチのシェアをみると、1位は言わずもがなのAppleの「Apple Watch」。カウンターポイントの調査によると、2019年第1四半期の世界のスマートウォッチ市場でAppleはシェア35.8%で、2位以下を大きく引き離しダントツの1位でした。2位はサムスンの11.1%ですから、Apple Watchが圧勝しています。しかし3位以下の順位を見ると面白い結果になっています。
ウェアラブルデバイス全体の市場では、新興スマートフォンメーカーのシャオミの「Mi Band」の売れ行きが良くAppleに次ぐ2位につけています(IDC調査)。シャオミはスマートウォッチ型の製品も出していますが、ウェアラブルデバイスでは低価格なMi Bandが圧倒的に売れています。つまりシャオミはスマートウォッチだけの市場で見ると、まだ存在感は今一つなのです。
ではApple、サムスンに次ぐスマートウォッチで3位のメーカーはどこなのでしょうか?それはImooです。聞いたこともない名前かもしれませんが、主に東南アジアでスマートウォッチを展開しています。しかも驚くべきことに、Imooのスマートウォッチは子供向けの製品だけなのです。
Imooは実は中国の歩歩高(BBK)のブランドです。BBKは中国ではImooブランドの教育用タブレットなどを出しており、スマートウォッチは「小天才」のブランドで展開しています。そしてBBKといえばスマートフォンのOPPO、Vivoの親会社ともいえる存在。つまりスマートフォン市場で気が付けば中国や新興国でシェアを高めていったOPPO、Vivoのように、スマートウォッチ市場でもImoo/小天才がいつのまにかシェアを伸ばしていたのです。しかも大人向けの製品無しでこの結果を出しているのです。
子供用のスマートウォッチは日本でもいくつか登場していますが、BBKの製品はそれらとそん色のない品質で子供たちが毎日使っていてもすぐには壊れません。防水対応はもちろんのこと、LTE対応で単体通信できる製品もあります。さらにはカメラを搭載してビデオ通話や、緊急時に付近の写真を撮って親のスマートフォンに自動送信する、といった機能をもつものもあります。Imoo/小天才「Z5」のカメラは500万画素で、かなりきれいな写真も撮影できます。
実際に中国へ行ってみると、スマートウォッチをした子供をよくみかけます。一見するとカラフルな腕時計に見えるのでただの時計かな? と思えるのですが、その時計に向かって話しかける姿を多くみるなど、彼らが腕にはめているのはスマートウォッチなのです。
中国では2015年あたりから子供向けのスマートウォッチが次々と生まれました。一人っ子が多いことや共稼ぎも当たり前ななかで、子供の防犯のためにスマートウォッチを買い与える親が増えていったのです。リストバンド型のウェアラブルデバイスではなかったのは、品質のいい製品が無かったからでしょう。しかし子供向けスマートウォッチも当初は品質が悪く、すぐに壊れるものが多くありました。
やがて防水機能の強化や壊れにくい素材・デザインの採用、さらにチップセットの機能アップにより当初は2Gにしか対応しなかった通信機能も4Gに変わっていきます。電池も長持ちするようになってからは、日々の充電が必要とはいえ1日は持つので普通の腕時計代わりに使える製品になっていきました。クアルコムが2018年にリリースしたスマートウォッチ向けのチップセット「Snapdragon Wear 2500」も、4G常時接続機能を搭載するなど、Android Wearではなく子供向けスマートウォッチに特化しています。
カウンターポイントの調査を見ると、スマートウォッチだけではファーウェイのシェアはまだ低く3%程度。そのファーウェイも中国ではディズニーとコラボしたスマートウォッチも販売しています。キャラクターのライセンス料だけでもかなり高価ですが、子供向けスマートウォッチ市場が大きなビジネスになると判断しているわけです。
中国のウェアラブルデバイス全体の市場規模は、IDCの調査によると約2,000万台(2019年第1四半期)。順位はシャオミ、ファーウェイ、Apple、BBK、五洲無線。BBKの台数は約150万台ですが、その全量がスマートウォッチです。シャオミとファーウェイはリストバンド型の製品が強いため、スマートウォッチだけで見ればおそらく1位Apple、2位BBKになるでしょう。
スマートフォンで好調なOPPOとVivoは、次から次へと新しい機能を持ったカメラフォンをリリースしています。他のメーカーとは異なり、スマートフォン以外の製品展開は行っていません。しかしジュニパーリサーチはスマートウォッチ市場が2023年に1,600万台規模まで拡大すると予想しています。OPPOのスマートフォンに他社のスマートウォッチをつないで使ってもらうというのはもったいないことです。
ポストスマートフォンとしてOPPOとVivoが、BBKのスマートウォッチの開発ノウハウを活用して若者向けのスマートウォッチを展開する、そんな日が遠からず来るかもしれません。スマートフォンで驚く製品を出してきた両社だけに、スマートウォッチもかなり面白いものを作ってくれるのではないだろうかと筆者は期待してしまうのです。